ナノスケール量子計測からリン脂質の動きを捉えることに成功 ~創薬に向けた細胞診断への応用に期待~

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2021-02-19 東京工業大学,慶應義塾大学,大阪大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 薄い膜状にしたダイヤモンド量子センサーで、細胞の反応をつかさどる脂質二重層(細胞膜)中のリン脂質分子の動きをラベルフリー計測できる手法を開発した。
  • 量子センサーで脂質二重層中を動くリン脂質をナノNMR(~6立方ナノメートル)により計測し、リン脂質分子の動きを示す拡散係数を計測できることを実証した。
  • ありのままの細胞膜におけるリン脂質の分布や動きを計測できる分析技術や、創薬候補を探索するための基盤技術への応用が期待される。

東京工業大学 工学院の石綿 整 研究員(科学技術振興機構(JST) さきがけ研究者 兼務)、慶應義塾大学 大学院理工学研究科の渡邉 宙志 特任講師(量子コンピューティングセンター 所員)および大阪大学 大学院理学研究科の花島 慎弥 准教授らは、ダイヤモンドをセンサーとして用い、わずか5ナノメートルの厚さの脂質二重層(細胞膜)を構成するリン脂質の動きを計測することに成功した。麻酔薬など薬物に対する細胞の反応はその7割以上が細胞膜と呼ばれる細胞を囲んでいる外側~5ナノメートルの微小領域で始まっていることから、現在統計的に判断されている細胞の薬物反応の原理解明にはこの微小領域を高感度かつラベルフリーすなわち「ありのまま」に解析する細胞診断技術の開発が必須である。

研究グループは、ダイヤモンド窒素-空孔中心(以降、NVセンター)を用いたナノNMRと呼ばれる技術に着目した。ダイヤモンド中に窒素と欠陥により構成されるNVセンターは、細胞内部の温度を1度以下の精度で測定するなど、生命現象を精密計測するナノ量子センサーとして注目されている。このセンサーの最大の特徴はそのサイズ(~1ナノメートル)にあり、非常に小さいサイズを持つことから観測対象に対して10ナノメートル以下の距離で高感度量子計測を行うことが可能である。観測対象近傍での計測からセンサー表面ごく近傍の限られた微小領域(~6立方ナノメートル)における物質の磁性(核スピン)を計測することが可能となる。そこで、細胞膜に見立てた薄い脂質二重層中を出入りするリン脂質の核スピンを計測するために、薄い膜状にしたセンサー上に脂質二重層を形成する技術を確立し、センサー表面から10ナノメートル以下の検出範囲で量子計測を行ったところ、脂質二重層中のリン脂質分子の動きを示す拡散係数を計測することに成功した。

今回開発したナノNMR技術は、従来の生体計測のように蛍光分子で人工的に修飾したリン脂質分子ではなく、高感度かつラベルフリーでありのままの細胞膜中のリン脂質分子の動きを計測できることから、リン脂質分布や動きを制御するメカニズムの解明、リン脂質移動と疾患の関係を調べるための細胞診断技術につながることが期待される。

本研究はドイツの科学雑誌「Advanced Quantum Technologies」のEarly Viewオンライン版に2月19日(現地時間)に公開される。また、同紙2021年Issue 4(2021年4月公開)に表紙として掲載予定である。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」研究領域 研究課題名「NVセンタデルタドープ薄膜による生体分子の機能・相互作用解析」(JPMJPR17G1)平成29年度採択(研究者:石綿 整)および研究課題名「量子化学効果を取り込んだタンパク質のシームレスな動的解析法の開発と応用」(JPMJPR17GC)平成29年度採択(研究者:渡邊 宙志)、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)(JPMXS0118067285, JPMXS0118067395)の支援を受けて行われた。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Label-free phase change detection of lipid bilayers using nanoscale diamond magnetometry”
DOI:10.1002/qute.202000106
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
石綿 整(イシワタ ヒトシ)
東京工業大学 工学院 研究員

渡邉 宙志(ワタナベ ヒロシ)
慶應義塾大学 大学院理工学研究科 特任講師

花島 慎弥(ハナシマ シンヤ)
大阪大学 大学院理学研究科 准教授

<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

<報道担当>
東京工業大学 総務部 広報課
慶應義塾 広報室
大阪大学 理学研究科 庶務係
科学技術振興機構 広報課

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