発育性股関節形成不全の遺伝的リスクが変形性股関節症発症へ与える影響を解明~変形性股関節症の病態解明に期待~

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2023-09-19 九州大学

ポイント

  • 発育性股関節形成不全による変形性股関節症発症への遺伝的要因の影響は十分に解明されていない。
  • 発育性股関節形成不全の遺伝的リスクが変形性股関節症発症や重症化に関与することを示した。
  • ゲノムレベルでの発育性股関節形成不全や変形性股関節症における遺伝子研究の価値を保証するものであり、今後のゲノム研究による両疾患の病態解明が期待される。

概要
 変形性関節症は世界最多の関節炎であり、病態解明が強く求められています。変形性関節症の中でも股関節痛を来す変形性股関節症のリスクとして、股関節の発達が不十分で軟骨の摩耗を生じやすい発育性股関節形成不全が指摘されてきました。発育性股関節形成不全の病態が分かれば変形性股関節症の理解につながりますが、その病態と変形性股関節症への進展要因は十分分かっておらず、特に遺伝的要因については不明でした。
我々は、これまで論理的に解明されていなかった発育性股関節形成不全の遺伝的なリスクがもたらす変形性股関節症の進行への影響を明らかにしました。
九州大学大学院医学研究院整形外科教室の吉野宗一郎大学院生(医学系学府博士課程4年、理化学研究所リサーチアソシエイト)、中島康晴教授、山口亮介助教、田中秀直大学院生(医学系学府博士課程4年)、理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、同センター骨関節疾患研究チーム(研究当時)の池川志郎チームリーダー(研究当時)らの共同研究グループは、発育性股関節形成不全の患者様から聴取した詳細な家族歴や発症年齢、治療歴などの情報を解析し、発育性股関節形成不全の遺伝的リスクが強いほど変形性股関節症の発症や進行が早まることを明らかにしました。
今回の発見は発育性股関節形成不全や変形性股関節症の病態解明に役立つことが期待されます。
本研究結果は米国の科学雑誌「The Journal of Arthroplasty」に2023年9月13日(現地時間)に公開されました。

研究者からひとこと
今回の研究により、発育性股関節形成不全が変形性股関節症に与える遺伝的リスクの影響が明らかになりました。今後の研究では、具体的な遺伝子レベルでの研究による両疾患の詳細な病態解明が期待されます。

発育性股関節形成不全の遺伝的リスクが変形性股関節症発症へ与える影響を解明~変形性股関節症の病態解明に期待~

図1 発育性股関節形成不全に伴う変形性股関節症のX線変化(左端は股関節症発症前の発育性股関節形成不全患者のX線写真。右に進むにつれて変形性股関節症が進行している。)

用語解説
(※1) 家族内発生・・・両親や兄弟姉妹、その他近親者に同じ疾患を有する人が存在すること

(※2) ゲノムワイド関連解析(GWAS)・・・生物集団のゲノム塩基配列中には、一つの塩基が他の塩基に置き換わった多様性が見られ、これを一塩基多型(SNP)という。ゲノムワイド関連解析は着目した形質に関連するSNPを、全ゲノム領域にわたって探索する手法である。GWASはgenome-wide association study、SNPはsingle nucleotide polymorphismの略。

論文情報
掲載誌:The Journal of Arthroplasty
タイトル:Family history of developmental dysplasia of the hip is a risk factor for the progression of hip osteoarthritis
著者名:Soichiro Yoshino, Ryosuke Yamaguchi, Hidenao Tanaka, Shiro Ikegawa, Yasuharu Nakashima, Chikashi Terao
DOI:10.1016/j.arth.2023.08.026

研究に関するお問い合わせ先
九州大学大学院医学研究院 整形外科学教室
九州大学大学院医学系学府 博士課程4年
理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チーム 大学院生リサーチアソシエイト
吉野 宗一郎
九州大学大学院医学研究院 整形外科学教室
理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チーム

医療・健康
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