積極的にATP濃度を下げる因子を明らかに
2020-10-22 京都大学
今村博臣 生命科学研究科准教授らの研究グループは、独自に開発した蛍光バイオセンサーを用いることで、アポトーシスと呼ばれる細胞死が起こる際のATP濃度の変化の様子を詳細に捉えることに成功しました。
ATPは、生体高分子の生合成や分解などの代謝反応を進めたり、神経細胞の膜電位を保ったり、筋肉細胞を収縮させるのに必要なエネルギーの運搬体として働く物質です。私たちヒトを含む全ての生物において、ATPはエネルギー運搬体として細胞が生きる上で欠かすことのできない極めて重要な物質です。これまで、死んだ細胞では細胞内にATPがほとんど残っていないことが知られていましたが、細胞内ATP濃度が細胞死のどのタイミングで低下するのか、そしてどのような仕組みで低下するのかについては、これまで詳しくはわかっていませんでした。
本研究グループでは、単一細胞内のATP濃度を詳細に計測するための改良型蛍光ATPバイオセンサーを開発し、細胞死が進行する中で、ATPの原料となるAMPが細胞から積極的に排出されることにより、細胞内のATPの急速な低下が起こっていることを見出しました。このAMPを排出する因子が働かないようノックアウトした細胞では、細胞死が始まっても、ATPの低下が抑制されるために死んでも死にきれず、長時間にわたって収縮運動を続ける様子が観察されたほか、細胞の栄養分であるブドウ糖を消費し続けることも明らかになりました。
本研究成果は、2020年10月15日に、国際学術誌「eLife」に掲載されました。
書誌情報
【DOI】 hhttps://doi.org/10.7554/eLife.61960
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/255618
Hiromi Imamura, Shuichiro Sakamoto, Tomoki Yoshida, Yusuke Matsui, Silvia Penuela, Dale W Laird, Shin Mizukami, Kazuya Kikuchi, Akira Kakizuka (2020). Single-cell dynamics of pannexin-1-facilitated programmed ATP loss during apoptosis. eLife, 9:e61960.