2020-10-14 国立がん研究センター
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)がん対策情報センター(センター長:若尾文彦)は、厚生労働省からの委託を受け、わが国のがん対策の評価、方向性の検討に活かすため、がん患者さんの診療体験、療養生活の実態を把握するための全国調査を実施しました。この調査は2014年度に行われた調査に引き続き2回目となります。
わが国のがん対策は、2007年にがん対策基本法が施行され、それに基づくがん対策推進基本計画にそってさまざまな施策が行われてきました。しかし、進捗評価なくして施策の成否を判断することはできません。そこで、2012年に閣議決定された第2期がん対策推進基本計画から、がん対策を評価する指標を策定し、進捗評価を行っていくことが盛り込まれ、2014年度に第1回目の患者体験調査が実施されました。2017年度より第3期がん対策推進基本計画が施行され、2021年度に実施予定である中間評価に向むけて、2回目の患者体験調査を実施しました。
<図1>グループ別回答結果の比較
患者体験調査報告書 平成30年度調査
国立がん研究センターがん対策情報センター 厚生労働省委託事業
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全文
各章のダウンロード
- はじめに
- 第1章:総括
- 第2章:報告書の編集方針
- 第4章:回答者の特性と母集団の比較
- 第5章:調査結果報告
1.治療開始前までの体験
2.治療中の体験
3.就労・経済
4.社会的状況
5.がんと診断されたときからの緩和ケア - 第6章.巻末資料
参考資料
本調査と結果のポイント
- 第3期がん対策推進基本計画に掲げられる全体目標のうち、「患者本位のがん医療の実現」「尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築」に関する質問を設定し2019年度に調査実施。
- 質問紙の評価、結果をまとめる際に、がん患者、がん対策研究者、医療者等からご協力をいただいた。
- 参加施設総数は166施設(院内がん登録実施施設(注:1))、総計20,488人に対して調査票を発送。回収数8,935人(回収率43.6%)うち7,080人が解析・報告の対象。
- これまで受けた治療に納得している人は77.3%。
- 専門的な医療を受けられたと思う人は78.7%。
- 医療の質を総合的に評価する問いに対し、評価結果は7.9点(0から10点評価)。
- 治療開始前にセカンドオピニオンについて担当医から話があった人 は34.9%。
- 40歳未満の男女において、治療開始前に妊孕性への影響に関して医師から説明があった人は52.0%。
- がん診断時に収入のある仕事をしていた人のうち、治療開始前に就労の継続について医療スタッフから話があった人は39.5%。
- がん患者の家族の悩みや負担を相談できる支援・サービス・場所が十分あると思う人は47.7%。
- AYA世代(注:2)と呼ばれる若年がん患者(本調査では19から39歳に設定)において、経済面、就労、医療者との関係構築や対話などの点から、困難な状況に置かれていることが推察された。
調査対象者
全国の院内がん登録実施施設(注:1)より無作為に選ばれた166施設において、2016年に受診した19歳以上の患者さんから約120名ずつを抽出、総計20,488人に対して調査票を発送しました。比較のため、2013年に診断された患者さんや同時期にがん以外の良性腫瘍や他の疾患で受診した患者さんを含めています。
調査質問項目
第3期がん対策推進基本計画の全体目標のうち、「患者本位のがん医療の実現」「尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築」に関する質問を設定しました。質問紙の評価、結果をまとめる際に、がん患者さん、がん対策研究者、医療者等からご協力をいただきました。
主な質問は、治療前の情報提供、診断・治療のタイミング、必要な情報の入手・経過の見通し、医療者とのコミュニケーション・連携、痛みのスクリーニング、経済的な負担、就労支援、社会的なつながり、相談支援・知識、現在の症状と支援など。
調査方法
- 無記名、選択式の自記式質問紙による任意回答調査(回答が「その他」の場合、一部記述あり。また、自由にご意見、ご感想を記載いただける欄も設けた)
- 調査期間中に調査票を順次発送、回収
調査期間
2019年1月から7月
調査票回収結果
回収数は8,935人(回収率43.6%)。
今回の報告書では、がん患者7,080人が解析・報告の対象(表1参照)。
解析結果
医療の質を総合的に評価する質問に対し、結果は以下のとおりでした。
- 総合的な評価結果は7.9点(0から10点評価)(問23)
- 納得のいく医療選択ができた人は79.0% (問15の2)
- 専門的な医療を受けられたと思う人は78.7% (問20の8)
- これまで受けた治療に納得している人は77.3% (問20の10)
総合点は低くないが、その一方で課題も一定程度存在することが明らかになりました。
医療者からの積極的な働きかけについては、以下の現状があげられます。
- 治療開始前にセカンドオピニオンについて、担当医から話があった人 は34.9%、実際に受けた人は19.5%(問13、14)
- 40歳未満の男女において、治療開始前に妊孕性への影響に関して医師から説明があった人は52.0%、実際に妊孕性温存の処置をおこなった人は8.9%(問16、17)
- がん診断時に収入のある仕事をしていた人に対して、治療開始前に就労の継続について医療スタッフから話があった人は39.5%(問28)
- 身体的なつらさ、または心のつらさを、すぐに医療スタッフに相談できると思う人はそれぞれ46.5%、32.8%(本人回答のみ)(問35の5、35の6)
また、患者へのさらなる周知に関しては、以下の項目があげられました。
- がん相談支援センター、ピアサポートの認知度はそれぞれ66.4%、27.3%(問31、32)
- 臨床試験、ゲノム医療の認知度はそれぞれ39.7%、17.0%(問33、34)
患者だけでなくそれをとりまく家族や周囲の環境づくりに関しては以下の項目です。
- 家族の悩みや負担を相談できる支援・サービス・場所が十分にあると思う人は47.7%(問30の2)
- 職場や仕事上の関係者から治療と仕事を両方続けられるような勤務上の配慮があったと思う人は65.0% (がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ)(問26)
- 治療と仕事を両立するために社内制度を利用した人は36.5%(がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ)(問27)
解析結果を受けて
解析の結果、治療選択やこれまで受けた治療に納得している人および専門的な医療を受けられたと思う人が約8割と、全体としての満足度は低くはないものの、がん対策で課題とされているセカンドオピニオン、妊孕性、就労継続について情報提供が十分に行われていないことや、がん相談支援センター、ピアサポートの認知度など、支援体制に関して課題が残されていることが明らかになりました。
すべての質問の解析において、【A:希少がん患者】【B:若年がん患者】【C:一般のがん患者】の3グループに分けて分析を行いました。その結果、【B:若年がん患者】いわゆるAYA世代(注:2)(本調査では19から39歳に設定)のグループにおいて、経済面、就労、医療者との関係構築や対話などの点から、他のグループと比べてより困難な状況に置かれていることが推察されました。特徴的なのは、経済的な負担により治療を変更または断念した割合が11.1%と一般がん患者(4.8%)の倍となっており、その半数以上が何らかの生活への影響を訴える結果となった点があげられます。また、医療スタッフとの関係構築において、十分な対話ができた人は57.8%と低く、身体的なつらさがある際に相談できた人も36.2%と、他のグループに比べて低い結果でした(図1参照)。なお、がん患者全体における男性の占める割合は52.1%と女性よりも若干多いのに対して、【B:若年がん患者】では女性が8割であることは解釈において考慮すべき点ではあります。
今回は2回目の調査ということもあり、より回答しやすい質問紙にするため質問表現などの修正を行ったこと、また前回は肯定的な回答に分布の偏りがみられたため、肯定側回答を2つから3つに分散させるなど回答選択肢も変更しています。報告書の本文中ではその影響を補正推定した値を算出し前回との比較を行っていますが、あくまでも参考値でありその解釈は慎重に行う必要があります。
今後も調査を行うことで、経年的にエビデンスを蓄積し、継続した評価体制を維持することが、がん医療発展にとって重要になると考えます。
用語の解説
注:1)院内がん登録実施施設:指定要件で院内がん登録を実施している、都道府県がん診療連携拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院の他、院内がん登録を実施しており、2016年全国集計報告書に参加した778施設を含む。
注:2)AYA世代:Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)のことをいい、15歳から39歳の患者さんを指します(注:本調査では19から39歳に設定)。患者さんも中学生から社会人、子育て世代とライフステージが大きく変化する年代であり、患者さん一人ひとりのニーズに合わせた支援が必要とされています。
報道関係からのお問い合わせ先
患者体験調査について
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター がん臨床情報部
東 尚弘、渡邊 ともね、市瀬 雄一、松木 明、今埜 薫、西川 百合子
その他全般について
国立研究開発法人 国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
担当:がん登録センター 高橋 ユカ