大脳基底核の神経細胞が運動のコントロールに関する情報を伝えるしくみを解明

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2020-10-20 生理学研究所,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

自然科学研究機構生理学研究所の南部篤教授らのチームは、合図によって標的に手を伸ばす運動を行う際に大脳基底核が運動の情報を伝えるしくみを、ニホンザルを用いて明らかにしました。

概要

大脳基底核1)は、運動をコントロールする役割を果たしており、大脳基底核が不調を来たすとパーキンソン病などにみられるように、重篤な運動の障害が生じます。しかしながら、健常時に大脳基底核がどのように運動に関する情報を伝えるのか、その詳細は分かっていませんでした。

今回、自然科学研究機構生理学研究所のWoranan Wongmassang研究員、長谷川拓研究員、知見聡美助教、南部篤教授らのチームは、合図によって標的に手を伸ばす運動を行っているニホンザルの神経細胞の活動を調べました。

その結果、大脳基底核の神経細胞は主に、活動を増大させたり減少させたりという『活動量変化』によって運動に関する情報を伝え、複数の神経細胞が同じタイミングで活動する『同期活動』の果たす役割は非常に小さく、ほとんどの神経細胞が独立に活動していることを明らかにしました。本研究成果は、European Journal of Neuroscience誌オンライン版で公開されています。

研究の背景

大脳基底核は運動をコントロールする役割を果たしており、大脳基底核が不調を来たすとパーキンソン病などにみられるように、重篤な運動の障害が生じます。大脳基底核がどのように情報を伝えるかを知ることは、運動障害のメカニズムを知るためにも非常に重要です。

一般的に、脳の神経細胞は活動を増大させたり減少させたりという『活動量変化』によって必要な情報を伝達しますが、複数の神経細胞が同じタイミングで活動する『同期活動』も情報伝達において重要な役割を果たすことが知られています。実際、パーキンソン病などの病気の際に、大脳基底核の多くの神経細胞が同期した活動を示します。しかしながら、健常時に大脳基底核が『活動量変化』と『同期活動』をどのように使って運動に関する情報を伝えるのか、わかっていませんでした。

研究手法と成果

研究チームはまず、合図によって標的に手を伸ばす運動課題を行うようにニホンザルを訓練しました。そして大脳基底核のうち淡蒼球2)と呼ばれる領域の中で、大脳皮質運動野の手の領域から入力を受ける場所を調べ、16箇所の記録部位を持つ電極を挿入して複数の神経細胞の活動を同時に記録しました(図1)。

図1.(A)ニホンザルに行わせた標的に手を伸ばす運動課題。サルがホームポジションに手を置いて待っていると、左右いずれかのLEDが点灯する。点灯したLEDに手を伸ばすと報酬を得ることが出来る。(B)実験の模式図。16箇所の記録部位を持つ電極を大脳基底核の淡蒼球と呼ばれる領域(灰色部分)に挿入し、神経細胞の活動を同時に記録した。大脳皮質の運動野に電気刺激を加えて応答を調べることにより、運動野の手の領域から入力を受ける神経細胞であることを確認した。(C)神経活動を記録した例。この例では13番目と16番目の電極で良好な記録が得られている。

その結果、サルが運動課題を行っている際、記録した淡蒼球の神経細胞の大部分は、手を伸ばす際に活動量を増やしたり減らしたりしており、『活動量変化』を伝えていることがわかりました。一方、課題を行っている際に活動量の変化を示す2つの神経細胞同士が同じタイミングで活動しているかどうか、すなわち、『同期活動』を示しているかを調べたところ、同期した活動を示す神経細胞のペアは非常に少なく、ほとんどの神経細胞が独立に活動していることが明らかになりました(図2)。これらの結果は、大脳基底核は主に『活動量変化』によって運動に関する情報を伝達し、『同期活動』の果たす役割は非常に小さいことを示しています。

図2.実験結果のまとめ
淡蒼球のうち、大脳皮質運動野から入力を受ける場所にある神経細胞のほとんどが、運動課題遂行中に活動量の増減を示した。一方、同期活動を示す神経細胞のペアは非常に少なく、ほとんどの神経細胞が独立に活動していた。このことから、大脳基底核は主に『活動量変化』によって運動に関する情報を伝達し、『同期活動』の果たす役割は非常に小さいことが示された。

パーキンソン病などの病気の際には、大脳基底核の多くの神経細胞間で同期活動が生じることがわかっています。今回の結果は、運動を正しくコントロールするためには、大脳基底核の神経細胞が同期せずに独立して活動する必要があることを示しています。

研究成果の意義、今後の展開

大脳基底核は運動をコントロールする役割を果たしており、大脳基底核が不調を来たすとパーキンソン病などにみられるように、重篤な運動の障害が生じます。パーキンソン病などの病気の際には、大脳基底核の多くの神経細胞が同期した活動を示します。今回の成果により、正常な大脳基底核が運動に関する情報を伝達する際には、同期活動を示さず独立に活動することが示されました。

この結果は、同期活動を減らすことによってパーキンソン病などの症状を改善できる可能性を示し、効果的な治療方法の開発にもつながるものと期待できます。

用語解説
1)大脳基底核
大脳の深部にある神経細胞の集団。大脳皮質の活動を調節することによって運動をコントロールする役割を果たす。大脳皮質から信号を受け取り、情報処理を行った後の出力を、視床と呼ばれる脳部位を介して大脳皮質に戻すことによって働く。大脳基底核に異常が生じると、パーキンソン病、ジストニア、チックなどの様々な運動障害が生じる。
2)淡蒼球
大脳基底核の一部。外節と内節に分かれる。淡蒼球外節は、大脳基底核内における情報伝達を担うのに対し、淡蒼球内節は、大脳基底核の出力部として、出力信号を視床に送る役割を果たす。
掲載論文
論文タイトル
Weakly correlated activity of pallidal neurons in behaving monkeys
著者名
Woranan Wongmassang, Taku Hasegawa, Satomi Chiken, Atsushi Nambu
雑誌名
European Journal of Neuroscience
DOI
10.1111/ejn.14903
本研究の支援

本研究は文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究「オシロロジー」)、AMED「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)の補助を受けて行われました。

お問い合わせ先

研究について
自然科学研究機構 生理学研究所 生体システム研究部門
教授 南部篤(ナンブアツシ)

AMED事業について
日本医療研究開発機構 疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課
戦略的国際脳科学研究推進プログラム

医療・健康生物化学工学
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