2018-09-05 京都大学,マサチューセッツ工科大学
雨森賢一 白眉センター特定准教授、雨森智子 米国マサチューセッツ工科大学リサーチサイエンティスト、Ann M. Graybiel 同教授らの研究グループは、持続的で悲観的な価値判断を引き起こす脳部位を、霊長類マカクザルの尾状核(大脳基底核の線条体の一部)で同定しました。
本研究成果は、2018年8月9日に米国の国際学術誌「Neuron」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
尾状核は、これまで目の動きの生成などの運動や、学習・報酬予測などに関わるとされてきましたが、罰の予測などの感情の処理にも因果的に深くかかわる場所があることが、この度、初めて見つかりました。この罰の予測のバランスが崩れると、頭から離れない不安へと発展するようです。霊長類の脳科学の研究は地道で、時間がかかりますが、不安障害のシステムレベルでの理解に少しでも貢献できればと願っています。
概要
不安、気分、意欲、あるいは、好き嫌いの価値判断は、大脳辺縁系から大脳基底核まで脳内に広く散在する回路で情報処理され、行動に大きな影響を与えています。本研究グループは先行研究で、マカクザルの前帯状回皮質の微小電気刺激によって、罪の過大評価が起こることを発見しました。これを受けて本研究では、マカクザルの尾状核が、持続的で悲観的な価値判断を引き起こしていることを明らかにしました。
まず、マカクザルに葛藤を伴う価値判断を必要とする課題を行い、その尾状核を微小な電気で刺激して、局所神経回路の機能を調べました。その結果、ある部位の刺激により、サルが罰を過大評価することを突き止めました。この悲観的な意思決定は刺激実験終了後も長期にわたり持続することから、持続的な悲観状態が引き起こされることがわかりました。
また、尾状核の刺激は、同じ意思決定を異常に繰り返す現象を誘導することもわかりました。さらに、刺激実験時に尾状核の神経活動を同時記録し、この持続的な悲観状態と、局所電場電位のベータ波振動が相関することも発見しました。
こうした異常な繰り返し選択は、意思決定の柔軟な変更ができず、悲観的な価値判断に固執してしまう現象を表しており、不安障害の一つである強迫性障害のモデルとなる可能性があります。本研究成果は、ヒトの不安障害やうつ病の治療の基盤になることが期待されます。
図:葛藤課題(左)における意思決定の変化(右)
詳しい研究内容について
持続する悲観的な意思決定の源となる神経メカニズムを解明 -不安が頭から離れない原因とは-
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.neuron.2018.07.022
Ken-ichi Amemori, Satoko Amemori, Daniel J. Gibson, Ann M. Graybiel (2018). Striatal Microstimulation Induces Persistent and Repetitive Negative Decision-Making Predicted by Striatal Beta-Band Oscillation. Neuron, 99(4), 829-841.e6.