2023-05-24 京都大学
同種造血幹細胞移植(HSCT)は、難治性の血液疾患を治癒に導き得る治療ですが、治療合併症が多いことが問題です。その中でも、急性移植片対宿主病(GVHD)は、移植されたドナー由来の免疫が移植を受けた患者(宿主)の組織を攻撃することで生じる、移植後早期に高頻度にみられる合併症で、しばしば難治性です。そのため急性GVHD発症を予測して、発症リスクを低減することが求められていましたが、これまでのところ精度良く急性GVHD発症を予測することは困難でした。
城友泰 医学部附属病院助教、新井康之 同助教(院内講師・検査部・細胞療法センター副センター長)、諫田淳也 同講師、近藤忠一 同非常勤講師、熱田由子 日本造血細胞移植データセンター長(愛知医科大学教授)、 寺倉精太郎 名古屋大学講師らの研究グループは、日本全国で実施された造血幹細胞移植の一元管理プラグラム(TRUMP)に登録された18,763人のデータを用いて、人工知能の一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を活用して、HSCT後の急性GVHD発症リスクを予測するモデルを開発しました。自然言語処理アルゴリズムを併用することで、従来の解析手法で行われてきたモデル簡略化や条件仮定を最小限にして、ヒト白血球抗原(HLA)のアレル情報を含め、複雑な移植情報を生データとして解析することが可能になりました。また人工知能の課題とされてきた学習過程の可視化を実現しました。CNNを活用した今回の検討により、急性GVHD発症へのHLA適合/不適合以外の様々な因子の影響の重みが患者毎に評価できるようになりました。
本研究成果は、2023年5月16日に、国際学術誌「Communications Medicine」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「同種造血幹細胞移植は難治性血液疾患に対して有効な治療法ですが、合併症が多いことが課題です。特に急性GVHDは移植後早期に高頻度に発生する合併症であり、重症化すると致死的で、その発症を精度よく予測することが望まれます。今回の検討では、人工知能のなかでもCNNアルゴリズムを用いることで、新しい急性GVHD発症予測システムを作成しました。その結果、HLAの違い以外の要因も急性GVHD発症に重要であることが明らかになりました。また人工知能のデータ学習過程や予測の根拠の可視化にも取り組みました。人工知能を実臨床に導入するために、今回の実証研究を基に、さらに高精度な予測能と使いやすさを両立したモデルの作成を目指します。」(城友泰、新井康之)
詳しい研究内容について
人工知能を用いた造血幹細胞移植後の合併症発症予測―畳み込みニューラルネットワークによる移植片対宿主病発症予測―
研究者情報
研究者名:城 友泰
研究者名:新井 康之
研究者名:諫田 淳也