2023-09-13 金沢大学
金沢大学環日本海域環境研究センター臨海実験施設の豊田賢治特任助教,国立研究開発法人国際農林水産業研究センターの奥津智之主任研究員,三重県栽培漁業センターの山根史裕氏,神奈川大学の大平剛教授らによる共同研究グループは,クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)の甲殻類雌性ホルモン(crustacean female sex hormone: CFSH)の2つの新規生理作用を発見しました。
CFSH はワタリガニの仲間から最近見つかった新しいホルモン分子で,メスの二次性徴の形成に関与していることが分かっています。その後,さまざまなカニやエビの仲間からも CFSH が見つかっていますが,その多くの種では,ワタリガニとは異なり,メスだけでなくオスでも CFSH 遺伝子が発現しており,メスの性分化への関与も認められていません。クルマエビも例外ではなく,CFSH 遺伝子は雌雄両方で発現しており,その生理機能は不明のままでした。そこで本研究では,クルマエビの CFSH の生理機能を明らかにするために,体長 10 mm 程度の稚エビに対して CFSH の機能抑制実験を実施しました。その結果,CFSH が抑制されると雌雄両方で体色が明化すること,さらにメスに比べてオスの成長が阻害されることが分かりました。これらの知見から,クルマエビの CFSH が新規の体色制御ホルモンであること,そして稚エビの成長に関与していることが示唆されました。
クルマエビは重要な水産種で,成長が早いメスの方がオスよりも高い商品価値があります。本成果を応用して, CFSH 量を増やすことでオスの成長スピードを上げることができれば,クルマエビ養殖の大幅な効率化が可能になると期待されます。今後,クルマエビ以外の種でも CFSH に同様の生理作用があることを示すことができれば,エビやカニなどの甲殻類の増養殖技術の効率化に大きく貢献できると期待されます。
本研究成果は,2023 年 9 月 10 日に国際学術誌『General and Comparative Endocrinology』のオンライン版に掲載されました。