不良細胞は小胞体ストレス応答機構を使ってタンパク質合成量を低下させ除去される
2021-12-08 京都大学
生体内に生まれた不良細胞は近接する正常細胞によって除去されることが知られており、この現象は「細胞競合」と呼ばれています。細胞競合は異常細胞やがん細胞を生体から除去するための重要な機構と考えられていますが、そのメカニズムはまだよくわかっていません。
細胞競合によって除去される不良細胞では、なぜか共通してタンパク質の合成量が低下していることが知られていました。この「タンパク質合成量の低下」の仕組みを明らかにすることができれば、細胞競合のメカニズムの解明に大きく近づくことができると考えられてきました。
今回、越智直孝 生命科学研究科博士課程学生、井垣達吏 同教授らの研究グループは、ショウジョウバエを用いて細胞競合を引き起こす遺伝子変異を探索した結果、小胞体ストレスを起こした細胞が細胞競合によって排除されることを見つけました。小胞体ストレスを起こした細胞では、小胞体ストレス応答の1つであるPERK-eIF2α経路が活性化することでタンパク質合成量が低下することが知られています。
興味深いことに、小胞体ストレスを起こしていなくても、転写因子Xrp1の発現量が増大した不良細胞ではPERK-eIF2α経路が活性化してタンパク質合成量が低下することがわかりました。
本研究により、生体内に生まれた不良細胞はXrp1タンパク質の発現量を増大することでPERK-eIF2α経路を介してタンパク質合成量を低下させ、これが目印となって近接する正常細胞によって排除されることが示唆されました。今後、タンパク質合成量の低下が細胞除去に至るメカニズムを解明することで、細胞競合現象の全貌が解明されると期待されます。
本研究成果は、2021年12月7日に、国際学術誌「PLOS Genetics」に掲載されました。
図:本研究の概要図
研究者情報
研究者名:井垣達吏