血液がんを正確かつ簡便に診断できる画期的なバイオマーカーを発見

ad
ad

CREB3L1遺伝子の発現量で骨髄増殖性腫瘍を判定

2020-12-23 順天堂大学

順天堂大学大学院医学研究科血液内科学の小松則夫 教授、輸血学研究室の森下総司 助教、理化学研究所予防医療・診断技術開発プログラムの林崎良英 プログラムディレクター、伊藤昌可 コーディネーター、川路英哉 開発ユニットリーダー、早稲田大学大学院先進理工学研究科修士課程(研究当時)の山脇紗耶氏らの共同研究グループは、骨髄増殖性腫瘍*1患者の血小板由来RNA*2の網羅的な遺伝子発現解析を行った結果、CREB3L1遺伝子が骨髄増殖性腫瘍患者で特徴的に高い発現をしていることを発見しました。この遺伝子の発現量をバイオマーカーにすることによって、骨髄増殖性腫瘍の診断が正確かつ、容易になるため、今後の新たな診断法や治療法への応用が期待されます。本論文は日本癌学会の機関誌Cancer Science誌のオンライン版に2020年12月22日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 骨髄増殖性腫瘍患者の血小板RNAを用いた網羅的遺伝子発現解析を実施
  • CREB3L1遺伝子が、骨髄増殖性腫瘍患者で高発現していることを発見
  • CREB3L1遺伝子発現量を測定することによる、新たな診断法の確立へ

研究グループからのコメント

赤血球や血小板が増加した患者さんに遭遇した場合、それが骨髄増殖性腫瘍、すなわち腫瘍性によるものか、あるいは何らかの基礎疾患があって反応性に増えているだけなのか、その両者を鑑別することは治療選択など臨床的に極めて重要です。しかし両者の鑑別には、侵襲性の高い骨髄検査を含めた様々な検査が必要でした。私たちのグループは末梢血の血小板に含まれるメッセンジャーRNAを調べることによって、それが腫瘍性か反応性かを完璧に鑑別できる新たな診断マーカーを発見しました。それがCREB3L1です。今後は簡便な測定キットの開発に着手し、国内はもちろんのこと、海外にも広く普及させて行きたいと思っています。
CREB3L1を測定することで、無駄な検査を減らすことができ、患者さんの負担軽減だけでなく、医療費の削減にもつながることが大いに期待されます。またCREB3L1と腫瘍性の血球増加との関わりを調べることによって骨髄増殖性腫瘍の病態解明にも迫りたいと思っています。

背景

骨髄増殖性腫瘍は、骨髄由来の赤血球、血小板、白血球などが異常に増える血液のがんで、血液をつくるもととなる細胞(造血幹細胞*3)に異常が生じることで発症すると考えられています。初期の段階では、定期検診などの健康診断で血液成分が通常よりも多いことから診断に至ることの多い疾患ですが、急性白血病に移行し、抗がん剤による治療が必要になる場合もあります。一方、骨髄増殖性腫瘍の影響とは異なり、なんらかの要因によって血球成分が増加することがあります。これを反応性血球増多といいますが、この場合には原因を取り除くことで血球成分を減らすことができるので、“骨髄増殖性腫瘍”と“反応性血球増多”では治療法や予後(病気、治療などがどのような経過をたどるかという見通しや見込み)がまったく異なります。ただ、臨床的に両者を鑑別することは難しく正確かつ容易な鑑別方法の確立が課題となっていました。そこで本研究では、“骨髄増殖性腫瘍”と“反応性血球増多”を確実に鑑別できる指標を見つけ出すことを目的に、網羅的な遺伝子発現解析を行いました。

内容

骨髄増殖性腫瘍を診断するためには、反応性血球増多の症例と区別する必要がありますが、正確な鑑別には、侵襲性が高く、痛みも伴う骨髄検査を行なう必要があります。そこで本研究では、採血で容易に得られる血小板に着目しました。まず、骨髄増殖性腫瘍の中でも血小板が腫瘍性に増加する本態性血小板血症と、反応性に増加している症例それぞれから、血小板を集め、そのRNAの発現情報をRNA-Seqという手法を使って網羅的に解析しました。その結果、CREB3L1という遺伝子が、本態性血小板血症の症例で特徴的に高く発現していること、また、反応性血球増多の症例では高い発現は見られないことを発見しました。さらなる解析で、CREB3L1遺伝子が、本態性血小板血症だけでなく、他の骨髄増殖性腫瘍にも高く発現していることがわかりました。これまで実施した250症例でのCREB3L1遺伝子の高発現率は100%で、骨髄増殖性腫瘍の診断を可能にする指標(バイオマーカー)として極めて優れていることがわかりました。
本成果は、骨髄増殖性腫瘍を診断する際にこれまで困難であった反応性の血球増多との区別を簡便にできる画期的なもので、骨髄増殖性腫瘍の新たな診断法として注目されます(図1)。

図1

図1:本研究の概要
骨髄中の巨核球を取り出して解析することは、専門性の高さ、採取難度、侵襲性の高さなどから困難である。血小板は巨核球より産生され、末梢血から容易に採取できる。血小板中の遺伝子の発現を解析することによって、骨髄中の巨核球の遺伝子発現を間接的に解析できる。今回発見したCREB3L1は骨髄増殖性腫瘍に特異的に高発現しているため、ひとつの遺伝子の発現量を調べるだけで骨髄増殖性腫瘍の診断が可能になる。

今後の展開

今回の研究では、血液がんの一種である骨髄増殖性腫瘍において、CREB3L1遺伝子が高発現していることを明らかにしました。この発見によって、これまで困難であった、反応性血球増多との区別を可能にすることから、骨髄増殖性腫瘍の診断を極めて正確に、しかも簡便に実施できるようになります。しかしながら、なぜ骨髄増殖性腫瘍でCREB3L1が高発現するかについては明らかになっておらず、更なる検討を進める必要があります。今後は、引き続き骨髄増殖性腫瘍の発症メカニズム解明に取り組むとともに、企業との共同開発などを通じ、本成果の実用化を目指します。

用語解説

*1 骨髄増殖性腫瘍:末梢血中の血液細胞が過剰に増える疾患群。増殖する血球細胞の種類によってさらに細分化される(例えば、赤血球が増える場合は真性赤血球増加症)。一部の症例では特定の遺伝子変異がみられるが、約20%程度の症例には遺伝子変異が見つからず、骨髄検査により診断がなされている。
*2 RNA:タンパク質を合成する元となる物質で、必要に応じて、必要な量がDNAから合成される。
*3 造血幹細胞:骨髄に存在し、すべての血球細胞の元となる細胞。自分と同じ性質をもつ細胞を生み出す能力(自己複製能力)と、別の性質をもつ様々な血球細胞に変化できる能力(多分化能)を併せ持つ。

原著論文

本研究はCancer Science誌のオンライン版で(2020年12月22日付)先行公開されました。
タイトル: CREB3L1 overexpression as a potential diagnostic marker of Philadelphia chromosome-negative myeloproliferative neoplasms
タイトル(日本語訳): CREB3L1の高発現はフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍の新規診断マーカー候補である
著者:Soji Morishita, Hajime Yasuda, Saya Yamawaki, Hideya Kawaji, Masayoshi Itoh, Yoko Edahiro, Misa Imai, Yasushi Kogo, Satoshi Tsuneda, Akimichi Ohsaka, Yoshihide Hayashizaki, Masafumi Ito, Marito Araki, and Norio Komatsu
著者(日本語表記): 森下総司1)、安田肇2)、山脇紗耶3)、川路英哉4)、伊藤昌可4)、枝廣陽子2)、今井美沙2)、向後泰司4)、常田聡3)、大坂顯通1)、林崎良英4)、伊藤雅文5)、荒木真理人1)、小松則夫2)
著者所属:1)順天堂大学輸血・幹細胞制御学講座、2)順天堂大学血液学講座、3)早稲田大学先進理工学研究科、4)理化学研究所予防医療・診断技術開発プログラム、5)名古屋第一赤十字病院病理診断部
DOI: https://doi.org/10.1111/cas.14763

本研究はJSPS科研費JP16K19203、JP15K15368,および、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォームの支援を受け、多施設との共同研究のもとに実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

ad

医療・健康細胞遺伝子工学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました