心房細動アブレーション後、抗凝固療法継続が必要な患者群は?リアルワールドデータを用いた検討

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2023-12-20 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)情報利用促進部の金岡幸嗣朗室長、岩永善高客員部長、奈良県立医科大学今村知明教授らのグループが、心房細動に対するカテーテルアブレーション後の6ヶ月以降の抗凝固療法※1の継続は、脳梗塞リスクスコアであるCHADS2スコア※2が2点以下の患者群では脳梗塞の発症抑制とは関連せず、重大な出血の増加と関連すること、一方、CHADS2スコアが3点以上の患者群では重大な出血を増加することなく脳梗塞の発症抑制と関連することを、わが国のレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて明らかにしました。この研究成果は、国際学術誌「European Heart Journal」に、2023年12月20日にオンライン掲載されました。

■背景

心房細動が原因となる脳梗塞は、重症化する傾向があり、要介護状態や死亡につながる場合もあります。心房細動に対する経皮的心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)は、心房細動に対する根治的な治療法として、わが国でも近年多くの患者さんに治療が行われています。カテーテルアブレーションを行うことで、心房細動を根治できる場合も多い一方で、一部の患者で再発がみられることもあります。心房細動においては脳梗塞の発症を抑制するため抗凝固療法が行われますが、ガイドラインでは、カテーテルアブレーション後の抗凝固療法の継続について、脳梗塞のリスクが高い患者には抗凝固療法を継続するメリットがある可能性が示唆されているものの、これまでカテーテルアブレーション後の抗凝固療法の継続の有用性に関する大規模な検討はありませんでした。

■研究方法

本研究では、レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下、NDB)を用いて解析を行いました。NDBは、我が国全体の入院・外来を含むほぼ全ての保険診療を含むデータベースです。本研究では、NDBから、2014年度から2020年度に、心房細動に対する初回のカテーテルアブレーション治療を受けた患者を対象としました。主要エンドポイントは、脳梗塞を含む塞栓性イベント、重大な出血イベントとしました。まず、CHADS2スコアごとの、カテーテルアブレーション後の抗凝固療法の継続率を算出し、次に、CHADS2スコア(1点以下、2点、3点以上)の各群において、6ヶ月時点での抗凝固療法の継続の有無で患者を2群に分け、逆確率重み付け法等を行い背景因子を調整し、その後の主要エンドポイントとの関連について解析を行いました。

■結果

初回の心房細動に対するカテーテルアブレーションを受け、明らかな心房細動の再発を認めない患者のうち、231,374人の患者について解析を行いました。71%の患者が、術後6ヶ月時点で抗凝固療法の継続を受けており、CHADS2スコアの高い群では抗凝固療法の継続率が高い結果でした(図1)。CHADS2スコアが2点以下の患者群では、6ヶ月時点での抗凝固療法の継続は、その後の重大な出血の増加と関連する一方で、脳梗塞の発症抑制とは関連を認めず、一方でCHADS2スコアが3点以上の患者群では重大な出血を統計学的に有意に増加させることなく、脳梗塞の発症抑制と関連することが示されました(図2)。

■今後の展望と課題

本研究から、心房細動に対するカテーテルアブレーション後の抗凝固療法は、術後も多くの患者で長期間継続されているという現状が明らかとなりました。一方で、脳梗塞リスクが低いカテーテルアブレーション後の患者に対する抗凝固療法の継続は、継続による脳梗塞抑制のメリット以上に、重大な出血によるデメリットの方が上回る可能性が示唆され、現行行われている抗凝固療法の継続方針の決定に貢献する重要なエビデンスとなることが期待されます。

■発表論文情報

著者: Koshiro Kanaoka, Taku Nishida, Yoshitaka Iwanaga, Michikazu Nakai, Tonegawa-Kuji Reina, Yuichi Nishioka, Tomoya Myojin, Katsuki Okada, Tatsuya Noda, Kengo Kusano, Yoshihiro Miyamoto, Yoshihiko Saito, Tomoaki Imamura.
題名:  Oral anticoagulation after atrial fibrillation catheter ablation: benefits and risks
掲載誌: European Heart Journal

■謝辞

本研究は、厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)国や都道府県が循環器病対策に関する計画を策定する際に必要な利用可能な指標の設定、及び新型コロナウィルス感染症による循環器病への影響の評価のための研究(22FA1701)、および福田記念医療技術振興財団研究助成事業により支援を受けました。

※1抗凝固療法
血管内や心臓内に血栓が生じることを予防するために、血液が固まることを阻止する薬物療法のこと。

※2 CHADS2スコア
心房細動のある人で、脳梗塞の発症のリスクを評価するためのスコア。0-6点で、点数が高いほど脳梗塞のリスクが高い。

▲(図1)CHADS2スコアごとの心房細動初回カテーテルアブレーション後の抗凝固療法継続率

▲(図2)心房細動初回カテーテルアブレーション後6ヶ月時点での抗凝固療法継続と塞栓性イベント、重大な出血との関連
HR, ハザード比

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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