世界初、変動する光に対する植物葉内のCO2輸送の挙動を捉えた!

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野外で生きる植物の光合成を制御するメカニズムの解明に一歩近づく

2020-11-30 東京大学

発表者
迫田 和馬(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 特別研究員PD)
矢守  航(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 准教授)
発表のポイント
  • 変動光環境における植物葉内のCO2輸送の挙動を世界に先駆けて明らかにした。
  • 気孔の開くスピードや電子伝達系の活性状態が、野外環境における光合成の応答を強く制限する可能性を示した。
  • 将来的には、野外環境で高い生産性を示す作物の育成や、生態系スケールでのCO2動態を予測する新たなモデルの開発に貢献することが期待される。
発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の迫田和馬 特別研究員と矢守航 准教授らは、変動する光環境における植物葉内のCO2輸送の挙動を世界に先駆けて明らかにした。光エネルギーを用いてCO2から糖やデンプンを作り出す光合成は、植物の成長の根幹となる現象である。光合成の速度は葉に当たる光が強くなると上昇するが、光が弱い状態から急に強い状態に変化した場合、すぐには最大の速度に到達せず緩やかに上昇することが知られている。この光合成速度が緩やかに上昇する過程で何が起きているのかを明らかにすることは、光の強さが絶えず変化する野外環境における植物の成長を理解するうえで不可欠である。光合成の速度は、大気から葉緑体までどれだけ効率よくCO2を輸送するか、そしてCO2をどれだけ効率よく糖やデンプンへと変換するかによって決定される。葉に取り込まれてから葉緑体に運ばれるまでのCO2輸送の効率は光合成の制御と密接に関連することが知られるが、変動する光によって輸送効率がどのように変化するのか、その実態は明らかにされてこなかった。本研究グループは、高性能なガス交換測定装置とレーザーガス分析計を組み合わせることにより、変動光環境における葉内のCO2輸送の挙動を初めて明らかにした。さらに、光合成の生化学的および数理モデルを用いて光合成の制限要因を解析することで、変動光環境における光合成は気孔を通して大気からCO2を取り込む過程や、葉緑体における電子伝達の活性に強く制限される可能性を示した。この研究成果は、野外環境で高い生産性を示す作物を育成したり、生態系スケールでのCO2動態を予測する新たなモデルを開発するうえで大いに役立つと期待される。

発表内容

葉で行われる光合成は植物の成長を左右する重要な現象であり、光合成を制御するメカニズムの理解と、光合成能力の強化による植物の生産性向上を目指した研究が長らく行われてきた。光合成を駆動するエネルギー源である太陽光は、野外環境では雲や障害物などによって遮られるため、植物の葉に当たる光の強さは数秒~数分のスケールで大きく変動する。このような変動する光環境の中で、弱い光から強い光への急な変化に対して光合成の速度は俊敏に応答できず、緩やかに上昇しながら最大値に達するという応答を示す。この応答は光合成誘導反応(注1)と呼ばれ、野外環境にある植物の成長を決定づける要因のひとつとなる。変動光環境における光合成の制御メカニズムを明らかにすることは、野外で生きる植物の成長が決定されるプロセスを理解するうえで不可欠である。
光合成は、葉の表面にある小さな穴である気孔を介して大気中のCO2を葉内に取り込み、さらに葉緑体においてCO2から太陽光エネルギーを用いて糖やデンプンを合成するプロセスである (図1)。これまでに、光合成誘導反応は気孔を介した葉内へのCO2輸送の効率 (気孔コンダクタンス(注2)) や、葉緑体内での電子伝達やCO2固定反応の活性状態に強く影響されることがわかっている。一方、葉内から葉緑体までのCO2輸送の効率 (葉肉コンダクタンス(注3)) も光合成の制御に密接に関与することが知られているにも関わらず、変動光環境におけるその実態は未解明のままであった。
以上の背景を踏まえ、本研究ではモデル植物であるシロイヌナズナとタバコを対象に、ガス交換測定装置とレーザーガス分析計を組み合わせて変動光環境における葉肉コンダクタンスの挙動を解析した。その結果、暗黒から強光条件への変化に応じて気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスは緩やかに上昇し、最終的に一定状態に達するという誘導反応を示すことが明らかとなった (図2)。また、この誘導反応の速度は照射する光の強さに依存しなかった。次いで、強光照射後に異なる長さの暗黒条件に順応させた後に再び強光を照射し、気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスの誘導反応を解析した。気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスが光照射により一度誘導されると、その後に起こる誘導はより速く完了することが明らかとなった (図3)。一方、直前の暗黒条件が長いほど誘導反応に要する時間は長くなり、一定以上の暗黒条件に順応することでその誘導状態は解消されることが示唆された。
最後に、光合成の生化学的および数理モデルを用いて、光合成誘導を制御する要因を解析した。気孔コンダクタンス、葉肉コンダクタンス、そして葉緑体におけるCO2固定あるいは電子伝達の活性を光合成の制限要因と仮定し、各要因が光合成誘導に与える影響の大きさを比較した。その結果、光合成誘導は気孔コンダクタンスあるいは電子伝達の活性に強く制限されるが、葉肉コンダクタンスによる制限は比較的小さいことが示された (図4)。以上のことから、迅速な気孔の開口や電子伝達の活性化が、野外環境にある植物の光合成応答の改良に向けた鍵になることが示唆された。
本研究で得られた成果は、変動する光環境にある植物の光合成を制御するメカニズムを新たな側面から明らかにした点で植物生理学的に重要な知見となる。将来的にはこの知見に基づいて、野外環境にある作物の生産性を高める育種や生態系スケールのCO2動態を高精度に予測するモデルの開発が可能になるなど、多分野におけるさらなる発展が期待される。

図1 光合成における大気から葉緑体へのCO2輸送のプロセス
光合成において、CO2は葉の表面にある小さな穴である気孔を介して葉内に取り込まれ、さらに細胞内のすきまを通って葉肉細胞内の葉緑体へと輸送される。暗黒の状態から葉に光が照射されると気孔が開き、さらに葉肉細胞内のタンパク質の活性化などが起こる。これにより、大気から葉緑体へのCO2輸送の効率が時間の経過とともに緩やかに上昇していく。

図2 気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスは暗黒から強光条件への変化に対して誘導反応を示す
一晩暗黒条件においた(A, C)シロイヌナズナと(B, D)タバコの葉に対して強光を照射し、ガス交換測定装置とレーザーガス分析計を組み合わせることにより、(A, B)気孔を介した大気から葉内へのCO2輸送の効率(気孔コンダクタンス)と(C, D)葉内から葉緑体へのCO2輸送の効率(葉肉コンダクタンス)の挙動を解析した。気孔コンダクタンス、葉肉コンダクタンスの値が大きいほど、CO2輸送の効率が高いことを示す。2つの植物種において、暗黒から強光条件への変化に応じて気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスは緩やかに増加し、最終的に一定状態に達するという誘導反応を示すことが明らかとなった。

図3 気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスの誘導に要する時間は直前の暗黒条件の長さに比例する
強光を照射した後、(A, E)10分、(B, F)60分、(C, G)5時間、(D, H)一晩暗黒条件においたタバコの葉に対して強光を照射し、(A–D)気孔コンダクタンスと(E–H)葉肉コンダクタンスの挙動を解析した。気孔コンダクタンスと葉肉コンダクタンスが光照射により一度誘導されると、その後に起こる誘導はより速く完了することが明らかとなった。直前の暗黒条件が長いほど誘導に要する時間は長くなる一方、暗黒条件が5時間以上になるとその時間に大きな差はみられなかった。

図4 光合成誘導は気孔を介したCO2輸送の効率あるいは葉緑体内の電子伝達の活性に強く制限される
一晩暗黒条件においた(A, B)シロイヌナズナと(C, D)タバコの葉に対して強光を照射し、光合成の生化学的および数理モデルを用いて光合成誘導を制御する要因を解析した。気孔コンダクタンス、葉肉コンダクタンス、葉緑体における(A, C)CO2固定あるいは(B, D)電子伝達の活性を光合成の制限要因と仮定し、各要因が光合成誘導に与える影響の大きさを比較した。光合成誘導は気孔コンダクタンスあるいは電子伝達に強く制限されるが、葉肉コンダクタンスによる制限は比較的小さいことが示された。図2に示したように、気孔コンダクタンスは葉肉コンダクタンスよりも光の変化に対する応答が遅いため、気孔コンダクタンスが光合成誘導におけるCO2輸送をより強く制限することが明らかとなった。

 

発表雑誌
雑誌名
Plant Physiology
論文タイトル
Stomatal, mesophyll conductance and biochemical limitations to photosynthesis during induction
著者
Kazuma Sakoda*, Wataru Yamori*, Michael Groszmann and John R. Evans(*責任著者)
DOI番号
10.1093/plphys/kiaa011
論文URL
https://academic.oup.com/plphys/advance-article/doi/10.1093/plphys/kiaa011/6011081
問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 矢守 航(ヤモリ ワタル)
特別研究員PD 迫田 和馬(サコダ カズマ)

用語解説

注1 光合成誘導
弱い光から強い光への急な変化に対して、光合成の速度は緩やかに上昇しながら最大値に達するという応答を示し、この応答を光合成誘導と呼ぶ。

注2 気孔コンダクタンス
気孔を介した大気から葉内へのCO2輸送の効率を表す指標。

注3 葉肉コンダクタンス
葉内の細胞間の隙間から細胞内にある葉緑体までのCO2輸送の効率を表す指標。

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