2022-04-25 脳神経疾患研究所附属 総合南東北病院,富士通株式会社
一般財団法人 脳神経疾患研究所附属 総合南東北病院(注1、以下 総合南東北病院)と富士通株式会社(注2、以下 富士通)は、富士通Japan株式会社(注3、以下 富士通Japan)、株式会社エフコム(注4、以下 エフコム)とともに、より早期の膵臓がんの発見に向けて、造影剤を用いないCT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)画像(以下、非造影CT画像)から膵臓がんの疑いがある部位を検出するAI技術の共同研究を4月1日より開始しました。
本共同研究では、総合南東北病院が保有する300件におよぶ匿名化された膵臓がん患者のCT画像を用いてAIに学習させ、臓器やがんの形状にあわせた最適な画像解析を行うことで膵臓がんの疑いがある部位を検出する技術を開発します。本技術により、これまでAIの研究対象となっていなかった、人間ドックなどで広く実施されている非造影CTの画像でも膵臓がんを検出できるようになり、早期診断による治療で救命できる膵臓がん患者数の飛躍的な増加が期待できます。
今後、本共同研究を通じた臨床現場での技術検証により、AIを改良して本技術を確立させることで、より多くの膵臓がんの早期発見の支援を目指していきます。
背景
膵臓がんは、一般的に発見が難しいため、診断から5年後の生存率が11%(注5)と他のがんに比べ極端に低く、あらゆるがんの中で最も進行が早いとされています。その要因として、膵臓が体の最深部に位置するため、がんが進行するまで自覚症状に乏しく自発的な検査に至りにくいこと、また、腹部超音波検査などの比較的簡易な画像検査では膵臓全体を描出することが困難で、がんの疑いがある部位の見極めが難しいことなどがあげられます。そのため、膵臓がん患者の救命には、初期段階で膵臓がんを発見できるように検査機会を増やし、微小な疑いもくまなく画像所見として指摘できる技術の確立が急務となっています。
今回の共同研究では、造影剤を用いて対象の臓器を見やすく撮影した画像(以下、造影CT画像)だけでなく、非造影CT画像からでも、膵臓がんの疑いがある部位を検出するAI技術を確立し、膵臓がん患者の早期発見を支援します。
共同研究の概要
両者は、総合南東北病院が保有する約300件の匿名化された造影CT画像および非造影CT画像を用いてAIを学習させることにより、膵臓がんの疑いがある部位を検出する技術を開発します。特に、非造影CT画像はコントラストが低いため、他の臓器との境界が不明瞭な膵臓自体の位置を特定することが困難で、さらに膵臓の中に存在するがんの部位の検出は非常に難しいことが課題です。そこで、解剖学的な組織のつながりを考慮して前後の断面画像同士の連続性を推定し、画像内で、連続性の強い領域には前後の断面画像を含めた立体的な解析、弱い領域では平面的な解析を自動的に行うことで、膵臓の臓器領域(図1の黄色部分)の抽出と、その領域内でがんの疑いがある部位(図1の赤色部分)を検出するAI技術を開発します。
また、本AI技術を臨床現場に適用し、まずは初期の膵臓がんの典型的な所見でありながら発見が難しい腫瘤と膵管拡張の検出のほか、今後、嚢胞や膵臓の局所的な萎縮などの臨床的に経過観察が必要な所見の検出にも取り組み、技術の有効性を検証していきます。
これにより、正常な膵臓の見た目と微かに異なる膵臓がんおよびそのリスクが高い所見をCT画像上に示すことが可能となり、より効率的かつ確実な医師による目視での画像診断を実現することで、造影CTを含めたより詳細な検査につなげるとともに、膵臓がんの早期発見を目指します。
図1:開発する技術による膵臓がんの疑いがある部位の検出イメージ
今後の展望
総合南東北病院は、富士通や富士通Japan、エフコムと共に、今後、本共同研究において開発する技術を臨床現場に適用し、有効性の検証を進め、膵臓がん患者の救命やQOL向上を目指します。また、富士通は、サステナブルな世界の実現を目指す「Fujitsu Uvance」のもと、あらゆる人のライフエクスペリエンスを最大化する「Healthy Living」の取り組みを進めており、2022年度内の技術確立に向け、本共同研究を通じてAIの改良を行うことで、医療現場へ幅広い展開を目指します。
一般財団法人 脳神経疾患研究所附属 総合南東北病院 医師 福島大造のコメント
当院で行った先行研究の結果、膵臓がんの早期診断の手掛かりとなる所見は、非造影CT画像でも確認可能なことを報告(注6)しています。今回開発するAI技術で膵臓がんのリスクが高い所見を容易に指摘できれば、膵臓がんの早期診断につながり、救命可能な症例数が飛躍的に高まることが期待されます。
富士通株式会社 フェロー兼研究本部 コンバージングテクノロジー研究所 所長 増本大器のコメント
長年にわたり総合南東北病院の医療システムにおけるサポートを行ってきたエフコムを通じて本共同研究が発足したことを大変うれしく思います。今回、富士通は、AIを活用した画像解析技術と、総合南東北病院が強みとする膵臓がんにおける医学的な知見を融合したコンバージングテクノロジー(注7)の研究開発を進め、膵臓がんの早期発見を支援するAI技術の確立を目指します。将来的には、研究成果を広く医療や健康増進サービスなどに応用し、健康な社会づくりに貢献していきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
注釈
注1 一般財団法人 脳神経疾患研究所附属 総合南東北病院:
所在地 福島県郡山市、理事長 渡邉一夫
注2 富士通株式会社:
本社 東京都港区、代表取締役社長 時田隆仁
注3 富士通Japan株式会社:
本社 東京都港区、代表取締役社長 砂田敬之
注4 株式会社エフコム:
本社 福島県郡山市、代表取締役社長 斎藤正弘
注5 5年後の生存率が11%:
国立がん研究センターが全国のがん診療連携拠点病院において診断から5年を経過した時の実測生存率を集計し公表。
注6 膵臓がんの早期診断の手掛かりとなる所見は、非造影CT画像でも確認可能なことを報告:
医学論文誌:Daizo Fukushima, et al., “Characteristic Radiological Features of Retrospectively Diagnosed Pancreatic Cancers”, Pancreas, Volume 49, Number 1, January 2020.
注7 コンバージングテクノロジー:
富士通が研究開発に注力する、特定の目的を達成するために2つ以上の異なる分野の科学や技術を融合した技術。
本件に関するお問い合わせ
一般財団法人 脳神経疾患研究所附属 総合南東北病院
法人本部広報担当
富士通株式会社
研究本部
コンバージングテクノロジー研究所