心房細動を有する、脳梗塞または一過性脳虚血発作患者において発症前のワルファリン療法は短期転帰を改善するが長期転帰は改善しない ~SAMURAI-NVAF研究~

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2019-01-30  国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)脳血管内科の徳永敬介医師(現国立病院機構九州医療センター)、古賀政利部長、豊田一則副院長らの研究チームは、心房細動を有する、脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA:注1)患者において発症前のワルファリン療法は短期転帰を改善するが長期転帰は改善しないことを、国内多施設共同研究によって明らかにしました。本研究の成果は平成31年1月29日(現地時間)に米国心臓病協会が発行する医学雑誌「Journal of the American Heart Association」オンライン版に掲載されました。

背景

心房細動は脳梗塞の最も重要な危険因子の一つといわれています(注2)。ワルファリンは心房細動を有する患者の心臓の中に血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞の発症を予防することを目的として用いられる抗凝固薬で、ワルファリンの服用により脳梗塞発症時の重症度が軽減されることがいくつかの研究で明らかになっています。しかし、発症前の服用による長期転帰の改善効果については検証されていませんでした。

研究手法と成果

徳永医師らの研究チームは、基礎疾患として心房細動を有する、脳梗塞またはTIA患者を対象とした多施設共同観察研究であるSAMURAI-NVAF研究(主任研究者:豊田一則、以下「本研究」)を国内18の脳卒中センターで実施し、そのサブ解析として発症前の抗凝固療法による短期および長期転帰(機能転帰不良または死亡)の改善効果を検討しました。本研究に登録された1,189例について、①発症前に抗凝固療法を行っていなかった群、②不十分な薬量でワルファリンを服用していた群、③十分な薬量でワルファリンを服用していた群に分け、3ヶ月後および2年後転帰と2年以内の虚血イベント(脳梗塞やTIAの再発など)の有無を調査しました。

その結果、①群に比べて②③群では来院時の重症度が低く、3ヶ月後転帰が良好であるものの、2年後転帰には有意差がないことが明らかになりました。また、①群に比べて③群では虚血イベントを起こす割合が高いことも明らかになりました(図)。

今後の展望・課題

抗凝固療法を行っていても脳梗塞やTIAを発症する患者では、一時的には抗凝固療法の効果がみられたとしても、その後の再発が多く、長期転帰は改善されないことが示唆されました。抗凝固療法を行っているにも関わらず虚血イベントを繰り返す患者に対しては、より注意深く再発予防を行う必要があり、そのような患者に対する有効な治療法の確立が今後の課題です。

<注釈>

(注1)一過性脳虚血発作(TIA)
脳梗塞と同様に脳血流の循環障害によって一時的に脳細胞が虚血に陥る。脳梗塞と同様の症状を起こすが、24時間以内に完全に消失する。脳梗塞の「前触れ発作」とも言われており、適切な治療を行わずに放置していると数日以内に脳梗塞を発症する可能性が高い。

(注2)心房細動と脳梗塞
心房細動は高齢者に多い不整脈で、心臓の一部である心房が小刻みに震えることで心房内の血液がよどみ、凝固しやすくなる。このようにして心房内にできた血栓が心臓の拍動により押し出され、脳の大血管に詰まって起きる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は、症状が急激に現れ、重篤化しやすく、予後も不良である。心原性脳塞栓症の予防を目的とした心房細動の治療法には、抗凝固薬の服用以外に、心臓の電気異常を起こしている部分を焼き切るカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)がある。また、心房の「左心耳」と呼ばれる部分で血栓ができやすいため、左心耳の縫縮術を行うことがある。欧米では左心耳を塞いで血栓ができないようにする「左心耳閉鎖デバイス」を用いたカテーテル治療が行われている。

<図>

発症前の抗凝固療法の内容ごとの虚血イベントの累積発生率

医療・健康
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