地球温暖化による海洋環境変化に対する生物の応答解明に期待
2018-07-13 蘭越町貝の館,北海道立オホーツク流氷科学センター,大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
●オホーツク海南部沿岸に出現する小さなクリオネ(1月から3月)と、沖合に出現する大きなクリオネ(4月から7月)の集団間における遺伝的差異を世界で初めて明らかにした。
●それぞれは同種(ハダカカメガイ)であることが判明した。
●それぞれの出現タイミングと、周辺の複雑な海流の消長との一致を見出した。
研究の内容
これまでの研究で、太平洋に生息するクリオネと、北極海・大西洋のクリオネは異なる種であることが分かっています(Yamazaki & Kuwahara, 2017)。北極海・大西洋のクリオネについては、山崎・桑原(2017)によって、ダイオウハダカカメガイと和名が提唱されました。ダイオウハダカカメガイは、世界最大のクリオネ類で、体長が10cm以上になることが知られています。
オホーツク海南部では、1月から3月まで沿岸で小さなクリオネが見られ、4月から7月まで、沖合で大きなクリオネが見られます。沖合のクリオネはその大きさから、ダイオウハダカカメガイである可能性が示唆されていました。そこで本研究では、出現場所・時期・体長が異なる2集団の遺伝子解析・比較を行い、遺伝的差異を明らかにしました。
写真:上のクリオネは10mm程度の「冬クリオネ」、下のクリオネは45mm程度の「春クリオネ」。それぞれは、出現する場所と時間、さらに体長が異なるが、遺伝的に同種であることを世界で初めて明らかとしました。
結果、2集団間のmtDNA COI(Cytochrome c oxidase subunit I)領域に種レベルの違いは無く、どちらもハダカカメガイであることが解りました。しかしながら、出現場所・時間のほか、体長が大きく異なるので、1月から3月まで出現するクリオネを「冬クリオネ」、4月から7月に出現するクリオネを「春クリオネ」として、区別することとしました。これらの出現するタイミングは、①宗谷暖流、②宗谷暖流前駆水、③日本海固有水(もしくはオホーツク海の底層水)の湧昇流によって形成される冷水帯、④東樺太海流の4つの海流等の消長と一致することを見出しました。
2集団は複雑な海流によって維持されることから、追跡調査をすることで、地球温暖化、海洋温暖化に起因する海洋環境の変化に対して、生物がどのように応答するのかを解明する1つの方法になりえます。本研究成果は、Springer社(ドイツ)の海洋科学の学術誌Thalassas: An International Journal of Marine Sciencesに欧州時間2018年6月19日、オンライン公開されました。
参考図:クリオネ類全種類のmtDNA COI 領域の分子配列に基づく系統樹。ダイオウハダカカメガイ Clione limacina、ハダカカメガイ C. elegantissima、ダルマハダカカメガイ C. okhotensis、ナンキョクハダカカメガイ C. antarctica。その他はアウトグループ。背景が薄水色は冬クリオネ。背景が薄緑色は春クリオネ。どちらも、同じクレードに属する。学名の最後の番号は、DDBJ(日本DNAデータバンク)における分子配列の登録受理番号。
論文情報
雑誌名:Thalassas: An International Journal of Marine Sciences
論文名:Genetic Differences in Spatially and Temporally Isolated Populations: Winter and Spring Populations of Pelagic Mollusk Clione(Mollusk: Gymnosomata), Southern Okhotsk Sea, Japan
(時空間スケールで隔離された集団間における遺伝的な差異: オホーツク海南部におけるハダカカメガイの冬と春の集団)
著者:山崎友資(蘭越町貝の館)、桑原尚司(流氷科学センター)、高橋邦夫(国立極地研究所)
公表日:欧州時間2018年6月19日オンライン公開
研究サポート
本研究の一部は船の科学館「海の学びミュージアムサポート」(日本財団助成事業)のH29年度海
の企画展事業の助成、H28年度およびH29年度の調査・研究事業の助成、H29-H31年度国立極
地研究所一般共同研究(生物圏29-39)の助成を受けて行われました。
文献
Yamazaki, T. & Kuwahara, T. 2017. A New Species of Clione Distinguished from Sympatric C. limacina(Gastropoda: Gymnosomata)in the Southern Okhotsk Sea, Japan, With Remarks on the Taxonomy of the Genus. Journal of Molluscan Studies, 83(1): 19–26.
山崎友資・桑原尚司. 2017. ハダカカメガイ属の分類. ちりぼたん(日本貝類学会研究連絡誌), 47(1-4): 77–79.
お問い合わせ先
蘭越町貝の館 山崎友資
北海道立オホーツク流氷科学センター 桑原尚司
国立極地研究所 高橋邦夫