2021-01-15 国立循環器病研究センター
心血管イベントの発症予防効果を有する薬剤:スタチンは、急性心筋梗塞の一部の症例において効果が減弱し、急性心筋梗塞発症後の心不全合併リスクを高めることの報告を、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の心臓血管内科 津田 浩佑 研修生、心臓血管内科部 冠疾患科 片岡 有 医長、野口 暉夫 副院長らが行いました。この研究結果は、英文機関誌「Cardiovascular Diagnosis & Therapy」オンライン版に掲載されました。
背景
コレステロールを低下させる薬剤であるスタチンは、心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患発症を予防する効果を有しており、ガイドラインにより急性心筋梗塞症の患者様におけるスタチンの使用が推奨されています。しかし、実臨床においては、一部の症例はスタチンによるコレステロール低下作用が乏しい症例が存在することが報告されています。急性心筋梗塞後の症例において、ガイドラインに準じたスタチン投与にもかかわらず、その効果が乏しい症例における予後については詳細な研究は行われていませんでした。
研究手法と成果
国立循環器病研究センターに入院した急性心筋梗塞の患者様505例を解析しました。全症例の15.2%は、スタチンが開始されたにもかかわらず、コレステロールの低下効果は乏しく、ガイドラインで推奨されたLDLコレステロール管理目標値の達成率も低値でした。このようなスタチンの効果が乏しい症例は、BMIが低く、スタチン開始後の炎症反応検査であるCRPが高い傾向にありました。急性心筋梗塞患者において、スタチンの効果が乏しい症例は、スタチンが有効な症例に比して心不全の発症頻度のハザード比が3.01と高く予後不良でした (95%信頼区間 1.27-6.79, p値=0.01)。特に、スタチン投与にもかかわらずLDLコレステロールが全く低下しない症例は、心不全発症率が更に高まる(22.2%)ことも確認されました。
今後の展望と課題
実臨床において、スタチンの有効性が個々の症例で異なることは認識されていましたが、心不全に対する臨床的意義については十分に検証されていませんでした。今回の研究では、スタチンに対する効果が減弱している症例においては、心不全リスクが増加することが確認されました。ガイドラインで推奨されたLDLコレステロールの目標値を達成することは、動脈硬化性心血管疾患の発症予防だけでなく、心不全発症のリスク低減においても重要であることが考えられました。今後、スタチンの効果が乏しい症例において、スタチン以外の薬剤を追加してLDLコレステロールを更に低下させることによる心不全発症予防効果については、更なる検討が必要と思われます。
スタチンの効果が減弱する機序については、詳細に解明はされていません。コレステロール代謝・産生に寄与する遺伝子変異が関係していることを示した論文報告が存在するのみであり、今後更なる研究が必要です。研究責任者の心臓血管内科部 冠疾患科 片岡 有 医長は、LDLコレステロール代謝を制御するバイオマーカーに着目し、臨床薬理研究振興財団からの支援を受けて(第42回臨床薬理研究振興財団 研究奨励金・特別研究奨励金)、スタチンの反応性との関係を明らかにする研究を実施しています。将来的には、個々の症例においてバイオマーカー測定等によりスタチンの有効性を予測し、その結果に応じて適切な脂質低下薬剤を選択して将来の心不全を含めた心血管疾患発症予防が可能となることを目指して研究を進めています。
発表論文情報
著者:Kosuke Tsuda, Yu Kataoka, et al.
題名:Dimished response to statins predict the occurrence of heart failure after acute myocardial infarction
掲載誌:Cardiovascular Diagnosis & Therapy
DOI:10.21037/cdt-20-415.
参考図