自然免疫応答を担うToll様受容体シグナルの活性化が,アルツハイマー病の発症に関わる神経変性に対して保護作用を持つことをショウジョウバエモデルを用いた研究から明らかにしました

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2023-01-17 国立長寿医療研究センター

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)・研究所・認知症先進医療開発センター・神経遺伝学研究部の榊原泰史 研究員,山城梨沙 研究生(名古屋市立大学大学院),関谷倫子 副部長,飯島浩一 部長らは,生体防御反応である自然免疫応答のシグナルが,アルツハイマー病患者の脳に蓄積しているタウタンパク質の引き起こす神経変性に対して,保護的に働いていることを明らかにしました。

研究のサマリー

研究背景

自然免疫応答は,生体内に侵入した病原体をいち早く認識し排除する,生体防御の初期反応を担う重要なシステムです。自然免疫応答では,Toll様受容体(Toll-like receptor (TLR))と呼ばれる一群の膜タンパク質が病原体に対するセンサーとして働き,ヒトでは10種類のTLRが存在します。これらTLRが,それぞれ異なる抗原(病原体の構成成分)を認識し下流のシグナルを活性化することで,病原体などの異物を排除します。このように生体にとって保護的に働く自然免疫ですが,近年,自然免疫応答の慢性的な活性化が,アルツハイマー病の病態を悪化させる可能性も報告されており,TLRと神経変性の関係には,いまだ不明な点が多く残されています。

研究成果

本研究では,最初にToll様受容体が発見されたショウジョウバエを用い,老化,ならびに神経変性との関係を調べました。自然免疫応答はショウジョウバエからヒトに至る,すべての動物種に備わっており,ショウジョウバエには9種類のToll様受容体(Toll-1〜Toll-9)が存在します。今回,哺乳類のTLRと最も相同性の高い Toll-9の発現が,老化に伴い脳の免疫機能を司るグリア細胞で誘導され,脳内の自然免疫応答のシグナルを調節していることを見出しました(図1)。さらにToll-9を欠損したショウジョウバエでは,酸化ストレス毒性に対する耐性が低下していることも見出しました。

老化ならびに神経損傷によるToll様受容体の遺伝子発現変化

また,脳でのToll-9の発現は神経細胞の損傷によっても誘導されることを見出しました(図1)。その意義を調べるために,アルツハイマー病患者の脳に蓄積し神経変性を引き起こすタウタンパク質を発現したショウジョウバエモデルの脳で,Toll-9を欠損させてその働きを弱めたところ,タウタンパク質の異常なリン酸化が亢進し,神経変性が悪化することを見出しました(図2)。さらにその理由として,自然免疫応答のシグナル経路の一つである,ストレスキナーゼ(Stress Activated Protein Kinase: SAPK)シグナルの低下が関与していることを示しました。

タウタンパク質発現ショウジョウバエモデルを用いた,Toll-9欠損による神経変性の増悪化

本研究成果は,令和5年1月13日付けで米国Cell PressのiScience 誌に掲載されました。なお,本研究は国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費,科研費(日本学術振興会科学研究費助成事業)からの研究助成を受けて行われました。

原著論文情報

Yasufumi Sakakibara, Risa Yamashiro, Sachie Chikamatsu, Yu Hirota, Yoko Tsubokawa, Risa Nishijima, Kimi Takei, Michiko Sekiya, Koichi M. Iijima, “Drosophila Toll-9 is induced by aging and neurodegeneration to modulate stress signaling and its deficiency exacerbates tau-mediated neurodegeneration”, iScience, in press, 2023.

お問い合わせ先

この研究に関すること
国立長寿医療研究センター研究所・認知症先進医療開発センター
神経遺伝学研究部         部長 飯島 浩一

報道に関すること
国立長寿医療研究センター
総務部総務課広報担当 総務係長 伊藤

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