2024-04-15 京都大学
井上浩輔 白眉センター/医学研究科特定准教授、近藤尚己 医学研究科教授、古村俊昌 米国・ボストン大学(Boston University)修士課程学生、津川友介 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約28万人)を用いて、配偶者の心血管疾患(CVD)によって本人のうつ病リスクが上昇することを明らかにしました。
これまでの研究により、個人レベルではCVDとうつ病には様々な関連が存在することが報告されていました。一方で、個人のCVDがその家族のメンタルヘルスにどの程度影響しているかについては明確な検証がされていませんでした。本研究では、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入する世帯主(被保険者)とその被扶養者を対象とし、被扶養者のCVD発症(脳卒中、心不全、心筋梗塞)の有無における世帯主のうつ病リスクの変化を比較しました。その結果、被扶養者がCVDを発症した家庭では、そうでない(被扶養者がCVDを発症していない)家庭に比べて、世帯主のうつ病リスクがより高く認められました。また、被扶養者の発症したCVDがより重症である場合、世帯主のうつ病リスクがより高くなることが示されました。
本結果は、配偶者がCVDを発症した際に、そのパートナーに対してメンタルケアを提供することの重要性を示唆しています。予防医療が注目を浴びる近年において、患者本人に加えて患者の家族を意識したケアを提供することは重要な視点となる可能性があります。このような家族単位での健康に着目した研究は世界的に見ても限られているため、さらなる知見の創出と効果的な施策の開発が求められます。
本研究成果は、2024年4月13日に、国際学術誌「JAMA Network Open」にオンライン掲載されました。
最大6年間の追跡の結果、配偶者がCVDを発症しなかった世帯に比べて、配偶者がCVDを発症した世帯では、世帯主がうつ病を発症するリスクが13%高かった。
研究者のコメント
「本研究は古村(筆頭著者)が社会疫学を学ぶ中で、多くの研究が個人のみを対象としており、家族や世帯全体に着目した研究が少ないことに気付いた所から始まりました。日々の習慣から社会的な要因まで、私達の健康を規定する因子は様々な規模で存在しています。その中で、家族とは生活に直接関わる身近な存在でありながら、実際どのように私達の健康に影響を与えているのかのエビデンスは多くありません。そして患者本人だけではなく、その周りの家族に対してもケアを提供する事は、予防医療が注目を浴びる近年において重要な視点である可能性があります。世帯全体を対象とした研究は世界的に見ても限られているため、より効果的な施策の開発に繋がる知見の創出に注力していきたいと思います。」
詳しい研究内容について
家族間での心血管疾患とうつ病の関連を明らかに-配偶者の心血管疾患により個人のうつ病リスクが増加-
研究者情報
研究者名:井上 浩輔
研究者名:近藤 尚己