腸内細菌アッカーマンシア・ムシニフィラの胆汁酸耐性機構の一部を解明

ad
ad
ad

胆汁酸を介した腸内細菌の生育制御技術の開発に期待

2020-12-22 農研機構

ポイント

農研機構はオランダのワーヘニンゲン大学と共同で、ヒトの疾患改善効果が期待される腸内細菌「アッカーマンシア・ムシニフィラ(以下、 A. ムシニフィラ)1)」に対して、胆汁酸2)が種類によって生育促進または阻害作用を持つことを発見しました。さらに、A. ムシニフィラが、生育阻害作用を持つ胆汁酸に対して耐性を持つ仕組みの一部を世界で初めて明らかにしました。本成果は、胆汁酸を介したA. ムシニフィラの生育制御技術の開発に寄与します。将来的には、腸内環境制御機能を持つ食品の開発につながると期待されます。

概要

胆汁酸(ヒトの胆汁に含まれるデオキシコール酸など、ステロイド化合物の総称)は腸内での脂質吸収を促進し、バランスが崩れると炎症性疾患に関与するなど、ヒトの健康維持に重要な役割を担っています。さらに、胆汁酸は腸内細菌によって代謝されるため、そのバランスは腸内細菌叢3)と密接に関与しており、胆汁酸と腸内細菌の相互作用を明らかにすることが重要です。
今回、農研機構とワーヘニンゲン大学は共同で、肥満やII型糖尿病などの疾患予防効果が期待される腸内細菌Akkermansia muciniphila (A. ムシニフィラ)について、胆汁酸が本菌の生育や遺伝子の働きに与える影響を調べました。その結果、胆汁酸9種のうち、デオキシコール酸がA. ムシニフィラの生育を促進すること、逆にグリコデオキシコール酸など6種が生育を阻害することがわかりました。さらに、生育阻害作用を持つ胆汁酸に対し、A. ムシニフィラが耐性を持つ仕組みの一部も明らかにしました。
本成果は、A. ムシニフィラの腸内環境適応機構の一部を明らかにしたもので、胆汁酸を介したA. ムシニフィラの生育制御技術の開発に寄与します。将来的には、腸内環境制御機能を持つ食品の開発につながると期待されます。
本成果は、国際誌「Applied Microbiology and Biotechnology」に2020年11月7日にオンライン公開されました。

関連情報

予算:農研機構長期在外研究員制度

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構畜産研究部門 研究部門長 高橋 清也

研究担当者 :同 畜産物研究領域上級研究員 萩 達朗

広報担当者 :同 広報専門役 粕谷 悦子

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

腸内細菌は炎症や肥満、糖尿病などヒトの疾患に密接に関与している可能性が高く、第三の臓器ともよばれ、腸内細菌の制御機構を解明することがヒトの健康維持に繋がると考えられています。そのため、ヒトの健康に関わる腸内細菌の探索や、腸内細菌を制御する因子を解明することが求められています。腸内細菌制御因子のうち、胆汁酸は腸内での脂質吸収を促進し、バランスが崩れると炎症性疾患に関与するなど、ヒトの健康維持に重要な役割を担っています。さらに、胆汁酸は腸内細菌によって代謝されるため、そのバランスは腸内細菌叢と密接に関与しており、胆汁酸と腸内細菌の相互作用を明らかにすることが重要となります。そこで農研機構とワーヘニンゲン大学は共同で、ヒトの健康に有用な効果が期待される腸内細菌A. ムシニフィラと胆汁酸との相互作用を調べました。

研究の内容・意義

1.ヒトの腸内に存在する主要な胆汁酸9種について、各胆汁酸塩がA. ムシニフィラの生育に与える影響を調べました。その結果、通常培地に各胆汁酸ナトリウム塩(1 mM)を加えた場合、デオキシコール酸(DCA)が生育を約28%促進することが分かりました(図1)。

2.一方、グリコデオキシコール酸(GDCA)、タウロデオキシコール酸(TDCA)は生育を阻害することがわかりました(図1)。さらに胆汁酸塩の濃度を5 mMに増やすと、グリココール酸(GCA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、タウロケノデオキシコール酸(TCDCA)、コール酸(CA)にも阻害効果が観察され、9種のうち6種の胆汁酸がA. ムシニフィラの生育を阻害することがわかりました。

3.生育阻害作用を持つ胆汁酸に対し、A. ムシニフィラが耐性を持つ仕組みを調べました。胆汁酸混合物(ウシ胆汁抽出物)を添加した培地で生育させたA. ムシニフィラで働く遺伝子を網羅的に調べたところ、 ABCトランスポーター4)およびRND型トランスポーター遺伝子群が強く働いていることが分かりました(図2)。さらに、各トランスポーターの阻害剤はいずれもA. ムシニフィラの胆汁酸への耐性を低下させました。これらの結果から、トランスポーターによる輸送が、A. ムシニフィラの胆汁酸耐性に関与していると推定されました。

4.胆汁酸混合物によって、細胞膜を構成するホパノイド5)の合成経路に関連する遺伝子群が強く働いていることが分かり、ホパノイド合成経路の阻害剤も、A. ムシニフィラの胆汁酸への耐性を低下させることがわかりました(図2)。ホパノイドが維持する細胞膜構造が、A. ムシニフィラの胆汁酸耐性に関与していると推定されました。

今後の予定・期待

A. ムシニフィラが各種トランスポーターやホパノイドを利用して胆汁酸に富んだ腸内環境に適応していることを明らかにしました。今後、胆汁酸とA. ムシニフィラの相互作用をより詳細に調べることで、胆汁酸と本菌の相互作用が解明され、胆汁酸を介した本菌の制御法開発に利用できます。また、A. ムシニフィラの環境適応能を増加させる方法が開発できれば、本菌を腸内で増加させることが可能と考えられ、疾患予防にも繋がることが期待されます。

用語の解説
1)アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)
ヒトの腸内から分離された菌で、ヒト腸内上皮細胞から分泌される多糖類のムチンを糖源および窒素源として利用します。健常者に比べ、肥満度指数や血糖値の高いヒトでは、本菌は少ないとされており、肥満やII型糖尿病の改善に利用できると期待されています。近年では、ヒトに対する投与試験が行われ、その有効性が示されつつあります。
2)胆汁酸
ヒトが分泌する1次胆汁酸と、それが腸内細菌によって代謝された2次胆汁酸があります。胆汁酸は腸内において食物に含まれる脂質の吸収を促し、コレステロール代謝の中で重要な役割を担う生体内物質です。また、その界面活性作用から殺菌効果を有するため、細菌を排除する役割もあり、腸内細菌叢の形成にも関与する重要な細菌制御因子です。そのため、胆汁酸に耐性のある乳酸菌は腸内での生残性が高いと考えられ、プロバイオティクス(宿主に有益な作用を有する生きた微生物)を選択する指標の1つとなっています。さらに、細菌叢と胆汁酸バランスが崩れると、炎症などの疾患を引き起こすなど健康にも影響します。
3)腸内細菌叢
動物の腸内には、多様な細菌が生息しています。これら個々の細菌が、腸内環境下での栄養成分や動物から分泌される生体成分など様々な因子の影響を受けながら、微生物生態系(腸内細菌叢)を構築しています。腸内細菌叢の乱れは健康にも影響します。
4)トランスポーター
物質を細胞内外に輸送するシステムです。栄養分などの細胞内への取り込み、抗生物質など細胞毒性物質を細胞外に輸送する機能があります。ABCトランスポーターは、ATP(アデノシン三リン酸)活性のエネルギーを用いて物質の膜輸送を行い、RND型トランスポーターはプロトンの駆動力をエネルギー源として物質を膜輸送します。
5)ホパノイド
イソプレンと呼ばれる炭素5個のユニットが繋がって合成される五環式化合物です。細胞膜の安定性や透過性などに関与します。
発表論文

Tatsuro Hagi, Sharon Y. Geerlings, Bart Nijsse, Clara Belzer 2020. The effect of bile acids on the growth and global gene expression profiles in Akkermansia muciniphila. Applied Microbiology and Biotechnology. doi: 10.1007/s00253-020-10976-3

参考図

タイトルとURLをコピーしました