Ablファミリーチロシンキナーゼが抗体の血管外輸送を制御することを解明

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生体内での抗体輸送メカニズム

2019-10-21 京都大学

 椛島健治 医学研究科教授、江川形平 同助教、小野さち子 医学研究科・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、炎症のない状態の血管から皮膚への抗体移行のメカニズムはカベオラによる小胞輸送を利用し、チロシンキナーゼのひとつであるAblファミリーチロシンキナーゼにより制御されること、Ablファミリーチロシンキナーゼ阻害薬は皮膚への抗体移行を阻害し疾患モデルマウスの症状を抑制しうることを見出しました。

 皮膚科には、自己免疫性水疱症という皮膚に水ぶくれを生じる病気の一群があります。これらは、皮膚の接着分子などに自己抗体が産生され、血中を循環し、皮膚へ沈着することで発症します。しかし、自己抗体の産生や、血中から組織への抗体移行の詳細な機序は解明されていませんでした。

 本研究成果は、自己免疫疾患に対し、血管壁をターゲットとするという新たな視点での治療法の可能性を提供すると期待されます。

 本研究成果は、2019年9月30日に、国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-019-12232-3

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/244337

Sachiko Ono, Gyohei Egawa, Takashi Nomura, Akihiko Kitoh, Teruki Dainichi, Atsushi Otsuka, Saeko Nakajima, Masayuki Amagai, Fumi Matsumoto, Mami Yamamoto, Yoshiaki Kubota, Toshiyuki Takai, Tetsuya Honda & Kenji Kabashima (2019). Abl family tyrosine kinases govern IgG extravasation in the skin in a murine pemphigus model. Nature Communications, 10:4432.

詳しい研究内容について

Abl ファミリーチロシンキナーゼが抗体の血管外輸送を制御することを解明

―生体内での抗体輸送メカニズム―

概要

 皮膚科には、自己免疫性水疱症という皮膚に水ぶくれを生じる病気の一群があります。これらは、皮膚の接 着分子などに自己抗体が産生され、血中を循環し、皮膚へ沈着することで発症します。しかしながら、自己抗 体の産生や、血中から組織への抗体移行の詳細な機序は解明されていませんでした。

  京都大学大学院医学研究科皮膚科学講座 椛島健治 教授、江川形平 同助教、小野さち子 同日本学術振興会 特別研究員らの研究グループはこれまで、炎症のある皮膚への自己抗体の移行や、胎盤を介した胎児への自己 抗体の移行に着目し、研究を進めてきました。本研究では、これをさらに発展させ、炎症のない状態の血管か ら皮膚への抗体移行のメカニズムはカベオラによる小胞輸送を利用し、チロシンキナーゼのひとつである Abl ファミリーチロシンキナーゼにより制御されること、Abl ファミリーチロシンキナーゼ阻害薬は皮膚への抗体 移行を阻害し疾患モデルマウスの症状を抑制しうることを見出しました。この結果は、自己免疫疾患に対し、 血管壁をターゲットとするという新たな視点での治療法の可能性を提供すると期待されます。

 本成果は、2019 年 9 月 30 日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

1. 背景

 自己免疫性疾患の中には、自らの体内で産生される自己抗体によって生じる一群があります。皮膚科では、 自己免疫性水疱症という水ぶくれが皮膚に生じる病気があり、抗体の種類によって、天疱瘡や水疱性類天疱瘡 などと分類されます。これらの自己抗体や自然抗体をふくむ免疫グロブリン G Immunoglobulin G、IgG)は、 リンパ組織で作られ、血中へ入った後、末梢組織である皮膚や様々な臓器に分布します。しかしながら、生体 内で、自己抗体を含む IgG が、どのように血中から組織へ分布するかの詳細はわかっていませんでした。IgG のレセプター 受容体)分子が血管壁を介した抗体の輸送に関わることは昔から想定されており、近年では Abl ファミリーチロシンキナーゼが炎症下での血管の透過性を制御しうる可能性が高いことが、脳梗塞や肺炎 モデル、アレルギーモデルで支持されていました。また、本研究グループは、炎症のある皮膚への自己抗体の 移行や、胎盤を介した胎児への自己抗体の移行に着目し、研究を進めてきました J. Allergy Clin. Immunol. 139, 2026-2028.e5 (2017), J. Allergy Clin. Immunol. 141, 2273-2276.e1 (2018).)。こうした背景から、本研究グル ープはこれまでの研究を発展させ、皮膚への抗体の輸送という観点で、IgG のレセプター分子や Abl ファミリ ーチロシンキナーゼの血管壁バリア機能の制御作用を検討しました。

2. 研究手法・成果

  自己免疫性水疱症のひとつである天疱瘡の自己抗体をマウスに静脈注射すると、マウスの皮膚には天疱瘡の 自己抗体の沈着が生じ、最終的に脱毛が生じます。これは、天疱瘡患者さんの皮膚で水ぶくれが生じるのと同 じような機序が想定されます。そこで本研究では、このマウスモデルを用いて、自己抗体の血中から皮膚への 輸送を定量的に評価する手法を確立しました。そして、自己抗体の皮膚への輸送は、時間ならびに血中濃度依 存的に生じることをました。さらに、IgG のレセプター分子、あるいは、Abl ファミリーチロシンキナーゼに よって制御されるかどうかを、阻害抗体やノックアウトマウス、Abl ファミリーチロシンキナーゼの阻害薬で ある「イマチニブ」を用いて、比較・検討しました。

 結果として、定常下での血管から皮膚への抗体移行において、以下の知見を見出しました。

① 既存の IgG のレセプター分子は必要ないこと

② 輸送はカベオラによる小胞輸送を利用するものであること

③ カベオラの機能は Abl ファミリーチロシンキナーゼにより制御されること

④ 代表的な Abl ファミリーチロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブは、皮膚への抗体移行を阻害する ことで、天疱瘡モデルマウスにおける脱毛の発症の程度を軽減しうること

3.波及効果、今後の予定

 本プロジェクトの成果を基盤として、現在、自己免疫性水疱症(水疱性類天疱瘡)に対するイマチニブの臨床 治験を京都大学医学部附属病院皮膚科にて行っています。

4.研究プロジェクトについて

本プロジェクトは以下の資金により行いました。

 ● 日本学術振興会 JSPS)科学研究費助成事業 科研費) 研究課題/領域番号 201740146、15H05790、 15H1155、15K15417) 

●科学技術振興機構 JST)さきがけ PRESTO) 課題番号 16021031300)

● 日本医療研究開発機構 AMED) 研究開発課題番号 16ek0410011h0003、16he0902003h0002、 18ak0101057h0003)

<用語解説>

カベオラ:細胞の外から中へ物質を取り込む際などに利用される小胞構造のひとつ

Abl ファミリーチロシンキナーゼ:たんぱく質のアミノ酸残基の一つであるチロシン残基をリン酸化する酵素 のひとつ

<研究者のコメント>

 血管は全身にはりめぐらされ、細胞や栄養を末梢組織に届けています。そのなかで、免疫グロブリン(IgG)も 全身に輸送されます。免疫グロブリンには、自己免疫性疾患の原因の一つである自己抗体以外にも、宿主免疫 に役立つ自然抗体も含まれます。また、近年、悪性腫瘍、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬など、多くの疾患に 対して、抗体製剤が開発 ・使用されています。我々の抗体の輸送機序に対する知見が、様々な領域に役立つこ とを期待します。

<論文タイトルと著者>

タイトル: Abl family tyrosine kinases govern IgG extravasation in the skin in a murine pemphigus model (天疱瘡モデルマウスにおいて Abl ファミリーチロシンキナーゼは IgG の血中から皮膚への移行を制御する)

著 者 :小野さち子、江川形平、椛島健治、他

掲 載 誌 :Nature Communications  DOI 10.1038/s41467-019-12232-3

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