アルツハイマー病の早期診断マーカーとしてのオプティックフロータスク時の脳磁計測の有用性を報告

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2021-11-08 株式会社リコー

金沢大学医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学(脳神経内科学)の山田正仁名誉教授(現・九段坂病院副院長)、医薬保健学総合研究科認知症先制医学講座の篠原もえ子特任准教授、株式会社リコー リコーフューチャーズビジネスユニット メディカルイメージング事業センターの森瀬博史グループリーダーらの共同研究グループは、オプティックフロー(OF)タスク時(※1)の前頭前野背外側皮質(DLPFC)(※2)における脳磁計測がアルツハイマー病による軽度認知障害(AD-MCI)(※3)の検出に有用であることを世界で初めて報告しました。

OFタスク時の左DLPFC脳活動は記憶力スコアと有意な負の相関をみとめ、認知機能低下を反映する指標である可能性が考えられました。脳磁図(※4)は大脳皮質の神経活動で生じる磁場を記録する非侵襲的な検査法であり、高い空間分解能と時間分解能をもつことから、アルツハイマー病等の神経変性疾患によって生じた脳機能変化を早期から捉えることができる検査法となることが期待されます。本研究で用いたOFタスク時の脳磁計測は所要時間15分と短時間であり、高齢者にとって身体的負担の少ない認知症検査法として今後活用されることが期待されます。

本研究成果は、2021年11月5日午後2時(東部時間)にPLOS ONE誌オンライン版に掲載されました。

研究の背景・目的

視空間認知障害はアルツハイマー病でしばしば認める症候です。オプティックフロー(OF)(※1)とは、画面のある一点から周囲に拡大するように流れる点群の動き(図1)のことです。OF知覚には背側視覚路(図2)という、一次・高次視覚野から後部頭頂葉皮質に至る経路が関わるとされており、後部頭頂葉皮質は前頭葉の前頭前野背外側皮質(DLPFC)(※2)と相互結合しています。

視空間認知障害を生じるアルツハイマー病ではOF知覚時の脳活動が変化する可能性があります。本研究の目的は、アルツハイマー病による軽度認知障害(AD-MCI)(※3)においてOFタスク時のDLPFCの脳活動変化の有無を明らかにし、アルツハイマー病の早期診断におけるOFタスクを用いたDLPFCの脳磁計測(※4)の有用性を明らかにすることです。

研究成果の概要

AD-MCI 11例と認知機能障害なし高齢者(CU)20例についてOF時の脳磁計測を行いました。その結果、左DLPFCでAD-MCI群の脳活動がCU群に比して有意に高値(図3)でした。また、左DLPFC脳活動は記憶スコアと有意な負の相関を認めました(図4)。Receiver Operating Characteristic(ROC)解析ではグラフ曲線下面積(Area under the curve:AUC)0.90とよい精度でAD-MCIを判別できることができました。

今後の展開

本研究は、OFタスク時のDLPFCにおける脳磁計測がAD-MCIの検出に有用であることを見出した初めての研究です。本研究で用いたOFタスク時の脳磁計測は痛みや苦痛を伴わない非侵襲的検査法で、所要時間は15分と短いことから、高齢者にとって身体的負担の少ない認知症検査法として今後活用されることが期待されます。

本研究は、文部科学省・知的クラスター創成事業の支援を受けて実施されました。

図1.オプティックフロー(OF)タスク:画面のある一点から周囲に拡大するように流れる点群の動きのこと。

図2.背側視覚路と前頭前野背外側皮質(DLPFC):背側視覚路は一次・高次視覚野から後部頭頂葉皮質に至る経路のこと。後部頭頂葉皮質は前頭葉のDLPFCと相互結合している。

図3.左DLPFCにおけるアルツハイマー病によるMCI(AD-MCI)群と認知機能障害なし高齢者(CU)群の脳活動:オプティックフロータスク開始(青線)後0.1~0.3秒後(灰色の網掛け部分)にAD-MCI群の脳活動が高くなっている(赤線)のに対して、CU群(黒線)では脳活動の変化が少ない。

図4.左DLPFC脳活動と記憶スコアとの相関:記憶スコアが悪化するにつれて左DLPFC脳活動が大きくなっている。

掲載論文
雑誌名:
PLOS ONE
論文名:
MEG activity of the dorsolateral prefrontal cortex during optic flow stimulations detects mild cognitive impairment due to Alzheimer’s disease.
(アルツハイマー病による軽度認知障害検出におけるオプティックフロータスク時の前頭前野背外側皮質の脳磁計測の有用性)
著者名:
Moeko Noguchi-Shinohara, Masato Koike, Hirofumi Morise, Kiwamu Kudo, Shoko Tsuchimine, Junji Komatsu, Chiemi Abe, Sachiko Kitagawa, Yoshihisa Ikeda, Masahito Yamada
(篠原もえ子、小池暢人、森瀬博史、工藤究、土嶺章子、小松潤史、阿部智絵美、北川幸子、池田芳久、山田正仁)
掲載日時:
2021年11月5日午後2時(東部時間)にオンライン版に掲載

PLOS ONE誌掲載URLhttps://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0259677

用語解説
※1 オプティックフロー(OF)タスク
画面のある一点から周囲に拡大するように流れる点群の動きのこと。
※2 前頭前野背外側皮質(DLPFC)
前頭葉の前側の領域で一次運動野と前運動野の前に存在する。DLPFCは視覚性注意やワーキングメモリに関わる脳部位とされている。
※3 アルツハイマー病による軽度認知障害(AD-MCI)
軽度認知障害とは主観的・客観的に記憶障害などの認知機能障害を認めるが、一般的な日常生活は自立しており認知症とはいえない状態のこと。認知症の前駆状態と考えられている。AD-MCIはアルツハイマー病が原因の軽度認知障害の状態のことである。
※4 脳磁図
人間の脳の神経細胞の活動に伴って発生する微弱磁場を無侵襲で計測する検査法。
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