2022-08-31 京都大学
日本の中央に位置する琵琶湖で爆発的な種の多様化を遂げた淡水性巻貝のカワニナ属は、各種が湖内の様々な環境に適応しています。ヤマトカワニナはその中で最も古く1876年に記載されました。琵琶湖の岩場に広く分布するヤマトカワニナには、成貝殻の表面に存在する彫刻の形や大きさが異なる型(地理的変異)が知られていました。
澤田直人 理学研究科博士課程学生、福家悠介 同博士課程学生の研究グループは、集団遺伝解析と形態解析、さらに記載時に用いられたタイプ標本の検討によって、これまでヤマトカワニナと考えられていた種の中に、3種の学名がついていない未記載種が含まれることを明らかにしました。そしてこれらを新種トキタマカワニナ、チクブカワニナおよびコンペイトウカワニナとして記載し、ヤマトカワニナとその近縁種クロカワニナとともに、種の定義、識別点、分布域を明確化しました。これら5種は琵琶湖の岩場に適応した種であると考えられ、粗い顆粒や縦方向の彫刻を有する黒っぽい成貝殻や太い色帯を持つ胎児殻、歯の先端が平たい歯舌によって特徴づけられます。本研究成果によりカワニナ属の分類学的問題の一端が解決され、琵琶湖のカワニナ属の種多様性や進化、種間の相互作用に関する知見が更新されました。
本研究成果は、2022年8月22日に、比較動物学の国際学術誌「Contributions to Zoology」にオンライン掲載されました。
左からヤマトカワニナ、クロカワニナ、トキタマカワニナ、チクブカワニナ、コンペイトウカワニナ。上段が成貝殻、下段が胎児殻。
研究者のコメント
「琵琶湖のカワニナ属は未解決の分類学的問題に加え、その種多様性の創出や種間の相互作用に関する興味深い問題を提示してくれます。著者らは今後も様々な方面からカワニナ属が抱える難問の解明に挑みたいと考えています。」(澤田直人)