糖尿病を合併した心不全患者を対象としたSGLT2阻害薬の退院時投与と一年予後の関連 ~リアルワールド診療データ解析~

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2022-08-23 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)のオープンイノベーションセンター情報利用促進部の中井陸運室長・岩永善高部長と奈良県立医科大学・大阪大学の研究チームは、厚生労働省が保有するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database、以下NDB)を用いて、糖尿病を合併した心不全患者を対象として、SGLT2阻害薬(注1)の使用はDPP4阻害薬(注2)の使用と比べて、良好な予後と関連する事を明らかにしました。
本研究成果は、オープンアクセス査読付き科学雑誌「Cardiovascular Diabetology」にて2022年8月13日に早期オンライン公開されました。
(注1): Sodium-glucose cotransporter-2の略語
(注2): Dipeptidyl peptidase-4の略語

■背景と方法

糖尿病治療薬の1つであるSGLT2阻害薬が、心不全治療において有効であるという多くの結果が報告されていますが、我が国における糖尿病合併心不全患者におけるリアルワールドデータ、さらには超高齢者への有効性が示されている報告は少数でした。本研究では、我が国最大のリアルワールド診療データであるNDBデータを用いて、SGLT2阻害薬処方と一年予後との関連を調べ、我が国の糖尿病患者によく使用されるDPP4阻害薬との比較を行いました。
2014年度から2018年度までの5年間において、急性心不全入院患者をNDBデータベースより抽出しました。その内、急性冠症候群が合併している患者・院内死亡した患者・退院時処方に心不全治療薬を1つも投与されていない患者を除外した、4,176病院300,398名を解析対象としました。アウトカムについては一年以内の総死亡、再入院、および心不全再入院としました。

■結果

急性心不全初回入院患者において216,016名(71.9%)が75歳以上であり、糖尿病合併患者は97,682名(32.5%)でした。SGLT2阻害薬投与群はDPP4阻害薬投与群に比べて、年齢が若く、心不全治療薬(注3)の服用も多い傾向にありました。また、患者背景の補正などを行った傾向スコアを用いた統計解析結果では、DPP4阻害薬投与集団に比べて、SGLT2阻害薬投与集団においては、死亡リスクが30%減少し、75歳以上でも32%減少しているという結果でした。心不全による再入院リスクにおいてもSGLT2阻害薬集団では、48%減少し、75歳以上でも41%減少する結果でした。
(注3):β遮断薬・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬

■今後の展望

超高齢者化社会である我が国のリアルワールド診療データベースにおいて、糖尿病合併心不全患者においてはSGLT2阻害薬の使用はDPP4阻害薬に比べて、良好な予後と関連することが示されました。本研究結果は、リアルワールドエビデンスとして、今後、超高齢者の治療を含んだ幅広い医療現場の診療の向上に寄与することが期待されます。

■発表論文情報

筆者:Michikazu Nakai, Yoshitaka Iwanaga, Koshiro Kanaoka, et al.
題名:Contemporary use of SGLT2 inhibitors in heart failure patients with diabetes mellitus: A comparison of DPP4 inhibitors in a nationwide electric health database of the superaged society
掲載誌:Cardiovascular Diabetology
DOI: https://doi.org/10.1186/s12933-022-01586-6

■謝辞

本研究は厚生労働科学研究補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「循環器病の医療体制構築に資する自治体が利活用可能な指標等を作成するための研究」、「循環器病に係る急性期から回復期・慢性期へのシームレスな医療提供体制の構築のための研究」より資金的支援を受け実施されました。

医療・健康
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