新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下における 発達障害のある子どもと親の生活の質に関する調査研究

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2021-02-16 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所知的・発達障害研究部の上田理誉研究員、岡田俊部長、ならびに、社会福祉法人日本心身障害児協会島田療育センターはちおうじの小沢浩 所長らの研究グループは、2020年5月に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下における発達障害(神経発達症)の子どもと親の生活の質(QOL)とその関連要因を評価するために、アンケート調査を実施し、下記の知見を明らかにしました。
① 発達障害がある子どもとその親のQOL低下は、子どもの睡眠リズムが悪化していること、母親が柔軟に勤務形態を変更できないこと、と関連していた。
② 子どもの睡眠リズムが悪化したり、母親が通常勤務を継続することを余儀なくされたとしても、母親の育児ストレスや抑うつ・不安傾向が低い場合、子どもの不適応行動*2(不安・抑うつなどの内在化症状と攻撃行動などの外在化症状)が少ない場合には、QOLは保たれていた。
これらの知見は、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下において発達障害の子どもと親が抱えるストレスがQOLに与える影響を示した初めての研究であり、子どもの睡眠リズムを整えたり、母親の勤務形態を柔軟に変更できるようことができることがQOL低下を防ぐ可能性があること、母親が抑うつや不安などのメンタルヘルス不調を抱えたり、子どもが困難な行動上の問題を抱える場合には、より細やかなサポートが必要であることを示しているといえます。神経発達症の子どもの親の養育や医療福祉支援機関・教育機関のスタッフによる支援活動の一助となることが期待されます。
研究成果は、ロンドン時間2021年2月15日午前10時(日本時間2021年2月15日午後7時)に『Scientific Reports』オンライン版に発表されました。

研究の背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、人々の生活は一変しました。東京都では2020年4月7日から5月25日まで緊急事態宣言が出され、都下の小中高等学校は一斉休校となりました。新型コロナウイルス感染症拡大による生活の変化が、子どもや親の心理的ストレスの増加やメンタルヘルス不調をもたらす可能性があります。特に、神経発達症の子どもたちは、定型発達児に比べて予測困難な環境の変化に適応することや日常生活の決まり事(ルーティン)を変更することが難しく、そのために悪化した行動上の困難が親の育児負担を増大させることが懸念されます。本研究において、緊急事態宣言下の神経発達症の子どもと親のQOLの状況を調べ、QOLの低さに関連する要因を検討しました。

研究の内容

本研究では、2020年5月に島田療育センターはちおうじを受診した6-18歳の神経発達症の子どもの親(保護者)136名を対象に質問紙調査を実施しました。保護者の抑うつ(CES-Dうつ病自己評価尺度)、不安(新版 STAI 状態ー特性不安検査)、育児ストレス(PSI育児ストレスインデックス)、QOL(WHO-QOL26)、及び小児の不適応行動(子どもの行動チェックリスト)とQOL(Kiddo-KINDLR)を評価しました。小児の睡眠リズムや保護者の勤務形態等、緊急事態宣言下の家族の生活の変化に関する調査も実施しました。これらのデータより、子どもと親のQOLと臨床的特徴の関連を検討しました。

■結果
1)参加者の臨床的特徴と質問紙の結果について
子どもの臨床的特徴は、男:女(人)=104:32、平均年齢10.6 ± 2.6歳、全検査知能指数84.9 ± 15.5、注意欠如・多動症(ADHD)78 人(57.4%)、自閉スペクトラム症65 人(47.8%)、限局的学習症9人 (6.6%)でした。保護者の研究参加者は、父:母:両親以外(人)=3: 131: 2、平均年齢42.4 ± 5.8歳、母子家庭は12 家庭(8.8%)でした。また、子どもの睡眠リズムの変化(遅い起床時間・遅い入眠時間)は57人 (41.9%)に認め、新型コロナウイルス感染症流行前と同様の勤務体系で働く母親は46人 (33.8%)でした。
抑うつや不安などの内在化症状がカットオフを越えて認められる子どもは49人 (36.0%)、攻撃行動などの外在化症状がカットオフを越えて認められる子どもは38人 (27.9%)に及び、COVID-19感染拡大下において、神経発達症のある子どものメンタルヘルス不調(不適応行動)がみられることがわかりました。また、親に高い抑うつ(CES-Dカットオフ値以上)を認める例62名 (45.6%)、高い状態不安(一般人口の上位5パーセンタイル)の例12名(8.8%)、高い特性不安(一般人口の上位5パーセンタイル)の例13名(9.6%)、子ども要因による高い育児ストレス(一般の母親の上位5パーセンタイル)の例51名(37.5%)、親自身の要因による高い育児ストレス(一般の母親の上位5パーセンタイル)の例23名(16.9%)で認めました。さらに、子どものQOL(100点換算)は中央値72.5、親のQOLは中央値63.8と、親子ともに顕著なQOLの低さが認められました。
(2)神経発達症の子どもと親のQOLの変化(図1)
母親が通常勤務を継続した場合ならびに小児の睡眠リズムが変化した場合は、親と子どものQOLが有意に低いことが明らかになりました。子どもの不適応行動(内在化症状と外在化症状)は保護者の育児ストレスと有意な関連を認めました。母親が通常勤務を継続した場合や小児の睡眠リズムが変化した場合でも、親の抑うつや不安、育児ストレスが低い場合、または、子どもの不適応行動(内在化症状と外在化症状)が少ない場合、親と子どものQOLは維持されやすいことがわかりました。

【図1】神経発達症の子どもとその親のQOL

新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下で子どもと親のQOLの低さと関連する要因は、母親の通常勤務(柔軟な勤務変更が困難な場合)と子どもの睡眠リズムが変化する場合です。しかしながら、そのような場合でも、子どもの内在化症状や外在化症状が少ない場合や、親の育児ストレスや抑うつ・不安症状が少ない場合は、子どもと親のQOLは保持されやすいことがわかりました。

研究の意義と今後の展開

本研究の結果、子どもと親のQOLは、子どもの睡眠リズムが悪化したり、母親が柔軟に勤務形態を変更できないときに低いこと、子どもの睡眠リズムが悪化したり、母親が通常勤務継続を余儀なくされる場合でも、母親の育児ストレスや抑うつ・不安が低い場合や子どもの不適応行動が少ない場合、親と子どものQOLは保持されやすいことがわかりました。
海外でも、新型コロナウイルス感染症流行下に、自閉スペクトラム症の症状が重い子どもほど重度の睡眠障害を認めたと報告されますが(Turkoglu S et al. 2020)、日本の神経発達症の子どもたちにおいても、41.9%に睡眠リズムの悪化を認め、深刻な問題と考えられます。また、過去の研究で、自閉スペクトラム症の子どもと親のQOLは、仕事の柔軟性が低い親ほど低いことが知られています(Kuhlthau et al. 2014)。学校が休校となり育児や家事負担が増えた親にとって、通常勤務の継続が仕事の柔軟性の低下につながった可能性があると考えています。また、新型コロナウイルス感染症による外出規制により、神経発達症の子どもの不適応行動が増加し、親が子どもの生活管理に難渋していることは、海外の研究でも明らかになってきておりますが(Colizzi M et al. 2020)、私たちの研究では、さらに、そのことが、子どもと親のQOL保持を妨げる要因となっていることも明らかになりました。
NCNPと島田療育センターはちおうじの合同研究チームは、今後も、本研究の対象となった神経発達症の子どもたちと親の支援とともにフォローアップを続け、新型コロナウイルス感染症拡大下の子どもと親の心身の健康とQOLの回復過程とそれに寄与する要因(促進要因と阻害要因)について明らかにしたいと考えています。

用語解説

*1生活の質
世界保健機関は「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況ついての認識」と定義しています。これは、人の身体的・精神的自立のレベル、社会関係、信念、環境などの重要な側面との関わりという複雑なあり方を取り入れた広範囲な概念です。

*2不適応行動、内在化症状、外在化症状
不適応行動とは、人間と社会環境の関係の中で、内的な葛藤や緊張の結果、表出される行動を指します。不適応状態にあっても、社会環境が変われば、適応できる場合があります。
内在化症状は、うつや不安を主としますが、外在化症状は、攻撃行動や反社会的行動といった問題行動を主とします。

原論文情報

・論文名:“The quality of life of children with neurodevelopmental disorders and their parents during the Coronavirus disease 19 emergency in Japan”
・著者:上田理誉、岡田俊、北洋輔、小沢愉理、井之上寿美、塩田睦記、河野芳美、河野千佳、中村由紀子、雨宮馨、伊東藍、杉浦信子、松岡雄一郎、海賀千波、久保田雅也、小沢浩
・掲載誌:Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-021-82743-x

助成金

本成果は、主に以下の研究助成を受けて行われました。
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(2-7)「発達障害の認知神経科学的アプローチに基づく病態解明」(分担研究者:岡田俊)

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
精神保健研究所 知的発達障害研究部 上田理誉(うえだ りよ)、岡田 俊(おかだ たかし)

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター総務課 広報係

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