植物進化の解明と微細藻類の高度な産業利用の促進 ~温泉微細藻類ガルデリアの性の発見と高度な遺伝的改変技術~

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2022-10-04 国立遺伝学研究所,理化学研究所,科学技術振興機構

植物には、花を咲かせて受精により種子を生じるという「有性生殖」を伴う生活環が存在します。しかし、これまでに、進化の初期に出現した単細胞紅藻などは、無性生殖するとされていて、植物の有性生殖の起源や藻類・植物の進化の過程は不明でした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の廣岡 俊亮 特任助教、宮城島 進也 教授、理化学研究所の岩根 敦子 チームリーダーによる共同研究グループは、単細胞紅藻の一種で国内外の酸性温泉に生息するガルデリアが、有性生殖を行う生物の特徴である2倍体として存在し、特殊な環境にさらすことで減数分裂を行い細胞壁がない1倍体を生じることを発見しました。ガルデリアには、植物において花を作るための鍵遺伝子群の祖先遺伝子群が存在し、これらの機能を調べた結果1倍体が2倍体化する時に働くことが分かりました。さらに、1倍体を1倍体のまま安定的に増殖させることに加え、遺伝的改変技術の開発にも成功しました。

本研究は今後、植物の有性生殖の起源や藻類・植物の進化の過程の解明につながることが期待されます。一方で、ガルデリアは、たんぱく質および各種ビタミンの含有量が高く、短期間で超高密度まで増殖するため、新たな産業用藻類として世界各国で活用法の開発が進められています。また本研究グループにより、ガルデリアは、強力な抗酸化作用を持ち、記憶力の向上などの脳機能の促進効果が認められているエルゴチオネインを高濃度に含むことも明らかとなっています。しかし、2倍体のガルデリアの活用は、強固な細胞壁が原因で内容物の抽出が困難であり、遺伝的改変による品種改良も不可能という問題がありました。本研究によって発見された細胞壁のない1倍体は、内容物抽出が容易であり遺伝的改変も可能なため、これらの問題を解決することが期待されます。さらに、これらの特性を活用することによって家畜用の「食べるワクチン」など、微細藻類の高度な利用形態の創出も期待されます。

本研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に2022年10月3日の週(日本時間)に掲載されます。

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・共生細胞進化研究室と理化学研究所 生命機能科学研究センター・細胞場構造研究チームの共同研究で行われました。

また本研究は科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 探索加速型 本格研究「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域における研究開発課題「酸性水を用いた微細藻類の培養および利用形態の革新」(研究代表者:宮城島 進也)の支援を受けて行われました。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Life cycle and functional genomics of the unicellular red alga Galdieria for elucidating algal and plant evolution and industrial use”
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
宮城島 進也(ミヤギシマ シンヤ)
国立遺伝学研究所 共生細胞進化研究室 教授

<知財に関すること>
鈴木 睦昭(スズキ ムツアキ)
国立遺伝学研究所 産学連携・知的財産室 室長

<JST事業に関すること>
加藤 真一(カトウ シンイチ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部

<報道担当>
国立遺伝学研究所 リサーチ・アドミニストレーター室 広報チーム
理化学研究所 広報室 報道担当
科学技術振興機構 広報課

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