ブルガダ症候群における突然死の遺伝的リスクを解明

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2021-07-06 国立循環器病研究センター,日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の蒔田直昌 研究所副所長らの研究チームは、心臓突然死の原因のひとつであるブルガダ症候群において機能低下型SCN5A変異が突然死の遺伝的リスクとなることを世界で初めて示しました。本研究成果は欧州の科学誌「European Heart Journal」に令和3年7月5日付でonline掲載されました。

背景

ブルガダ症候群(BrS)は心電図V1-3誘導のST上昇を特徴とし、重症不整脈の発症によって突然死をきたす稀な遺伝性不整脈で、一見して健康な青壮年男性が夜間突然死する「ぽっくり病」との関連が疑われています。約15%の症例では心筋NaイオンチャネルSCN5A変異が同定されますが、我々はこの変異が突然死の遺伝的リスクとなることを2017年に明らかにしました。しかし、この中にはNaチャネルになんら影響をもたらさない機能的に良性のバリアントが含まれている可能性があったため、実験的に機能低下を示す悪性SCN5A変異を選んで遺伝的リスクを正確に検証する必要がありました(図)。またSCN5A以外の遺伝子について、レアバリアント(注1)が持つ遺伝的リスクはこれまで検討されていませんでした。

ブルガダ症候群における突然死の遺伝的リスクを解明
図表
BrS型心電図には種々の遺伝的要因と環境要因が関わるが、突然死の遺伝的リスクは永く不明であった。2017年に我々はSCN5A変異が有用であることを示した。さらに本研究ではSCN5A変異のうち、機能低下型のSCN5A変異を持つ患者群を再評価したところ、致死性不整脈の年間発生率が5.1%/年から7.9%/年に上昇したことなどから、BrS患者の予後予測において、機能低下型のSCN5A変異に着目することが特に重要であることが分かった。

研究方法と成果

415名の日本人BrS患者から同定した55個のSCN5A変異が心筋Naチャネルに機能的な影響を与えるかどうかを「パッチクランプ法」(注2)という電気生理学的な解析法と文献検索を用いて調べ、45個が機能低下型変異であると判断して、長期生命予後を比較しました(図)。その結果、機能低下型変異を持つBrS患者45人の致死性不整脈の発生率(年間7.9%)は、それを持たない370人(年間2.1%)やBrS全体(415人、年間2.5%)より有意に高く、また55個のSCN5A変異保有者60人の致死性不整脈発生率(年間5.1%)よりも高いことが分かりました。このことから、機能低下型SCN5A変異が突然死の確実な遺伝的リスクであること、SCN5A変異に実験的に機能低下を見出すことにより遺伝的リスクとして重みづけが可能になることが初めて明らかになりました。さらに、別のBrS288名の全エクソン解析により、SCN5A以外のレアバリアントについて検討しましたが、突然死のリスクとなる遺伝子はSCN5A以外にないことが分かりました。

今後の展望と課題

現在知られているSCN5A変異の約70%は臨床的意義が不明ですが、機能解析による重症度評価の確立によって、BrS患者の個別リスク予測が可能になります。またBrSの85%を占めるSCN5A陰性症例の病因を解明するために、全ゲノムシークエンスなどによるさらなる網羅的ゲノム研究が望まれます。

発表論文情報
著者
Taisuke Ishikawa,* Hiroki Kimoto,* Hiroyuki Mishima, Kenichiro Yamagata, Soshiro Ogata, Yoshiyasu Aizawa, Kenshi Hayashi, Hiroshi Morita, Tadashi Nakajima, Yukiko Nakano, Satoshi Nagase, Nobuyuki Murakoshi, Shinya Kowase, Kimie Ohkubo, Takeshi Aiba, Shimpei Morimoto, Seiko Ohno, Shiro Kamakura, Akihiko Nogami, Masahiko Takagi, Matilde Karakachoff, Christian Dina, Jean-Jacques Schott, Koh-Ichiro Yoshiura, Minoru Horie, Wataru Shimizu, Kunihiro Nishimura, Kengo Kusano, Naomasa Makita
題名
Functionally-Validated SCN5A Variants Allow Interpretation of Pathogenicity and Prediction of Lethal Events in Brugada Syndrome
掲載誌
European Heart Journal
European Heart Journal オンライン版に2021年7月5日掲載されました。
URL
https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehab254(巻・号・頁未定)
謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

文部科学省科学研究費(JP18KK0245,JP18H02808,JP20K08416)

国立研究開発法人日本医療研究開発機(AMED)(JP21kk0305011)

注釈
(注1)
集団中に極めて低い頻度で存在する遺伝子バリアントのことで、病気の原因となる悪性バリアントであることが比較的多い。
(注2)
パッチクランプ法とは電気生理学的な実験方法のひとつである。先端がとても細いガラス電極を細胞に近づけたり差し込んだりして、細胞のイオンチャネル等を介した電流を記録する方法。本研究では、ヒト心筋Naチャネルの変異遺伝子を強制的に導入した細胞を用いている。
お問い合わせ先

発表者
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
研究所/創薬オミックス解析センター

報道機関からの問い合わせ先
国立循環器病研究センター
総務課広報係 大谷・桝崎

AMED事業に関するお問い合わせ
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課
ゲノム創薬基盤推進研究事業事務局

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