多様な生物活性を示すカルビストリン類の生合成研究
2021-02-22 東京大学
ポリケタイド化合物は天然物の代表的な一群であり、構造の多様性と幅広い生物活性を有することから、医薬品資源として多く利用されてきました。構造多様性はポリケタイド鎖を伸長するポリケタイド合成酵素(PKS)やポリケタイド鎖を修飾する酵素によって構築されます。
今回、東京大学大学院薬学系研究科の陶慧特別研究員、森貴裕助教、阿部郁朗教授および、香港城市大学の松田侑大助理教授による共同研究グループは、高脂血症治療薬として利用されるロバスタチン(lovastatin)と類似したデカリン骨格とポリエン構造を併せ持ち、多様な生物活性を示すカルビストリン(calbistrin)類の生合成研究を行い、本化合物の中心骨格がどのように構築されるかを世界に先駆けて明らかにしました。生合成遺伝子の麹菌異種発現解析や精製酵素を利用した試験管内での機能解析によって、一つのPKSが独立したエノイル還元酵素(trans-ER)もしくは、メチル基転移酵素(trans-CMeT)と協働することでそれぞれデカリン骨格とポリエン構造を合成することを見出しました。さらに、一つのPKSによって作られた二つの異なるポリケタイド化合物を連結してカルビストリン類の中心骨格を形成する新規アシル基転移酵素を発見しました。
本成果は、一つのPKS酵素が一つのポリケタイド骨格を構築するという通説とは異なるものであり、このように協働する酵素を発見、精査していくことで自然の中でポリケタイド構造の多様性がどのように構築されるかの解明につながります。また、機能改変酵素を利用した超天然型新規有用化合物の創出へとつながることも期待されます。
「本研究では、一つのPKSが相互作用する酵素の組み合わせによって、全く異なるポリケタイド骨格を合成する生合成マシナリーを明らかにしました。本成果は、これまでに研究がなされ、我々が理解してきたPKSによるポリケタイド形成機構はほんの一部分であり、PKSの機能はより幅広いものであることを示唆します」と阿部教授は話します。「今後、さらなる新規のPKSの発見と機能解析を継続することで、自然界におけるポリケタイド化合物の構造多様化のための生合成機構を深く理解し、新しいポリケタイド化合物を創出するための生合成工学へとつなげたい」と期待を寄せます。
カルビストリン類の中心骨格形成機構
今回見出したPKSはtrans-ERやtrans-CMeTと協働して異なるポリケタイド骨格を作ります。その後、アシル基転移酵素(acyltransferase)によって二つのポリケタイド化合物が縮合します。
© 2021 阿部郁朗
論文情報
Hui Tao, Takahiro Mori, Xingxing Wei, Yudai Matsuda, and Ikuro Abe, “One Polyketide Synthase, Two Distinct Products: Trans-Acting Enzyme-Controlled Product Divergence in Calbistrin Biosynthesis,” Angewandte Chemie International Edition: 2021年1月22日, doi:10.1002/anie.202016525.
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