子宮内膜のゲノム解析がもたらすブレイクスルー
2022-02-18 国立遺伝学研究所
新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、吉原弘祐講師、須田一暁助教、同大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センターの山口真奈子特任助教、佐々木研究所腫瘍ゲノム研究部の中岡博史部長、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所人類遺伝研究室の井ノ上逸朗教授らの研究グループは、これまでに正常な子宮内膜で癌に関連する遺伝子が既に変異を起こしていることを世界で初めて明らかにしていました(Cell Reports. 2018年8月16日)。また、人体組織学が確立された19世紀以降、子宮内膜腺は髪の毛のように一本一本が独立していると考えられていましたが、子宮内膜の3次元構造解析によって子宮内膜は基底層で地下茎によって繋がっていることを明らかにしていました(iScience. 2021年3月16日)。今回、本研究グループは、月経によって剥離再生を繰り返す子宮内膜で癌関連遺伝子変異が維持されるメカニズムを解明するため、ヒト正常子宮内膜腺管の大規模なゲノム解析と3次元構造解析を統合した新しい手法の解析を行いました。それによって、月経時に剥がれない子宮内膜基底層の内膜腺管の地下茎構造内に癌関連遺伝子変異が蓄積し、地下茎を介して子宮内で領域を広げていくことを明らかにしました。一見正常にみえる子宮内膜に癌関連遺伝子異常が蓄積する現象は、子宮内膜が関係するすべての病態の根幹の現象である可能性が高く、将来の子宮体癌の発症母地になるだけでなく、月経困難症や不妊症を引き起こす子宮内膜症の原因、さらには受精卵の着床障害の原因になることが推定されます。
本研究結果はSpringer Nature社の科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。
遺伝研の貢献
新潟大学で準備された正常内膜腺管891本について、井ノ上教授らの研究グループが独自に開発したプールドキャプチャー法とイルミナシーケンサーを用い遺伝子変異検索をおこないました。データ解析のみならず統計的な解析も担当しました。
図: 区域分けした子宮内膜の遺伝子解析結果
A. 摘出した子宮の内膜を24区画に分け、1区画から5ずつ腺管を採取して遺伝子解析を行いました。
B. 同じ色で塗られた区域は、複数の共通する遺伝子変異をもつ腺管が見つかった区域で、それぞれクラスターを形成しています。
Spatiotemporal dynamics of clonal selection and diversification in normal endometrial epithelium
M. Yamaguchi, H. Nakaoka, K. Suda, K. Yoshihara, T. Ishiguro, N. Yachida, K. Saito, H. Ueda, K. Sugino, Y. Mori, K. Yamawaki, R. Tamura, S. Revathidevi, T. Motoyama, K. Tainaka, R. G. W. Verhaak, I. Inoue, T. Enomoto
Nature Communications (2022) 13, 943 DOI:10.1038/s41467-022-28568-2