水痘ワクチンの定期接種化で子どもの水ぼうそうの発生率が大きく減少 ~抗ウイルス薬の使用率や医療コストの減少も明らかに~

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2023+-07-19 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保祐輔室長、浜松医科大学小児科学講座宮入烈教授らの研究チームは、2014年に定期接種となった水痘[1]ワクチン[2]と2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴う感染対策が、子どもの水痘発生率や医療コストに与える影響を調査しました。
その結果、水痘の発生率は水痘ワクチンの定期接種により45.6%減少し、新型コロナウイルスに伴う感染対策が開始された2020年度以降はさらに減少していることが分かりました。
また、水痘の発生率の減少に伴い、処方される抗ウイルス薬の使用率や医療コストも4割以上減少していることが明らかになりました。このことから、「水痘ワクチンの定期接種化」が子どもと保護者の身体的・経済的負担の軽減や、医療コストの低下につながることが示されました。
本研究の成果は、ワクチン分野の学術誌Vaccineに掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者らの意見であり、厚生労働省の見解ではありません。

[1]水痘(みずぼうそう)は水痘・帯状疱疹ウイルスへの感染で生じ、水疱(水ぶくれ)を伴う皮疹が特徴的で、主に小児期に発症します。水痘は免疫正常者では自然に治癒することが多いですが、時に合併症(皮膚の細菌感染症、肺炎、小脳失調、脳梗塞など)を引き起こすことがあります。
[2]水痘ワクチンは、標準的には1回目は生後12ヵ月から15ヵ月までの間に接種します。2回目は、1回目接種から3ヵ月以上の間隔をおいて接種可能ですが、標準的には6~12か月の間隔をあけて接種します。2014年10月から定期接種化され、接種対象者は生後12~36か月の子どもで、無料で接種可能となりました。1回の接種で水痘の発生率を8割減らし、重症の水痘をほぼ100%予防できます。2回の接種で水痘にかかるリスクを94%減らすとされています。

【図1:子どもの水痘発生率と医療コストの推移】【図1:子どもの水痘発生率と医療コストの推移】

プレスリリースのポイント

  • 株式会社JMDCの提供するレセプト(診療報酬明細書)データベースを用い、2005年から2022年の18年間における20歳未満の子ども約350万人分のデータを調査しました。
  • 水痘ワクチンの定期接種の導入により、水痘の発生率は45.6%減少しました。
  • 新型コロナウイルスの感染対策が開始された2020年度以降は水痘の発生率がさらに57.2%減少していることがわかりました。
  • 水痘の発生率低下に伴い、抗ウイルス薬の使用率と医療コストの低下が確認されました。

背景・目的

  1. 日本では2014年10月から水痘ワクチンが定期接種化され、その後の水痘患者数の減少が報告されています(Morino S, et al. Vaccine. 2018;36:5977-5982.)。しかし、水痘ワクチンの導入による医療経済的な影響や抗ウイルス薬の使用率の変化はまだ明らかにされていませんでした。また、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う感染対策が、子どもの水痘の疫学にどのような影響を与えたのかについても、これまで報告されていませんでした。
  2. 過去の研究から水痘ワクチンの導入により、帯状疱疹[3]の発症者数が減少するという報告と、増加するという報告の両方が存在し、意見が分かれていました。しかし、日本では子どもの帯状疱疹の疫学について全国規模で評価した研究がなく、この問題を検討するため本研究を実施しました。

[3]帯状疱疹とは、体内に潜伏した水痘ウイルスの再活性化により、皮膚に赤い発疹、水疱、痛みを来たす疾患で、治癒後も長期間にわたり神経痛が残る可能性があります。

研究内容と成果

株式会社JMDCの提供するレセプト(診療報酬明細書)データを用いて、20歳未満の子どもを対象にデータ分析を行いました。2005~2022年の18年間で、約350万人の子どものレセプトデータを抽出しました。本研究では、水痘の発生率に影響を与える可能性のあった「水痘ワクチンの定期接種化」および「新型コロナウイルスの流行開始」に注目し、分割時系列解析(Interrupted time-series analyses)[4]を行いました。
水痘の発生率は、2014年10月のワクチンの定期接種化により、45.6%減少していました(図1左)。また、2020年度以降の新型コロナウイルスに対する感染対策により、水痘の発生率はさらに57.2%低下していました。また、水痘の発生率の低下に伴い、2014年以降、抗ウイルス薬の使用率は40.9%減少し、医療コストも48.7%減少しました。2020年度以降はさらに抗ウイルス薬の使用率は65.7%減少し、医療費コストも49.1%減少しており、抗ウイルス薬の使用率と医療コストの低下が確認されました(図1右)。一方で、帯状疱疹の発生率の推移に関して、水痘ワクチンの定期接種化や感染対策の影響は、ほとんど認められませんでした(図2)。
また、出生年で3つのグループに分けて(2005年~2009年[グループ1]、2010年~2013年[グループ2]、2014年~2022年[グループ3:水痘ワクチンの定期接種世代])追跡し、水痘および帯状疱疹の累積発生率を評価しました。
水痘の累積発生率は、水痘ワクチンの定期接種が始まったグループ3で最も低いことが明らかになりました(図3左)。また、帯状疱疹の累積発生率についてもグループ3で最も低いことが判明しました(図3右)。
[4]分割時系列解析とは、集団に対し介入があった際に発生前後の測定を行い、その変化を見る統計学的な手法。

図2:子どもの帯状疱疹発生率の推移【図2:子どもの帯状疱疹発生率の推移】
図3:子どもの出生年代別の水痘および帯状疱疹の累積発生率【図3:子どもの出生年代別の水痘および帯状疱疹の累積発生率】

発表論文情報

題名(英語):Impacts of routine varicella vaccination program and COVID-19 pandemic on varicella and herpes zoster incidence and health resource use among children in Japan
著者名(英語):Kazuhiro Uda1), Yusuke Okubo2)*, Mitsuru Tsuge3), Hirokazu Tsukahara1), Isao Miyairi 4)
1)岡山大学大学院 医歯薬総合研究科 小児医科学講座
2)国立成育医療研究センター 社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室(*責任著者)
3)岡山大学 小児急性期疾患学講座
4)国立大学法人 浜松医科大学小児科学講座
掲載誌:Vaccine
DOI:10.1016/j.vaccine.2023.06.054

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本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

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