2022-09-22 京都大学
哺乳類の中には、我々ヒトを含む有胎盤類と有袋類がいます。有胎盤類と有袋類はそれぞれ生息する環境に適応し、さまざまな形態を獲得してきました。系統的に離れているにもかかわらず進化過程で独立して似たような形態を獲得することを収斂と言いますが、こうした進化の結果獲得した形態は機能的にも類似しているのでしょうか?この課題は哺乳類の進化を考える上で重要である一方、複数の理由からこれまで検証が困難でした。その主な理由のひとつに、有袋類の解剖学的知見が不十分であったことが挙げられます。例えば有胎盤類と同等と考えられる筋肉に異なる名称が使用されたり、同じ有袋類の筋肉についての記述が文献によって異なったりと混乱も多く、有袋類の筋肉に関する解剖学的な知識それ自体に再評価と更新が必要でした。
そこで、東島沙弥佳 白眉センター特定助教、姉帯飛高 順天堂大学助教、姉帯沙織 埼玉医科大学助教らの共同研究グループは、オーストラリア・アデレード大学に所蔵されていたコアラ成獣標本において臀部ならびに後部大腿筋群の肉眼解剖と神経支配による筋の同定を実施しました。本研究で用いた筋の同定方法は、筋肉の発生学的な起源に基づくものであり、従来の方法より信頼性の高いものです。これにより、従来は困難だった他の分類群(有胎盤類)との解剖知見の比較も可能となり、樹上性霊長類と有袋類に共通する特徴や、コアラ特有の筋形態的特徴を明らかにすることができました。
本研究成果は、2022年9月15日に、国際科学誌「PLOS ONE」にオンライン掲載されました。
複数の筋肉が重なり合ったコアラのおしり(臀部)と後大腿部を丁寧に解剖し、長らく混迷していた解剖学的な記述を整理することができました。
研究者のコメント
「「コアラ」と言われれば、たいていの人はその姿を脳裏に思い浮かべることができるのではないでしょうか?しかし、その皮の下に一体どんな筋肉がどのように存在しているのか。コアラの解剖学がここ100年ほど、ほとんど更新されていないことは、ほとんどの方がご存知ないはずです(だからこそ100年近くも放置されていました)。最新の機器やツールが次々に発表され技術革新の著しい世の中ですが、生物を知るための基本はその形を丁寧に観察・記述することだと我々は考えています。」(東島沙弥佳)
研究者情報
研究者名:東島 沙弥佳