DNAが酵素活性を増強する新機能の発見~未知の生命現象の一端を掴んだ!診断技術開発へも展開~

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2021-06-07 東京農工大学

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の塚越 かおり助教、池袋 一典卓越教授、工学府生命工学専攻の山岸 恭子大学院生(当時)と、国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学研究センターの松上 明正研究員(当時)、林 文晶上級研究員(当時)は、株式会社デンソーの金指 真菜氏、クナタイ カンジャナ氏(当時)、久野 斉氏とノースカロライナ大学チャペルヒル校の早出 広司卓越教授らとともに、生体高分子であるDNAがグアニン四重鎖構造という立体構造を形成することで、ミオグロビンタンパク質のもつ酵素活性を300倍以上増強する新機能を示すことを発見しました。この成果より、DNAは生体内で遺伝情報の担い手としてだけではなく、未知の生命現象の制御因子としても働いている可能性が示されました。また酵素が基質を分解する反応は診断システムなどに利用されています。そのため、今回発見した酵素活性を増加させるDNAは、がんマーカーやウイルスを標的とした新しい診断技術の開発を加速することも期待されます。

本研究成果は、Nucleic Acid Research(6月7日付)に掲載されました。
URL:https://doi.org/10.1093/nar/gkab388

現状
タンパク質と核酸(DNA・RNA)は生命を維持するために必須の生体高分子です。タンパク質は多くの機能を示すことで細胞・組織・生体を動かす役割を担います。特に、触媒として機能するタンパク質である酵素は、その優れた特性から産業的に生産され、病気の診断システムにも応用されています。また、核酸のうち、特にDNAは遺伝情報の担い手としてよく知られています。DNAの維持・管理やDNAにある遺伝情報の発現は、タンパク質によって制御されています。一方、その逆に、DNAがタンパク質・酵素の性質を変えたり、制御するような機能をもつことは報告がありませんでした。

研究体制
本研究は東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の塚越 かおり助教、池袋 一典卓越教授、工学府生命工学専攻の山岸 恭子大学院生(当時)らの研究グループと、株式会社デンソーの金指 真菜氏、クナタイ カンジャナ氏(当時)、久野 斉氏、国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学研究センターの松上 明正研究員(当時)、林 文晶上級研究員(当時)、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の早出 広司卓越教授によって行われたものです。本研究の一部は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて実施されました。

研究成果
ヒトの筋肉に含まれるミオグロビンは鉄を含む分子ヘムをもつタンパク質であり、過酸化水素(H₂O₂)を利用して酸化反応を触媒するペルオキシダーゼ活性をわずかに示すことが知られています。また、これまでに当研究室では、特定のタンパク質に強く結合する性質をもつDNA分子、「DNAアプタマー」を数多く開発してきました。そこで本研究では、ミオグロビンをモデルタンパク質(酵素)とし、ミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を増強するようなサブユニット型DNA分子、アプタメリック・エンザイム・サブユニット(AES)の開発にDNAアプタマーの開発技術を駆使して挑戦しました(図1)。開発したAESは、ミオグロビンに強く結合して酵素反応におけるルミノールに対する基質特異性を向上させた上、ルミノールを基質にした活性測定時に観察される発光シグナルを300倍以上増強することがわかりました(図1)。これは、核酸であるDNAが、タンパク質の酵素活性をpositiveな方に変化・制御しうることを示した最初の報告となります。
さらに我々は、CDスペクトル解析とNMR解析により、ミオグロビンの酵素活性増強効果を示すAESが平行グアニン四重鎖構造を形成することを突き止めました。平行グアニン四重鎖構造を取るAESが、ミオグロビンのペルオキシダーゼ反応の活性中心であるヘムの周辺部位と相互作用することにより、発光シグナルの増強効果や基質特異性の変化を生み出したと考えられます。平行グアニン四重鎖構造を形成したDNAは生体内でも発見されていることから、細胞内でも構造をとったDNAがタンパク質と結合し、タンパク質の機能を制御している可能性も考えられました。

今後の展開
本研究はDNAがタンパク質に対して結合することで、その機能の制御が可能であることを示した初めての報告です。まだ未解明の生命現象のいくつかは、AESのようにDNA分子がタンパク質とともに協奏的に作用することで引き起こされているのかもしれません。また、本研究で開発したAESは、ミオグロビンと「混ぜるだけ」で強い発光シグナルを得ることができます。そのため診断技術開発にAESを応用することで(例えば、ウイルスがあるとAESの構造が組み上がるようなシステムを開発)、最終的にミオグロビンと「混ぜるだけ」で発光シグナルにより目的分子を測定可能な新技術の実現につながります。操作が簡単な測定手法の基盤となるAESは、がんなどの疾病マーカーや、感染症の原因になる微生物・ウイルスの簡易検査法の開発を加速すると期待されます。

図1:アプタメリック・エンザイム・サブユニット(AES)は、ミオグロビンに結合することでペルオキシダーゼ活性に関わる性質を激変させる

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 教授
池袋 一典(いけぶくろ かずのり)

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