日本人でも急性期脳梗塞の発症24時間までのカテーテルを用いた脳血管内治療に灌流画像が有用

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2022-01-28 国立循環器病研究センター,日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の井上学脳血管内科/脳卒中集中治療科医長・古賀政利脳血管内科部長・豊田一則副院長らの研究チームは、急性期脳梗塞を発症し造影剤を使用した灌流画像検査の結果から治療適応を判断して、6時間以内と、6-24時間にカテーテルを用いた脳血管内治療(機械的血栓回収療法)を受けた場合、両グループに臨床転帰の有意差がないことを報告しました。世界的にはランダム化比較試験で2019年にすでに報告され、ガイドラインなどへの掲載が始まっていますが、日本人における灌流画像を使用した報告は初めてです。本研究成果は、Journal of the American Heart Association誌に2021年12月10日付でonline掲載されました。

背景

脳に栄養等を補給する太い血管が血栓により詰まった場合、発症6時間以内にカテーテルを使用した血管内治療を行い血栓を回収することで予後の改善が期待できます。さらに、造影剤を使用した灌流画像(脳の血流を見る画像検査)を、専用の解析ソフト(RAPIDソフトウエア、米国iSchemaView社)によってペナンブラ(注1)を判定することで、この「6時間」という時間制限を「24時間」まで拡大することが可能といわれています。従来、脳梗塞における梗塞範囲は時間と共に拡大してしまうため、治療が早ければ早いほど効果が高いことが知られていますが、なかには梗塞範囲があまり拡大しない場合もあることがわかってきました。それが灌流ミスマッチ(注2)という状態で、判定する画像診断技術が灌流画像解析です。灌流画像を解析し、灌流ミスマッチがあれば、発症24時間まで機械的血栓回収療法が行えることが2018年より海外の脳卒中ガイドラインに掲載されてきました。しかしこれらはあくまでも厳格な臨床試験(ランダム化比較試験)による結果を元にしており、実際の臨床データでかつ日本人での検討はされていませんでした。

本研究グループは、当院脳血管部門に入院された症例データから、前向き登録研究であるNCVC Strokeレジストリ を構築しています。また、当センターでは、2017年に日本で初めて井上らが灌流画像解析ソフトRAPIDを導入しました。今回、当該レジストリを用い、2017年より日本で初めて井上らにより導入している灌流画像解析ソフトRAPIDを使用して、急性期脳梗塞を発症してから6時間以内と、6-24時間以内の2群における、灌流画像解析の灌流ミスマッチ判定を踏まえた機械的血栓回収療法の有効性について、日本人の実臨床データで比較検討しました。

研究手法と成果

NCVC Strokeレジストリに登録された2017年8月から2020年7月までの、発症から24時間以内に急性期脳梗塞に対して、灌流画像撮像後に機械的血栓回収療法を受けた症例を後ろ向きに検討しました。灌流画像解析にはRAPIDを使用しました。灌流ミスマッチありの118例を6時間以内(87例)と、6-24時間(31例)の2群に分け、脳梗塞発症90日後の日常生活自立度を比較、解析しました。解析の結果、6時間以内の群と6-24時間の群では日常生活自立度に有意差は見られませんでした(図)。つまり6時間を超えても灌流ミスマッチがあることを確認して機械的血栓回収療法を行うことで、従来の6時間以内の効果に劣らず同等の治療効果が期待できることを日本人で確認しました。


図 修正ランキン尺度:脳卒中発症後の生活自立度の尺度である修正ランキン尺度modified Rankin Scale(mRS)は、脳卒中診療において身体障害の指標として広く使われており、臨床研究での機能予後評価項目としても利用されている。一般的にmRSは脳卒中患者の社会的不利益と行動の制限をgrade 0(無症候)からgrade 5(重度の障害)の6段階で評価している。

今後の展望と課題

海外ではすでにランダム化比較研究で灌流ミスマッチが存在した場合の24時間までの機械的血栓回収療法の有効性がガイドラインに明記されています。日本でも、2021年の脳卒中ガイドラインに海外の当該研究を踏まえた記載はありますが、日本人における実臨床のデータを使用した報告は初めてです。

脳梗塞の治療は時間との勝負でありますが、灌流ミスマッチがあれば治療可能時間が広がる可能性があるため、世界的に注目されており、国内における灌流ミスマッチを確認するための脳梗塞画像診断の普及と更なる研究が期待されます。

注釈
(注1)ペナンブラ
脳血管が詰まると脳梗塞が起こります。その際に、詰まってしまった血管から栄養などを補給される脳細胞の中心部は少なからず死滅してしまいますが、死滅しかかった脳細胞の周囲はまだ機能が残存している可能性があります。この死滅した脳細胞の周囲にある領域をペナンブラと呼び、治療次第では再び機能を取り戻す可能性がある領域とされています。
(注2)灌流ミスマッチ
前述のすでに死滅してしまった脳細胞とペナンブラの領域に差があれば、救済可能な領域があり、発症時刻に関わらず血栓溶解療法(tPA)や脳血管内治療への治療反応が良好な可能性があります。この状態を「灌流ミスマッチあり」と言います。
発表論文情報
著者
井上学、吉本武史、田中寛大、福田哲也、佐藤徹、片岡大治、猪原匡史、古賀政利、豊田一則
題名
Mechanical Thrombectomy Up to 24 Hours in Large Vessel Occlusions and Infarct Velocity Assessment
掲載誌
Journal of the American Heart Association
DOI
10.1161/JAHA.121.022880
謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • 厚労科研費基盤C 2017-2019年、2019-2022年 井上 学
  • 循環器病研究振興財団・第26回バイエル循環器病研究助成(2018年) 井上 学
  • 日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業 急性期虚血性脳血管障害の非侵襲的画像診断指針の提案 (2018-2019年度) 古賀政利
お問い合わせ

報道機関からの問い合わせ先
国立循環器病研究センター総務課広報係

AMED事業に関する問い合わせ先
日本医療研究開発機構(AMED) 疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

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