内頚動脈の屈曲蛇行が脳梗塞機械的血栓回収術に与える 影響を解明

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2022-04-26 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳血管内科髙下純平医師、豊田一則副院長らの研究チームが、国循単施設での急性期脳梗塞に対する血管内治療データベースを用いた調査を行い、内頚動脈の屈曲蛇行を認める患者においてカテーテル手技を用いた機械的血栓回収術を施行した場合、初回の血栓回収手技により血流の完全な再開通が得られる割合が低下し、術後頭蓋内出血合併率上昇などの影響が認められることを明らかにしました。本研究成果は、米国心臓学会機関誌Stroke誌電子版に、2022年4月11日に掲載されました。

■背景
頭蓋内の比較的太い主幹動脈の閉塞に対して、機械的血栓回収術は標準治療として広く施行されています。機械的血栓回収術では、1回の血栓回収手技により脳血流の完全再潅流を得ることができると、速やかに血流の再灌流を達成できる他、術後の頭蓋内出血合併を低率に抑えることができ、良好な転帰を得られることが知られています。
血管が高度に屈曲蛇行している場合は、この治療に使用する機器(ステント型回収機器、大口径の血栓吸引カテーテル)を血管閉塞部位まで誘導することが困難になるため、治療が非常に難しくなります。特に、頭蓋内血管の閉塞を治療する上で必ずカテーテルが通過しなければならない内頚動脈の屈曲蛇行は、機械的血栓回収術の結果に影響を及ぼすのではないかと仮定して、検証を行いました。

■研究手法と成果
今回の解析では、2014年1月から2021年6月の間に当センターに入院され、機械的血栓回収術を施行された370例(年齢中央値78歳 [四分位値, 71-83歳], 女性167例 [45%])を対象としました。内頚動脈の屈曲蛇行を、内頚動脈の特定の部位(頭蓋外内頚動脈、海綿静脈洞部内頚動脈)で既存の分類に従って評価しました(参考図)。対象症例を、内頚動脈に屈曲蛇行を認める症例と認めない症例の2群に分け、1回の血栓回収手技による完全再灌流達成率や術後の頭蓋内出血合併率を比較しました。
対象症例のうち、124例(34%)に内頚動脈の高度の屈曲蛇行を認め、特に高齢者、女性に多く認められることが分かりました(表1)。治療結果をみると、内頚動脈の屈曲蛇行を有する症例では、1回の血栓回収手技による再灌流の達成率が低く、頭蓋内出血合併率が高いことが分かりました。最終的な有効再灌流の達成率、脳梗塞発症3ヶ月後の日常生活動作自立を達成した症例の割合は両群に差がありませんでした。

■解説
血管に高度の屈曲蛇行を有する症例では、ステント型回収機器による回収中にステントが牽引され、形状が扁平化することで脳梗塞の原因となっている血栓を捕捉する能力が低下することが知られています。また、大口径の吸引カテーテルは血管閉塞部位への誘導が困難となる他、吸引カテーテルと血栓の軸のずれが生じることで血栓捕捉力が低下すると言われています。本研究では、内頚動脈の屈曲蛇行を有する症例で、1回の血栓回収手技での完全再灌流の達成率が大幅に低くなり、上記の血栓回収機器の性能低下を反映した所見と考えられます。また、頻回に回収手技を実施することにより、術後の頭蓋内出血発症が増加している可能性があります。一方、複数回治療手技を行うことで、最終的な有効再灌流は、内頚動脈の屈曲蛇行を有する症例においても高い割合で達成されており、治療機器や手技の進歩が伺えます。今後、内頚動脈に高度の屈曲蛇行を有する症例においても少ない治療手技回数で完全再灌流を達成可能な治療機器や手技の進歩が必要であると考えます。
国循ではこのような急性期脳梗塞へのカテーテルを用いた治療を、脳内科・脳外科が連携した体制で行っており、今後もより良い治療法の開発を目指して参ります。

■発表論文情報
著者: Junpei Koge, Kanta Tanaka, Takeshi Yoshimoto, Masayuki Shiozawa, Yuji Kushi, Tsuyoshi Ohta, Tetsu Satow, Hiroharu Kataoka, Masafumi Ihara, Masatoshi Koga, Noriko Isobe(九州大学), Kazunori Toyoda
題名: Internal carotid artery tortuosity: impact on mechanical thrombectomy
掲載誌: Stroke

■謝辞
本試験は、循環器病研究開発費(20-4-3)により資金的支援を受け実施されました。

<図・表>
(表1)患者の臨床所見と診療経過時間

内頚動脈の
屈曲蛇行あり
124例
内頚動脈の
屈曲蛇行なし
246例
P値
女性 70 (57%) 97 (39%) 0.003
年齢、歳 80 [72-85] 77 [70-83] 0.04
来院時NIHSSスコア 20 [14-26] 18 [13-24] 0.07
心房細動 96 (77%) 151 (62%) 0.003
高血圧 90 (73%) 178 (73%) 1
糖尿病 27 (22%) 51 (21%) 0.89
脂質異常症 58 (47%) 110 (45%) 0.74
虚血性心疾患 16 (13%) 38 (16%) 0.54
脳梗塞/一過性脳虚血発作の既往 24 (19%) 54 (22%) 0.59
喫煙 13 (11%) 36 (15%) 0.35
発症~来院、分 65 [42-258] 108 [49-326] 0.05
発症〜機械的血栓回収術、分 160 [107-326] 190 [115-419] 0.15
血栓溶解療法 62 (50) 107 (44) 0.27

例数(%)または中央値[四分位値]で表示。

(参考図) 研究の概要と結果
内頚動脈の屈曲蛇行が脳梗塞機械的血栓回収術に与える 影響を解明

医療・健康
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