長距離移行性ペプチドを介した根における光合成産物の含量の制御に関する分子モデルを提唱

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2022-05-26 新潟大学,基礎生物学研究所,熊本大学

新潟大学大学院自然科学研究科の岡本暁助教、川崎梓研究員、基礎生物学研究所超階層生物学センターの牧野由美子技術職員、熊本大学大学院先端科学研究部の澤進一郎教授、石田喬志准教授の共同研究グループは、ダイズとシロイヌナズナを用いた研究によってCLE2ペプチド(注1)とそのホモログ(注2)が根から葉に対して光合成産物を要求する長距離シグナルとして機能する可能性を見出しました。植物の成長を支える上で根の発達は重要であり、そのためには光合成を行う葉は十分な量の光合成産物を根へ供給し続ける必要があります。本研究は植物における光合成産物の分配を制御する仕組みを理解する上で重要な知見であり、農作物の環境ストレスに対する耐性や収量の改善への応用が期待されます。本研究成果は、2022年5月14日にアメリカ植物生理学会の学会誌「Plant Physiology」の電子版に掲載されました。

【本研究成果のポイント】
・CLE2ペプチドを根から地上部への物質輸送を行う道管(注3)滲出液から検出した。
・CLE2およびそのホモログ遺伝子は根の成長やスクロース含量に影響を与える。
・根におけるCLE2およびそのホモログ遺伝子が葉のSUC2スクロース輸送体遺伝子の発現量に影響する。

Ⅰ.研究の背景
植物は主に葉で光合成を行い、得られた光合成産物の一部はスクロースなどの可溶性の糖類として根や果実などに供給され、それらの成長に用いられます。根は植物個体を土壌に固定したり、そこから吸収した水や無機要素を地上部へ供給したりする役割を果たしています。そのため根の発達は植物が成長したり周囲の環境に適応したりするうえで必要不可欠であり、農作物の生産性にも大きく影響します。植物が自身の根を発達させるためには十分な量の光合成産物が葉から根に供給される必要があります。しかしながら、根における光合成産物の過不足を植物がどのように認識するのか、そもそもそのような仕組みが存在するのかは、これまで明らかにされていませんでした。

Ⅱ.研究の概要・成果
本研究グループでは以前にダイズの道管を介して根から地上部に長距離移行する複数のペプチドを同定していました(Okamoto et al., 2015 Plant J.)。今回、それらのうちの一つのペプチドが暗処理などの光合成産物が欠乏する条件に応答することがわかりました。そこでこのペプチドの機能について詳細な解析を行うために、シロイヌナズナにおけるホモログであるCLE2ペプチドに着目しました。まず、CLE2ペプチドはシロイヌナズナの道管滲出液から検出されることやCLE2遺伝子は主に根で発現し、光合成産物が欠乏する条件に応答することを確認しました。また、CLE2遺伝子を過剰に発現させると根のスクロース含量が上昇するのに対し(図1)、CLE2とそのホモログ遺伝子が機能しなくなった変異体(cle1-7変異体)では根のスクロース含量が低下することを見出しました。このことからCLE2とそのホモログ遺伝子は根のスクロース含量を正に制御することが明らかになりました。さらに、cle1-7変異体における根の成長を調べたところ、cle1-7変異体では根の重量が低下しており、スクロースを与えることでそれが回復することがわかりました。また、cle1-7変異体において根のスクロースの含量が低下した原因を探るために、光合成産物の輸送や代謝に関わる因子の発現量を調べたところ、葉からの光合成産物の運び出しに機能することが知られているスクロース輸送体(SUC2)の遺伝子の葉における発現量が、根のCLE2やそのホモログ遺伝子によって影響を受けることがわかりました。これらの結果から、本研究グループは、根がCLE2ペプチドを介して葉のSUC2輸送体の発現量を調節し根のスクロース含量を制御するモデルを提唱しました(図2)。
長距離移行性ペプチドを介した根における光合成産物の含量の制御に関する分子モデルを提唱

図1. 根におけるスクロース含量
CLE2過剰発現体では野生型と比べて根のスクロース含量が増加することがわかった。

fig2.jpg

図2. CLE2ペプチドの作用モデル図
CLE2ペプチドは根における光合成産物の欠乏に応答し、葉のSUC2スクロース受容体を介して根のスクロース含量を正に制御する。

.今後の展開
CLE2ペプチドの受容体やその下流で機能する因子を特定することで、CLE2ペプチドを介した長距離シグナル伝達系の解明が進むことが期待できます。また、このシグナル伝達経路を制御することで根と地上部の間の光合成産物の分配を制御することができれば、根の発達を促進することにより乾燥への耐性を強化したり根菜類の収量を向上させたりすることなどが期待できます。

.研究成果の公表
本研究成果は、2022年5月14日、アメリカ植物生理学会の学会誌「Plant Physiology」に掲載されました。
論文タイトル:Long-distance translocation of CLAVATA3/ESR-related 2 peptide and its positive effect on roots sucrose status
著者:Satoru Okamoto(岡本暁)、Azusa Kawasaki(川崎梓)、Yumiko Makino(牧野由美子)、Takashi Ishida(石田喬志)、Shinichiro Sawa(澤進一郎)
doi: 10.1093/plphys/kiac227

Ⅴ.謝辞
本研究は、JSTさきがけ「フィールドにおける植物の生命現象の制御に向けた次世代基盤技術の創出」(JPMJPR17Q2)、科学研究費助成事業・若手研究B (17K15137)、文部科学省卓越研究員事業、旭硝子研究助成、基礎生物学研究所共同利用研究(20–404)の支援を受けて行われました。

【用語解説】
(注1)ペプチド:2個以上のアミノ酸が結合したもの。それらの中にはホルモンとしての生理活性を示すものもある。
(注2)ホモログ:同一の祖先に由来すると考えられる相同性の高い遺伝子などの一群。
(注3)道管:根で吸収した水や無機養分などを地上部へ運ぶための通路。最近では植物ホルモン、ペプチドなどの生理活性物質も道管を介して根から地上部に輸送されることが明らかにされている。

本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院自然科学研究科
助教 岡本 暁(おかもと さとる)

基礎生物学研究所超階層生物学センター
技術職員 牧野 由美子(まきの ゆみこ)

熊本大学大学院先端科学研究部
准教授 石田 喬志(いしだ たかし)

【広報担当】
新潟大学広報室
基礎生物学研究所広報室
熊本大学総務部総務課広報戦略室

生物化学工学
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