2023-09-15 京都大学
急性肝炎は、何らかの原因により炎症性に肝細胞の破壊が起こり、肝機能が低下する病気です。肝炎ウイルス感染など原因が明らかな場合がある一方で、未だに原因が不明な「原因不明急性肝炎」と呼ばれる病態が存在します。2022年4月にWHOは、英国において主に10才未満の小児に、この原因不明急性肝炎が流行している事を報告し、世界各国に注意喚起を行ないました。また、世界的に本症に対する原因解明研究が進められました。
岡本竜弥 医学研究科助教、岡島英明 同非常勤講師(金沢医科大学教授)、波多野悦朗 同教授らの研究グループは、本症に罹患し、医学部附属病院において肝移植を行なった症例について、免疫応答に関わる重要な分子であるヒト白血球抗原(HLA)のタイピング結果を集計し、これを健常日本人のコントロールと比較しました。また、HLA分子のアミノ酸配列についても比較を行ない、疾患と関連するアミノ酸変異の有無を調査しました。その結果、特定のHLAタイピングを持つ個体で、本症への罹患が有意に少ない事を見出し、さらに、これと有意に関連するアミノ酸変異も同定しました。これらの結果は、本症の発症もしくは増悪に、HLA分子が関連する因子である事を示しており、今後の病態解明に向けた手がかりとなる可能性があります。
本研究成果は、2023年9月12日に、国際学術誌「HLA: Immune Response Genetics」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「小児期における原因不明急性肝炎は、以前から肝疾患の領域において重要な課題でした。疾患の初期にはありふれた胃腸かぜのような症状を呈していただけの乳幼児が、数日の経過で明らかな黄疸に進行し、更には出血傾向及び意識レベルの低下から集中治療を必要とし、救命のために緊急の肝移植を余儀なくされます。私たちの診療グループも、なぜこれほど急激な症状を来す疾患が原因不明なのか、つねに疑問を感じていました。2022年の英国を発端とする本症の流行は、図らずも世界中の医療者、研究者にもう一度この疾患の原因究明に向けた取り組みを推進する機運をもたらし、アデノウイルスやアデノ随伴ウイルスなどの外的要因や、HLAといった有病者側の内的要因がこの疾患の誘因となっている可能性を示しました。しかしながら、私たちも含めたこれらの研究結果は、『この劇的な肝炎がどのように惹起されるのか』という問題に対する本質的な解答ではなく、『ウイルス』や、『HLA』が本症発症とどのように関連するかを追及することが、この問題の最終的な解答を得るための近道ではないか、という予想を立てたに過ぎません。この問題の最終的な解決に向けて、引き続き私たちも、本症の臨床と研究を推進して行きたいと考えております。」(岡本 竜弥)
詳しい研究内容について
日本人における原因不明重症急性肝炎とHLAとの関連を発見-特定のHLAタイピングにおいて本症への罹患が有意に少ない-
研究者情報
研究者名:岡本 竜弥
研究者名:波多野 悦朗