より良い医療サービスへの貢献をめざし、MRIに必要な磁場空間を急速に生成可能な二ホウ化マグネシウム超電導磁石を開発

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磁場のない状態から10分以内に人体のMRI撮像が可能なことを実証

2021-03-01

株式会社日立製作所

日立は、従来1~2時間を要していたMRI検査に必要な磁場空間の生成を、急速に行うことができる直径1.1mの二ホウ化マグネシウム(以下、MgB2)超電導磁石を開発し、磁場のない状態から10分以内に人体頭部のMRI撮像が可能なことを実証しました。MgB2超電導磁石は、希少資源である液体ヘリウムを用いずに冷凍機の電源を入れるだけで冷却可能であり、本磁石をMRIに搭載することで、撮像時以外は磁場を消しておき、撮像時のみ磁場を生成する新たな運用方法が可能となります。従来の磁石では、装置のメンテナンス以外で基本的に磁場を消すことはないため、常に磁場に対する厳重なリスク管理が要求されますが、本磁石では撮像時以外はそれが不要となります。10分以内に磁場生成が可能なため、手術中に複数回のMRI撮像をする「術中MRI」にも適用可能であり、医師の支援や患者へのより良い医療サービスへの貢献が期待されます。今後、日立は、本磁石を活用し、現行のMRIや超電導応用機器のユーザビリティの向上と液体ヘリウム・消費電力の削減をめざすとともに、環境、交通、産業分野への応用展開を進めることで環境負荷低減に貢献していきます。

図1 MgB2超電導磁石の外観および撮像した人体頭部の断面画像の一例

図1 MgB2超電導磁石の外観および撮像した人体頭部の断面画像の一例

背景および取り組んだ課題

  • 従来の超電導磁石は磁石を4K(マイナス269℃)に冷却するために希少資源である液体ヘリウムを使用。液体ヘリウムは取扱いに専門的な知識・設備が必要であり、また継続的な価格高騰および世界情勢による供給の不安定性があるため、省ヘリウムをめざした開発が進められている。
  • 日立では、温度20K(マイナス253℃)で使用可能で液体ヘリウムが不要なMgB2超電導線材およびそれを用いた電磁石の開発を行っており、これまでに加速器システムにおけるマイクロ波発生装置(クライストロン)用の超電導磁石を開発し、高エネルギー加速器研究機構(KEK)に納入した*1
  • 現状のMgB2磁石の製造プロセスでは、線材をコイル状に巻いた後、600℃に加熱する必要がある。加熱後の線材は硬くてもろいため、特に大径コイルでは冷却時の熱変形が大きく、線材性能が劣化してしまうことが課題であった。

開発した技術

  • 熱変形によるMgB2線材の性能劣化を回避する新たなコイル構造・製造プロセス

確認した効果

  • 熱変形を経験した直径1.1mのMgB2コイルにおいて、線材性能の劣化なく通電可能であることを確認。
  • 開発したMgB2磁石を用いてMRIに必要な磁場を約8分で生成し、人体の脳のMRI撮像を実証。

発表する論文、学会、イベントなど

  • 本技術の一部は2020年12月1日~3日に産業技術総合研究所にて開催されたThe 33rd International Symposium on Superconductivityにて発表済。

開発した技術の詳細

熱変形によるMgB2線材の性能劣化を回避する新たなコイル構造・製造プロセス

超電導体は、電流が一定の場合は電気抵抗がゼロのため発熱はありませんが、電流の変動があると電気抵抗以外の要因により発熱し、変動が大きいほど発熱も大きくなります。つまり、電流を急速に増減するとコイルの温度が上昇し、超電導状態を保てなくなります。これが従来のMRI用磁石の磁場生成に時間がかかる要因でした。MgB2は従来のMRIに用いられているニオブチタン(NbTi)と比べて、高い温度で使うことができます。それにより液体ヘリウムが不要となり、さらに運転温度と臨界温度(超電導状態を保つことができる限界の温度)の差を大きく設計できます。この特長を活かすことで、MgB2磁石は急速に磁場を生成することが可能となります。
MRI用磁石は、人体の撮像に十分な大きさの磁場空間を安定して生成し続ける必要があります。このためには直径1m以上の大型の超電導コイルが必要となります。また、超電導線に含まれる超電導体の直径が大きいと、その内部で局所的に発生する循環電流の影響で磁場が変動してしまいMRI撮像が困難となるため、できるだけ細くする必要があります。
MgB2はマグネシウムとホウ素の混合粉を加熱することで得られますが、セラミックであるため、硬くてもろい性質があります。線材として使用するためには、MgB2を適切な金属で覆って保護する必要があり、複合材料であるMgB2線材の熱変形量の把握が困難となります。コイルの大径化に伴い熱変形量がmm単位となり、また線材内の超電導体が細いため、線材性能を劣化させるリスクがより大きくなります。
本開発では、線材の熱変形量を定量的に把握し、その熱変形により線材性能が劣化しない新たなコイル構造・製造プロセスを開発しました。

確認した効果の詳細

本技術により、熱変形を経験した直径1.1mのMgB2コイルにおいて、線材性能の劣化なく通電可能であることを確認しました。コイルには、直径0.13mmまで細くした超電導体を10本有するMgB2線材を用いています。これにより、MgB2磁石は従来より速く磁場を生成しても十分に臨界温度以下に維持できること、また人体の撮像に十分な直径200mmの撮像空間に、MRI撮像が可能な安定磁場を10分以内に生成可能なことを確認しました。

図2 MgB2線材の断面図
図2 MgB2線材の断面図

図3 MgB2磁石の断面図および急速に磁場を生成したときの試験結果
図3 MgB2磁石の断面図および急速に磁場を生成したときの試験結果

図4 急速に磁場を生成した後の撮像空間の磁場安定性要
図4 急速に磁場を生成した後の撮像空間の磁場安定性

これらの効果を活用することで、MRIの新たな使い方が可能となります。例えば、近年脳腫瘍の手術等で実施されている、手術中に複数回のMRI撮像をする「術中MRI」への適用が考えられます。従来のMRIは常に磁場を生成しており、磁場が5ガウス(0.5mT)を超える範囲内は、通常の手術用機器・器具を持ち込むことができない管理区域となります。もし管理区域に通常の機器・器具を持ち込むと、磁場に引き寄せられて大事故につながる可能性があるため、手術中にも厳重なリスク管理が要求されます。本開発の磁石では、撮像時のみ磁場を生成すればよく、手術中は管理区域がなくなるため、医師・看護師の負担軽減につながります。また撮像時以外は磁場を消してよいため、MRIを設置した手術室を通常の手術室としても使えるようになり、清掃等のメンテナンス時も磁場のリスク管理が不要となります。さらにモバイルMRIという使い方も考えられます。磁場のない状態で容易に運搬可能であり、現地ですぐに磁場を生成可能なためです。

*1
日立評論 2020 Vol.102 No.1 「高温超電導MgB2線材を使用した超電導磁石の納入」https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2020/01/12/index.html#sec03

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

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