iPS細胞を用いたヒト体節発生のモデル化と進行性骨化性線維異形成症の病態解析

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2018-08-24 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)

ポイント

  • 発生期におけるシグナル環境注1を模倣することで、体節細胞注2とよばれる中胚葉注3細胞の一種を高効率で誘導する方法を開発した。
  • 体節細胞から腱・靭帯細胞、真皮細胞、および間葉系間質細胞注4様細胞への分化誘導に初めて成功した。
  • 本分化誘導法を、進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva; FOP)注5患者さん由来iPS細胞に用い、その病態の一部を再現した。
  • 著者らの先行研究により同定されていた、FOPの進行を抑える薬の候補であるラパマイシン注6が、体節由来間葉系間質細胞様細胞にも効果があることを示した。

1. 要旨 中島大輝大学院生(CiRA未来生命科学開拓部門)と池谷真准教授(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、 ヒトiPS細胞から中胚葉細胞の一種である体節細胞への効率的な誘導法を確立し、さらに体節細胞から骨格筋細胞、軟骨細胞、腱靭帯細胞、真皮細胞、間葉系間質細胞様細胞へと分化誘導する方法を確立しました。体節細胞から骨格筋細胞、軟骨細胞、腱靭帯細胞、真皮細胞という4つの全ての派生細胞を誘導したのは、世界初の成果です。また、これらの誘導法をFOP患者さん由来iPS細胞に用いてFOPの病態を再現し、さらに、先行研究で同定したFOPの進行阻害薬であるラパマイシンの効果を確認しました。これにより、本研究で確立した誘導法が疾患研究に有効であることが示されました。

この研究成果は2018年8月24日午前10時(日本時間)に英国科学誌「Development」で公開されました。

2. 研究の背景 ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞を出発点とする分化誘導法を構築する際、発生期におけるシグナル環境を再現することは重要なヒントとなります。これまでの研究から、中胚葉細胞を誘導する際にはアクチビン/ノーダル/トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)注7シグナル、または骨形成タンパク質(BMP)注8シグナルが使われていました。しかし、この誘導条件で主に誘導される中胚葉は、側板中胚葉注9であり、別の亜集団である沿軸中胚葉注10への誘導効率は20%程度と高くありませんでした。沿軸中胚葉は発生初期に前体節中胚葉を経て体節を形成し、さらに体節は背側の皮筋節と腹側の硬節に分化します(Fig. 1)。皮筋節は、さらに骨格筋の前駆体である筋節と、真皮のもとである真皮節へと分化し、硬節からは主に骨軟骨と、腱および靭帯の前駆体である靭帯節が形成されます。このように沿軸中胚葉は脊つい動物の形態形成に重要な役割を果たす細胞であり、高効率な誘導法の確立が望まれていました。

近年、いくつかの研究グループにより、異なるアプローチ方法での沿軸中胚葉の誘導法が発表されました。これらの研究では、アクチビン/ノーダル/TGFβシグナルの阻害剤添加という多能性幹細胞を神経(背側)方向への分化を誘導する条件と、比較的高濃度のGSK3注11阻害剤(WNTシグナル注12活性化剤)を組み合わせて培養することで、沿軸中胚葉マーカーを発現する細胞の誘導効率を70〜95%にまで高めることができました。

しかし、これらの研究では沿軸中胚葉から分化する細胞のうち筋節や硬節への分化能は示されていましたが、真皮節や靭帯節への分化能は、分化誘導法が確立されていないという理由もあり、示されていませんでした。また、成体における骨、軟骨、脂肪細胞のもととなる間葉系間質細胞に沿軸中胚葉が分化できるかどうかを検証した論文も存在しませんでした。

今回の研究ではヒトiPS細胞から前体節中胚葉細胞、体節細胞を誘導し、さらにそこから筋節細胞、硬節細胞とともに真皮節細胞と靭帯節細胞、および間葉系間質細胞様細胞へと分化可能であることを示しました。さらに、難治性希少疾患であるFOP患者さんから作製したiPS細胞に今回開発した誘導方法を適用し、FOPの病態を再現することに成功しました。本結果は、今回開発した分化誘導法が、正常および疾患のヒト体節の発生をモデル化するための強力なツールとなりうることを示しています。

Fig.1 沿軸中胚葉への分化
ヒトiPS細胞(hiPS)は前体節中胚葉(Presomitic mesoderm)、体節細胞(Somite)へと分化したのち、腹側部分は硬節細胞(Sclerotome)に、 背側部分は皮筋節細胞(Dermomyotome)にそれぞれ分化する。硬節細胞の一部は靭帯節細胞(Syndetome)に分化し、皮筋節細胞は筋節細胞(Myotome)と真皮節細胞(Dermatome)へと分化する。
(カッコ内はそれぞれで発現している遺伝子群。)

3. 研究結果1. ヒトiPS細胞から前体節中胚葉細胞の誘導
まず、ヒトiPS細胞から前体節中胚葉細胞への誘導法を開発するために、マウス胚およびニワトリ胚におけるシグナル環境を参考にし、TGFβ-OFF / WNT-ON / BMP-OFF / FGF注13-ONの条件でヒトiPS細胞を培養しました。この際、mTeSR1注14およびマトリゲル注15を用いたフィーダーフリー注16条件下で3日間培養した後、血清を含まない化学合成培地に 10 µMのSB431542(アクチビン/ノーダル/TGFβ阻害剤)、10 µMのCHIR99021(GSK3阻害剤)、2 µMのDMH1(BMP阻害剤)、および20 ng / mLのFGF2を加え4日間培養しました(Fig. 2A)。 誘導された細胞を、前体節中胚葉細胞のマーカーであるDLL1の陽性率と、1つ発生の進んだ体節細胞のマーカーであるPAX3の陰性率注17を指標にフローサイトメトリー解析注18を行ったところ、DLL1陽性かつPAX3陰性細胞が高効率(85.4±0.4%)で誘導されていることが分かりました(Fig. 2B)。同様の結果は、前体節中胚葉細胞の別のマーカーであるTBX6の免疫染色(Fig. 2C)などでも確認されました。また、他のiPS細胞株においても同様に、DLL1陽性細胞が高効率で誘導されました。

Fig.2 前体節中胚葉への分化誘導

A. 誘導条件の模式図。

B. フローサイトメトリー解析の結果。DLL1陽性かつPAX3陰性の前体節中胚葉細胞が高効率で誘導されている。

C. 前体節中胚葉のマーカーの1つであるTBX6の抗体染色でも高効率な誘導が確認された。
赤:TBX6、青:細胞核
スケールバー:50 µm

2. 前体節中胚葉から体節細胞の誘導
次に、DLL1陽性細胞を分離した後、体節細胞への誘導を試みました。発生期のシグナル環境を参考に、10 µMのSB431542および5 µM のCHIR99021で4日間処理してDLL1陽性細胞を培養したところ(Fig. 3A)、PAX3陽性の体節細胞が高効率(74.7±0.5%)で誘導されることが分かりました(Fig. 3B)。さらに、SB431542だけで処理をした場合でも体節細胞マーカーであるPAX3、PARAXIS、MEOX1の発現は誘導されましたが、CHIR99021とSB431542の両方の添加時にのみ細胞接着因子CDH11が細胞間接合部に蓄積し、体節細胞の形態的特徴である上皮化が観察されました(Fig. 3C)。

Fig.3 体節細胞への分化誘導

A. 誘導条件の模式図。

B. フローサイトメトリー解析の結果。DLL1陰性かつPAX3陽性の体節細胞が高効率で誘導されている。

C. 体節細胞の特徴の1つとして、CDH11が細胞間接合部に濃縮している。
赤:CDH11、青:細胞核
スケールバー:50 µm

3. 皮筋節細胞を介した筋節細胞および真皮節細胞の誘導
次に、体節細胞から次の発生段階の細胞への誘導を試みました。体節の背側は皮筋節細胞になり、さらに筋節細胞と真皮節細胞へと分化します(Fig. 4A)。皮筋節細胞の分化にはWNTシグナルおよびBMPシグナルが重要な機能を果たしていることが知られているため、10 µMのIWR1(WNTシグナル阻害剤)と種々の濃度のCHIR99021を用いてWNTシグナル強度を、また、10 µMのDMH1といくつかの濃度のBMP4を用いてBMPシグナル強度を調整して培養したところ、5 µM のCHIR99021および10 ng/mLの BMP4を添加すると、皮筋節細胞マーカーであるEN1の発現が効率的に誘導されることを見出しました(Fig. 4B)。誘導された皮筋節細胞の分化能力を確認するため、さらに筋節細胞への誘導を行いました。CHIR99021の単体投与により18〜30日で筋節細胞マーカーであるMYOD陽性細胞およびMYOG陽性細胞が約22%の効率で誘導されることが分かりました(Fig. 4C)。一方、継続して皮筋節誘導条件で培養を行ったところ、誘導9日で真皮節細胞マーカーの発現が上昇しました。PDGFRαは真皮節細胞および皮膚線維芽細胞で発現し、EN1は真皮節細胞および皮筋節細胞で発現するため、真皮節細胞はPDGFRα陽性かつEN1陽性細胞として定義されます。フローサイトメトリー解析により、真皮節誘導9日目の細胞の69.5±1.4%がPDGFRα陽性であり、そのPDGFRα陽性細胞のうち92.7±0.4%がEN1陽性と分かりました(Fig. 4D, E)。またマーカーの発現だけではなく、真皮細胞の機能の1つであるコラーゲンおよびヒアルロン酸などの細胞外マトリックス注19タンパク質の分泌を調べたところ、iPS細胞由来の真皮節細胞は、成人の皮膚線維芽細胞と同程度の1型コラーゲンおよびヒアルロン酸を分泌していることが分かりました。

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