2020-09-09 京都大学
萩原正敏 医学研究科教授、網代将彦 同特定助教、柴田済子 同博士課程学生の研究グループは、嚢胞性線維症のスプライス変異でもっとも頻度が高いタイプについて分子病態メカニズムを解析し、リン酸化酵素CLK(CDC-like kinase)を阻害する低分子化合物「CaNDY」を新しい治療薬の候補として同定しました。
嚢胞性線維症は塩化物イオンであるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝病であり、欧州地域を中心に全世界で7万人以上の罹患者がいます。CFTRは細胞膜で塩化物イオンのチャネル(通り道)として機能しますが、同疾患ではCFTR遺伝子の変異によって機能が障害され患者体内の分泌物組成が正常に調節されなくなります。その結果気管支・消化管・膵臓などで分泌液粘性が高くなり、細菌などの排除が妨げられて感染症リスクの上昇や組織機能の低下が生じます。嚢胞性線維症のうち、スプライス変異に起因する症例では有効な治療方法がなく、疾病原因であるCFTRの機能を回復させる治療法が求められています。
同様なメカニズムで発症する遺伝病は他に数多くあることから、本治療薬はスプライス変異型の嚢胞性線維症だけでなく、他疾患への応用も期待されます。
本研究成果は、2020年9月8日に、国際学術誌「Cell Chemical Biology」のオンライン版に掲載されました。