iPS細胞ストックを用いた移植のための新規免疫抑制法を提案

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他家iPS細胞由来組織を用いた移植医療への貢献に期待

2022-03-15 北海道大学,実験動物中央研究所,日本医療研究開発機構

ポイント
  • MHC型*1一致他家*2マウス皮膚移植における拒絶反応の制御に成功。
  • iPS細胞*3ストック*4を用いた移植における免疫制御に有効な免疫抑制法を確立。
  • iPS細胞ストックを用いた移植医療における免疫制御法の今後の進展に期待。
概要

北海道大学遺伝子病制御研究所修士課程1年の鎌谷智紀氏、同研究所の清野研一郎教授らの研究グループは、MHC型一致他家マウス皮膚移植モデルを用いて、日本において使用が計画されているiPS細胞ストックの使用に際して生じうる拒絶反応の制御方法を検討し、その制御に有効な免疫抑制法を初めて提案しました。

日本におけるiPS細胞を用いた移植医療では、MHC型ホモ*5ドナー由来iPS細胞ストックを使用することが計画されています。しかし、MHC型以外にも、マイナー抗原*6の不一致が拒絶反応の原因となるため、iPS細胞ストックを利用した移植における免疫制御は重要な課題でした。本研究グループの以前の報告より、iPS細胞ストックを利用した移植における拒絶反応の制御は、免疫抑制剤*7単剤では困難であることが示唆されていました(Murata et al. Sci Rep 2020)。

本研究グループは、臓器移植で一般的に使用されている免疫抑制剤併用法(①)と、T細胞*8の活性化に必要な共刺激分子によるシグナルを阻害する方法(②)を用いて、それぞれ拒絶反応の制御を試みました。その結果、①の方法では、拒絶反応の制御が可能であるドナーレシピエント*9の組み合わせがある一方で、その制御が困難である組み合わせも存在することが明らかになりました。一方、②の方法では、①の方法において拒絶反応の制御が困難であったドナーレシピエントの組み合わせであっても、制御が可能であることが判明しました。加えて、今回明らかになった②の免疫制御法は、免疫ヒト化マウス*10を用いたiPS細胞ストック由来肝芽の移植実験によって、iPS細胞ストックを用いた移植医療で生じうる拒絶反応に対しても有効である可能性が示唆されました。

なお、本研究成果は、2022年2月2日(水)公開のInflammation and Regeneration誌にオンライン掲載されました。


本研究によって有効であることが示唆された、iPS細胞ストックを用いた移植のための新規免疫抑制法

背景

再生医療において、iPS細胞から作製した治療効果を有する細胞は、様々な病気を治療する可能性があります。しかし、患者毎にiPS細胞や、そのiPS細胞由来の治療用細胞を作製するためには多くの時間や費用がかかるため、事前にボランティアの方々から提供された体細胞をもとにiPS細胞を作製・保管した上で必要時に利用することが計画されています。

しかし、iPS細胞由来の治療用細胞は、治療を受ける患者にとって他人由来の細胞となるために、患者の免疫細胞が移入された治療用細胞を拒絶する可能性があります。拒絶反応が生じるリスクを低減させるために、移植に用いるiPS細胞と移植を受ける患者の免疫細胞のHLA(MHC)型(白血球型)を合わせて移植する「HLA(MHC)型一致の移植*11」を実施することが予定されているものの、HLA以外にもマイナー抗原と呼ばれる、拒絶反応を引き起こす原因となり得る抗原は多数存在するため、免疫抑制剤等を使用して拒絶反応を抑制する必要が生じる可能性があります。しかしながら、このような“MHC型一致他家iPS細胞由来組織移植”を行う際に生じる拒絶反応を抑制するために有効な免疫抑制剤併用法は、これまで十分に検証されてきませんでした。

そこで、本研究グループは、“MHC型一致他家iPS細胞由来組織移植”となるiPS細胞ストックを使用した移植において、拒絶反応制御に有効な免疫抑制剤併用プロトコールを開発することを目的に研究を行いました。

研究手法

本研究では、iPS細胞ストックを用いた移植を想定して次の3つの移植モデルを使用しました。MHC型一致マイナー抗原不一致のマウス皮膚またはマウスiPS細胞の移植、免疫ヒト化マウスを用いたヒトiPS細胞由来肝芽移植実験です。レシピエントマウスには、臓器移植において一般的に使用されている3剤併用療法(タクロリムス、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル)、もしくは、共刺激分子の阻害(抗CD40リガンド抗体、CTLA4-Ig)を行いました。それぞれの免疫制御法によって、移植片*12がレシピエントに生着する期間を延長できるか解析しました。

研究成果

本研究グループは、臓器移植において一般的に使用されている免疫抑制剤併用法では、拒絶反応の制御が困難であるものの、T細胞除去抗体を併用することによって拒絶反応の制御が可能になるドナーとレシピエントの組み合わせが存在する可能性を明らかにしました。その一方で、T細胞除去抗体を加えても、拒絶反応の制御が困難であるドナーレシピエントの組み合わせが存在する可能性も示されました。このため、ドナーレシピエントの組み合わせに関わらず、“MHC型一致他家iPS細胞由来組織”における拒絶反応制御に有効である可能性を持つ免疫制御方法の検討を行ったところ、共刺激分子の阻害が有効であることがわかりました。

共刺激分子の阻害は、一般的に使用されている免疫抑制剤併用法にT細胞除去抗体を併用する方法でも拒絶制御が困難であった、ドナーレシピエントの組み合わせにおいても拒絶反応の制御に成功しました。それに加えて、ヒト免疫を再現する免疫ヒト化マウスを用いた、iPS細胞ストック由来肝芽の移植実験によって、臨床におけるiPS細胞ストックを用いた移植医療においても、共刺激分子の阻害は拒絶反応の制御に有効である可能性が示唆されました。

今後への期待

本研究により、共刺激分子の阻害は、MHC型一致他家iPS細胞ストックを使用した移植医療において、拒絶反応に有効である可能性が示唆されました。現在の移植医療において一般的に使用されている免疫抑制剤の併用法でも、T細胞除去という工夫を行うことで拒絶反応制御が可能である場合も想定されますが、その場合は移植前に拒絶反応の強さをスクリーニングする等の取り組みが必要になるものと考えられます。

謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療実現拠点ネットワークプログラム(技術開発個別課題)「他家iPS細胞由来組織・細胞移植における免疫寛容誘導に関する基盤的研究」(研究開発代表者:清野研一郎)、the project of junior scientist promotion in Hokkaido University、the Photo-excitonix Project in Hokkaido Universityより支援を受けて行われました。

論文情報
論文名
Evaluation of immunosuppression protocols for MHC-matched allogeneic iPS cell-based transplantation using a mouse skin transplantation model(マウス皮膚移植モデルを用いたMHC型一致他家iPS細胞移植における免疫抑制プロトコールの構築)
筆者名
鎌谷智紀1、 大塚 亮1、 村田智己1、 和田はるか1、 高橋武司2、 森 淳祐3、 村田聡一郎3、 谷口英樹3、4、 清野 研一郎1(1北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野、 2公益財団法人実験動物中央研究所、 3横浜市立大学大学院医学研究科医科学専攻臓器再生医学研究室、 4東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター再生医学分野)
雑誌名
Inflammation and Regeneration(医学の専門誌)
DOI
10.1186/s41232-021-00190-7
公表日
2022年2月2日(水)(オンライン公開)
用語解説
*1 MHC型
ヒト白血球抗原(主要組織適合抗原複合体)。一般的に白血球の型と呼ばれる分子のこと。一致していないと免疫応答が生じ、拒絶が起こりやすい。ヒトの場合は HLA と言う。
*2 他家
自家の対義語。移植臓器の提供者と移植臓器を受ける患者が他人の状態であることを示す。他家移植は、患者の免疫系が移植臓器を非自己と認識することにより、拒絶反応が引き起こされうる。
*3 iPS細胞
Induced pluripotent stem 細胞の略。分化細胞に特定の遺伝子を導入することによって作製される、分化多能性細胞のこと。
*4 iPS細胞ストック
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団が実施しているプロジェクトによってストックされているiPS細胞のこと。
*5 MHC型ホモ
各MHC分子には遺伝子多型(同一分子であるが多様性があること)がある。細胞には2本の染色体があり、染色体に一つずつ、計二つある各 MHC 遺伝子について、それぞれ同じ型をもつことをホモであるといい、異なる型をもつことをヘテロであるという。
*6 マイナー抗原
HLA(MHC)以外で拒絶反応に関与するタンパク質のこと。同一のタンパク質であっても各個人の遺伝子多型(遺伝子配列が一部異なること)により、わずかにタンパク質の形が異なるものがあることから拒絶反応の原因となる場合がある。
*7 免疫抑制剤
免疫反応を抑えることができる薬のこと。移植医療では、拒絶反応を抑制する目的で使用されている。
*8 T細胞
免疫細胞の一つ。移植においては、拒絶反応の一部として働く。
*9 ドナー/レシピエント
移植において臓器を提供する人(ドナー)とそれを受け取る患者のこと(レシピエント)。
*10 免疫ヒト化マウス
ヒトの免疫細胞を移入し作製した、ヒト免疫反応を表現するマウスのこと。
*11 MHC型一致の移植
ドナーのMHC型をレシピエントが有しており、ドナーMHCを”自己”と認識することで拒絶反応が起こりづらい組み合わせでの移植のこと。
*12 移植片
移植に用いられた臓器または細胞のこと。
お問い合わせ先

研究に関すること
北海道大学 遺伝子病制御研究所 免疫生物分野 教授 清野研一郎(せいのけんいちろう)

配信元
北海道大学 総務企画部 広報課
実験動物中央研究所 広報室

AMEDに関すること
日本医療研究開発機構 再生・細胞医療・遺伝子治療事業部 再生医療研究開発課

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