都市部地域住民における咀嚼機能と循環器病発症との関連について

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2021-04-21 国立循環器病研究センター

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)健診部の小久保 喜弘 特任部長、新潟大学大学院医歯学総合研究科 小野 高裕 教授、大阪大学大学院歯学研究科の池邉 一典 教授らの共同研究チームは、無作為抽出した都市部一般住民である吹田研究(注1)参加者を対象に解析した結果、咀嚼機能の客観的な指標の一つである最大咬合力が、循環器病発症に関連あることを示しました。
本研究成果は、国際誌「Scientific Reports」に2021年4月7日に公開されました(注2)。

背景

近年、我が国の高齢化率が世界で最も高く、65歳以上の要介護になる主な原因疾患の第1位が循環器病の19.8%であることから(注3)、超高齢化社会における医療と介護の問題解決には、循環器病の予防がきわめて重要であると考えられます。
これまで、循環器病と歯科との関連について、歯の喪失や歯周病をはじめとする不良な口腔健康状態が循環器病の発症に関連することが報告されています。それには、歯周病による慢性炎症を介した影響と、咀嚼機能低下による栄養摂取の偏りを介した影響の2つの経路があると考えられてきましたが、咀嚼機能自体との関連についてはほとんど報告がなく、エビデンスが求められていました。

研究方法と成果

吹田研究参加者である50~79歳の都市部一般住民のうち、設定したベースライン調査期間に歯科検診を受診した1,547名(男性652名、女性895名)を対象に、循環器病の新規発症を追跡しました。最大咬合力の測定には、専用のシートを咬合させて測定する方法を用いました。
その結果、最大咬合力が低い対象者は高い対象者にくらべ、循環器病の新規発症が多いことが明らかとなりました。本研究より、咀嚼機能が低いと、将来的な循環器病発症のリスクとなる可能性が示されました(図1)。

今後の展望と課題

本研究成果の意義は、これまで多く報告されてきた、歯周病による慢性炎症による影響だけではなく、咀嚼機能の一つの指標である最大咬合力が、循環器病発症に影響を及ぼすことを明らかにしたことです。歯科治療による歯周病の予防に加え、咀嚼機能低下を予防することが、動脈硬化性疾患予防の新たな戦略になると考えられます。そのためにも、医科歯科連携のもと、さらなるエビデンスを構築して行くことが今後の課題と考えられます。

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
国立研究開発法人科学技術振興機構(科学研究費「20390489」、「23390441」、「26293411」、「17H04388H」)、国立研究開発法人国立循環器病研究センター(循環器病委託研究費「22-4-5」、「27-4-3」)

<注釈>
(注1)吹田研究 (第1次コホート:1989年~、第2次コホート:1996年~)
国循が1989年より実施しているコホート研究(研究対象者の健康状態を長期間追跡し、病気になる要因等を解析する研究手法)で、大阪府吹田市民を性年代階層別に無作為に抽出した吹田市民を対象としています。全国民の約90%以上は都市部に在住していることを考えると、その研究結果は国民の現状により近い傾向があると考えられています。

(注2)論文タイトル:A lower maximum bite force is a risk factor for developing cardiovascular disease: The Suita study. Scientific Reports. 2021. 11; Article number: 7671.

(注3)令和2年版高齢社会白書

図1 最大咬合力レベル別による循環器病発症リスク

(n=1547)
調整変数は、性別、年齢、機能歯数、歯周病、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、身体活動状況、高血圧症、脂質異常症、糖尿病とした。

医療・健康
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