緑内障治療薬開発のためのイメージングシステムの開発

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カルパイン活性を生体内で検出するための新規蛍光プローブ

2020-11-30 東北大学大学院医学系研究科,東北大学病院,日本医療研究開発機構

研究のポイント
  • 本邦での失明原因疾患第1位の緑内障注1に対して、従来の眼圧下降治療法とは別の、新規治療薬の開発が求められている。
  • 網膜神経節細胞死を抑制するカルパイン注2に対する阻害薬が、新しい神経保護治療薬として開発が進められている。
  • ヒトの網膜細胞におけるカルパイン活性を検出する蛍光プローブを用いた、生体内イメージングシステムを開発した。カルパイン阻害薬による神経保護治療のコンパニオン診断薬注3として実用化が期待される。
研究概要

緑内障は、網膜神経節細胞が障害されて視野が狭くなる、本邦で失明原因第1位の疾患です。東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授らのグループは、緑内障に対する新規治療薬の開発へ向けて、網膜の細胞死に関与するタンパク質であるカルパインの生体内イメージングシステムを開発しました。本研究において、新規開発した蛍光プローブと臨床で使用されている眼底画像装置を用いて、生体の網膜細胞でカルパインの活性化を初めて明らかにしました。また、本イメージングシステムは、神経保護治療薬として開発中のカルパイン阻害薬の治療効果も評価可能で、コンパニオン診断薬として有用性を示した重要な報告です。本研究成果は、緑内障を始めとする網膜神経保護治療薬の開発に大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2020年9月16日Bioconjugate Chemistry誌に掲載されました。

研究内容

緑内障は、網膜神経節細胞が障害されて視野が狭くなる疾患です。40歳以上の緑内障有病率は5.0%とされ、失明原因第1位の疾患となっています。緑内障の治療として、手術や投薬による眼圧下降が有効ですが、眼圧下降のみでは治療効果が十分に得られず、病状が進行する場合も少なくありません。我々は、緑内障治療に対する新たなターゲットとして、網膜神経節細胞死を誘導するカルパインというタンパク質に着目してきました。しかしながら、様々な要因が影響している緑内障において、カルパインがどのように関与するのか十分に明らかとなっていません。そこで、生体における網膜神経節細胞のカルパイン活性の評価手法として、新たな生体内イメージングシステムを開発しました。

今回、東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、浅野俊文(あさのとしふみ)助教、津田聡(つださとる)助教らのグループは、東京大学大学院医学系研究科生体情報学分野の浦野泰照教授らのグループとの共同研究により、カルパイン活性検出蛍光プローブとしてAcetyl-L-leucyl-L-methionine-hydroxymethyl rhodamine green(Ac-LM-HMRG)を開発しました。

まず、このAc-LM-HMRGを薬剤(NMDA)誘導緑内障ラットモデルの眼球に注射し、臨床で使用されている共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡で眼内を撮影しました。つぎに、網膜神経節細胞において、薬剤誘導網膜障害によって誘導されたカルパイン活性を、蛍光として観察し、その細胞数を定量的に計測できることを確認しました。また、このカルパインが活性化して蛍光上昇した網膜細胞の数が、カルパイン阻害薬を使用することで大幅に減少することも計測できました(図1)。Ac-LM-HMRGを用いた生体内イメージングはカルパイン阻害薬の適応や治療効果を判定するためのコンパニオン診断薬としての有用性が示唆されました。

図1.Ac-LM-HMRGによるカルパイン活性化細胞の生体内イメージングとカルパイン阻害薬による治療効果の評価

  1. ラットNMDA網膜障害(NMDA)群又は対照(PBS)投与群の蛍光陽性細胞の生体内イメージング。さらに、NMDA網膜障害前にカルパイン阻害薬SNJ-1945を投与したラットにおける蛍光陽性細胞の生体内イメージング。白い矢印が蛍光陽性細胞を示す。
  2. 蛍光陽性細胞数を計測しグラフにしたものを示す。データは平均±SD(n=7)として示す。**P<0.01でNMDA投与群に対して有意差あり。
結論

本研究によって生体内カルパイン活性の評価が可能となったことで、神経保護治療の開発に役立つことが期待されます(図2)。

図2.緑内障の神経保護治療の課題 コンパニオン診断薬を用いたカルパイン阻害薬の開発本研究によって網膜細胞のカルパイン活性の評価が可能となったことで、カルパインが関与する緑内障を層別化することが可能になり、網膜神経保護治療の開発に役立つことが期待される。

支援

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構産学連携医療イノベーション創出プログラム・基本スキーム(ACT-M)及び須田記念緑内障治療研究奨励基金の支援を受けて行われました。

用語説明
注1 緑内障
眼圧が上昇して視神経を圧迫し、視野欠損が出現・進行する疾患。ただし、日本の場合眼圧が正常範囲の正常眼圧緑内障が多い。
注2 カルパイン
活性化することによって細胞死を誘導するタンパク質分解酵素。カルパイン阻害薬の使用で細胞死が抑制される。カルパイン活性が上昇した網膜神経節細胞に対してカルパイン阻害薬を使用することで細胞死から保護できる。
注3 コンパニオン診断薬
特定の医薬品の有効性や安全性を高めるために、その使用対象患者に該当するかどうかなどをあらかじめ検査する目的で使用される診断薬。効果がより期待される患者の特定や用法・用量の最適化又は投与中止の判断を適切に実施するためなどに用いられる。
論文題目
Title
Companion diagnosis for retinal neuroprotective treatment by real-time imaging of calpain activation using a novel fluorescent probe
Authors
Toshifumi Asano, Yuri Nagayo, Satoru Tsuda, Azusa Ito, Wataru Kobayashi, Kosuke Fujita, Kota Sato, Koji M. Nishiguchi, Hiroshi Kunikata, Hiroyoshi Fujioka, Mako Kamiya, Yasuteru Urano, Toru Nakazawa.
タイトル
神経保護治療の実用化に資するカルパイン活性化の生体内イメージングシステムの開発
著者名
浅野俊文、永代友理、津田聡、伊藤梓、小林航、藤田幸輔、佐藤孝太、西口康二、國方彦志、藤岡礼任、神谷真子、浦野泰照、中澤徹
掲載誌名
Bioconjugate Chemistry、2020 Sep 16;31(9):2241-2251.
DOI
10.1021/acs.bioconjchem.0c00435
お問い合わせ先

研究に関すること
東北大学大学院医学系研究科眼科学分野
教授 中澤徹(なかざわとおる)
助教 浅野俊文(あさのとしふみ)

AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構
実用化推進部研究成果展開推進課

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