骨膜の幹細胞が骨を伸ばす

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2022-07-20 東京大学

1.発表者:
塚崎 雅之(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座 特任助教)
高柳 広(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座 教授)

2.発表のポイント:
◆骨は、骨を長く伸ばす「内軟骨性骨化」と、骨を太くする「膜性骨化」という2つの仕組みにより成長します。この2つの骨化様式は、それぞれ異なる骨格幹細胞によって担われる、独立した現象であると考えられてきました。今回、我々は世界で初めて、骨を太くする「骨膜幹細胞」が、骨を長くする「成長板幹細胞」を遠隔からコントロールすることで、生後の骨格成長に重要な役割を果たすことを発見しました。
◆骨膜幹細胞の数が減少すると、骨が太く成長できないだけでなく、骨の伸長も障害されることを見出しました。原因を探索し、骨膜幹細胞が骨化制御因子 Indian Hedgehog (Ihh)を発現していること、これが成長板幹細胞の増殖を促すことで、骨を長く伸ばすことを突き止めました。
◆本研究により、これまで独立現象とされてきた2つの骨化様式を担う幹細胞の間にクロストークが存在することが明らかとなり、骨成長機構の新たな概念が打ち立てられました。整形外科や歯科口腔外科の臨床現場では古くから、骨折や骨再生の手術の際に、骨膜を保存することの重要性が知られていましたが、本研究はそのメカニズムの一端を明らかにしたものであり、骨膜を標的とした新たな骨再生法や、低身長症、骨粗鬆症、難治骨折、骨腫瘍など様々な骨疾患に対する治療法の確立につながると期待されます。

3.発表概要:
脊椎動物の「かたち」を決定している骨格系は、身体を支え運動を可能とする運動器としての役割だけでなく、ミネラル代謝調節や造血といった多様な機能を併せ持ち、生体恒常性の維持に必須の役割を担っています。四肢を構成する長管骨の縦軸方向への成長は、骨内部の成長板軟骨に存在する成長板幹細胞(注 1)が増殖・分化を繰り返すことにより駆動されており、このプロセスは「内軟骨性骨化(注 2)」と呼ばれ、個体のサイズを決定づけます。一方で、頭蓋骨および鎖骨の形成と、長管骨の横軸方向への成長は、骨の外周を包む骨膜に存在する骨膜幹細胞 (注 3) により仲介され、このプロセスは軟骨形成を伴わないことから「膜性骨化(注 4)」と呼ばれています。
生後の急激な身長の増加は、乳幼児期、学童期、思春期にそれぞれ栄養、成長ホルモン、性ホルモンが直接的・間接的に成長板軟骨に作用することにより実現され、思春期以降の骨端線の閉鎖(成長板軟骨の癒合)により停止すると考えられています。しかしながら、内軟骨性骨化による適切な骨成長の維持機構および骨端線閉鎖の分子機構に関しては未だ不明な点が多く、様々な原因で生じる低身長症に対する有効な予防・治療法の開発が重要な課題となっています。また、内軟骨性骨化と膜性骨化は、それぞれ局在の異なる骨格幹細胞(注 5) によって制御される独立した現象と考えられており、骨膜幹細胞と成長板幹細胞の関係性や相互作用に関してはこれまで分かっていませんでした。
東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野の塚崎 雅之 特任助教と高柳広 教授らの研究グループは、骨膜幹細胞が膜性骨化だけでなく生後の内軟骨性骨化にも重要な役割を担うことを解明し、骨膜幹細胞の機能障害が早期の骨端線閉鎖による重篤な低身長症と骨量減少を引き起こすことを明らかにしました。
本研究成果は、骨格系制御システムの基本原理の理解を深めると同時に、低身長症や骨粗鬆症をはじめとする多くの骨疾患の原因解明及び新規制御法開発や、新たな骨再生法の創出につながることが期待されます。本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(15H05703, 18H02919, 18K19438, 19K18943, 18J00744, 21H03104, L20539)や、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「組織修復型免疫細胞の解明とその制御による疾患治療の開発」(研究開発代表者:高柳 広)、革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」研究開発領域における研究開発課題「早期ライフステージにおける骨成長の維持及び破綻機構の解明」(研究開発代表者:塚崎 雅之)などの支援を受けて行われました。

詳しい資料は≫

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