RNF213遺伝子多型を保有すると、家族性高コレステロール血症患者は、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を高率に発症する。

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2023-06-14 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科の野田浩太郎専門修錬医、服部頼都医長、猪原匡史部長、大阪医科薬科大学(大阪府高槻市)循環器センターの斯波真理子特務教授、名古屋大学環境医学研究所(愛知県名古屋市)内分泌代謝学の堀美香講師らのグループが、家族性高コレステロール血症患者における、RNF213遺伝子多型と頭蓋内動脈狭窄/閉塞症との関連を明らかにしました。この研究成果は、アメリカ心臓病学会の機関誌「JACC: Asia」に、現地時間2023年6月13日に掲載されました。

■背景

東アジアでのもやもや病(注1)の創始者多型(注2)として同定された、RNF213 p.R4810K多型は、我が国における頭蓋内動脈狭窄/閉塞症とも強い関連があることが知られています。一方で、我が国の健常者の1.5~2.5%が本多型の無症候性キャリアであり、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症に至るには何らかの遺伝学的因子または環境因子などの付加的要因が必要と考えられています。

家族性高コレステロール血症(FH)(注3)は、本邦で最も頻度の高い遺伝性疾患の一つで、LDLR遺伝子変異、PCSK9遺伝子変異等により、高LDLコレステロール血症、心筋梗塞・狭心症などの冠動脈疾患をもたらすことでよく知られています。しかしながら、FHと脳血管障害との関連は定まっていません。一方、FH患者の中でも一定数で脳梗塞を発症する患者を経験することがあります。

我々は、FH患者の中で、RNF213 p.R4810K多型陽性者と陰性者の頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を含めた脳血管障害の頻度を調査し、FHと本多型との関連を検討しました。

■研究手法

2005年~2020年にかけて、国立循環器病研究センターでFHと診断され、かつ、頭部MRAを撮影された患者を調査しました。FHの原因遺伝子であるLDLR 遺伝子とPCSK9遺伝子の変異と、もやもや病創始者多型であるRNF213 p.R4810K多型を判定、さらに頭部MRAを読影し、内頚動脈(ICA)、前大脳動脈(A1)、中大脳動脈(M1/M2)、脳底動脈(BA)の頭蓋内脳動脈狭窄/閉塞症の有無の調査を行いました。

■成果

本研究では、167名のFH患者を解析し、104名がLDLR 遺伝子変異、22名がPCSK9遺伝子変異を有しており、167名のFH患者のなかで6名がRNF213 p.R4810K多型を保有していました。本多型保有者のうち5名 (83.3%)、非保有者のうち56名(34.8%)で頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を認めました (p = 0.025)。この結果は、血管危険因子の高血圧症、糖尿病やMRAが撮影された年齢、性別で調整した多変量精確ロジスティック回帰分析を行ったところ、本多型は、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症の独立した予測因子でした(オッズ比 5.44、95%信頼区間 1.10–無限大、p = 0.019)(表1)。頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変数も本多型保有者で有意に多く(本多型保有者:中央値 3病変[四分位 2–6]、非保有者:1[1–2]、p = 0.01)、前方循環系(ICA、A1、M1/M2)にのみ狭窄病変を認めました。FH患者における頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変は、RNF213 p.R4810K多型と強い関連があることが明らかとなりました。

表1. FH患者における頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を規定する因子(多変量精確ロジスティック回帰分析*)

オッズ比 95% 信頼区間 p
RNF213 p.R4810K 5.44 1.10–無限大 0.019
糖尿病 1.82 0.67–7.03 0.25
高血圧 2.04 0.73–9.47 0.23
男性 0.18 0.01–0.98 0.043

* MRA撮影年齢で調整しました。
RNF213 p.R4819K多型は、FH患者における頭蓋内動脈狭窄/閉塞症の独立した予測因子でした(オッズ比 5.44、95%信頼区間 1.10–無限大、p = 0.019)。

■今後の展望と課題

本研究により、RNF213 p.R4810K多型を保有するFH患者では、高頻度(83.3%)に頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変を保有しており、FHによる持続的な高LDLコレステロール血症の暴露とRNF213 p.R4810K多型による血管内皮細胞傷害、あるいはFH原因遺伝子変異そのものと本多型の遺伝子相互作用で、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症が発症したと考えられます (図1)。既報告でFHではない本多型保有者の中で約23%で頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を発症するとされており、本研究の結果を合わせますと、RNF213 p.R4810K多型保有者の頭蓋内動脈狭窄/閉塞症の発症の環境因子の1つとして、脂質異常症が示唆されたため、脂質異常症治療薬で本多型による頭蓋内血管狭窄/閉塞症が予防できる可能性があり、今後、脂質異常症治療薬を用いた臨床試験を計画しています。

図1

RNF213 p.R4810Kは、高LDLコレステロール血症とともに血管内皮細胞傷害(炎症性変化、細胞間密着結合の脆弱化、有糸分裂異常)を生じさせ、血管内のLDLが血管内膜へ浸潤しやすくなり、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を発症しやすくすることが示唆される。

■注釈

(注1)もやもや病
内頸動脈終末部の狭窄とその周辺で形成される異常な血管網を特徴とする疾患である。白人やアフリカ人では少なく、東アジアの日本、韓国および中国で頻度が高い。約1万人に1名の頻度の稀少疾患だが、女性に多く、脳出血や脳梗塞として発症することで知られる。京都大学および国循のグループが1978年に開発した外科的療法が現在も有効な治療として確立されている。本疾患は、発見から治療まで日本人によってなされてきた。

(注2) 創始者多型
集団の最初の一人が有し、子孫集団中に広がったと考えられる遺伝子多型のこと。RNF213 p.R4810K多型は、推定1万5千年前の中国、韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることが判明しており、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子多型である。

(注3)
遺伝的に血中のLDLコレステロールが高くなる病気。LDLコレステロールが高く、若年性に心臓の血管に動脈硬化を起こす遺伝性の疾患。

■発表論文情報

著者: Kotaro Noda, Yorito Hattori, Mika Hori, Yuriko Nakaoku, Akito Tanaka, Takeshi Yoshimoto,
Kunihiro Nishimura, Takanori Yokota, Mariko Harada-Shiba, Masafumi Ihara
題名: Amplified risk of intracranial artery stenosis/occlusion associated with RNF213 p.R4810K
in familial hypercholesterolemia
掲載誌: JACC: Asia

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「脳卒中における循環器病感受性遺伝子の役割解明と
ゲノム医療の探索」により支援されました。

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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