イカの生き方は誕生日で決まる~雄の繁殖戦術が決定される要因を解明~

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20024-04-24 東京大学

発表のポイント

◆ヤリイカには、雌をめぐって他の雄と戦って繁殖する大型のペア雄と、ペアに割り込み繁殖する小型のスニーカー雄、という異なる繁殖戦術をとる2種類の雄がいます。各雄がどちらの戦術をとるかは、誕生日(孵化日)によって決まることが明らかになりました。
◆孵化日によって繁殖戦術が決定される“誕生日仮説”は、これまで魚類で3例報告されているだけでしたが、この仮説が無脊椎動物においても成り立つことが初めて示されました。
◆誕生日によって繁殖戦術が決まるということは、誕生日付近の環境条件が気候変動等によって変化すると、繁殖戦術、ひいては成熟サイズも変化することを意味します。したがって本研究の成果は、気候変動が海洋生物に与える影響の理解に役立つことが期待されます。

イカの生き方は誕生日で決まる~雄の繁殖戦術が決定される要因を解明~
雄に2つのタイプが見られるヤリイカ

概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の細野将汰大学院生と、大気海洋研究所の岩田容子准教授、河村知彦教授らによる研究グループは、ヤリイカの雄の繁殖戦術が孵化日によって決定されることを明らかにしました。

同種の同性内に複数の繁殖戦術が見られる現象(代替繁殖戦術)は、幅広い分類群で知られています。“誕生日仮説”は、各個体がとる繁殖戦術がどのように決定されるかを説明する仮説として提唱されましたが、実証例はこれまで魚類3例のみでした。今回、大型雄と小型雄という代替繁殖戦術を持つヤリイカで、平衡石(注1)を用いて孵化日を調べたところ、魚類以外でも誕生日仮説が成り立つことが初めて明らかになりました。この成果は、孵化時期の環境条件が気候変動等によって変化すると、繁殖戦術、ひいては成熟サイズも変化することを示しており、気候変動が海洋生物に与える影響を予測する上で役立つことが期待されます。

発表内容

代替繁殖戦術は、同種同性内に形態や行動、生理、生活史の多型を伴う複数の繁殖戦術が見られる現象のことであり、哺乳類や鳥類、魚類、昆虫など、幅広い分類群の多様な種で観察されます。それぞれの個体がどちらの繁殖戦術をとるか、という繁殖戦術決定メカニズムを明らかにすることは、種内多型がどのように進化し、集団中に維持されているかを理解する上で不可欠です。

“誕生日仮説”は、「各個体がどちらの繁殖戦術をとるかは、誕生日の影響によって決定される」という仮説で、進化生態学者Taborsky 博士によって 1998年に提唱されました。繁殖期が長く、その期間に環境条件の季節変化を経験する種では、誕生日によって、生まれてから次の繁殖期までの成長期間や、生まれた直後の成長条件が個体間で異なると考えられます。そして、このような違いは繁殖開始時の成熟サイズ、ひいては繁殖戦術に影響する可能性が考えられますが、実証された例はこれまで魚類3例のみでした。

ヤリイカの雄には、雌をめぐって他の雄と戦った結果雌とペアになって繁殖する大型の“ペア雄”と、闘争を避けペアに割り込み繁殖する小型の“スニーカー雄”、という2つのタイプが見られます。ヤリイカの寿命は1年で、1回の繁殖期が終わると死亡する種であり、雄の繁殖戦術は一度決まると繁殖期の途中では変更されないと考えられています。今回、平衡石(図1、注1)を用いてペア雄とスニーカー雄それぞれの孵化日を調べることにより、誕生日仮説の検証を行いました。その結果、ペア雄は早生まれ、スニーカー雄は遅生まれであることがわかりました(図2)。また、平衡石径を用いたバックカリキュレーション法(注2)により各個体の成長履歴を調べたところ、生まれた時期が異なっても100日齢までの成長には差がなく、成熟期に繁殖戦術間で見られる体サイズの大きな違いは、100日以降に生じていることが明らかになりました。これらの結果から、生活史初期の成長の良し悪しではなく、孵化日に由来する何らかの環境条件が繁殖戦術を決定していると考えられましたが、それがどのような環境要因なのかを明らかにすることは今後の課題となります。


図1:ヤリイカの平衡石の断面。孵化輪から縁辺部までの日輪本数が日齢となる。
図2:孵化日と繁殖戦術の関係。早生まれはペア雄、遅生まれはスニーカー雄として成熟する。観察されたペア雄の孵化日(赤丸)とスニーカー雄の孵化日(青丸)、および各孵化日においてペア雄になる推定確率(曲線)とその信頼区間(グレー)。

本研究は魚類以外で誕生日仮説を実証した初めての報告であり、本仮説が幅広い分類群でも当てはまる可能性を示しました。さらに、生活史の特定の時期の環境条件が個体の繁殖戦術、ひいては成熟サイズを決定することが明らかになったことから、気候変動によって孵化時期の水温等の環境条件が変化すると、集団の成熟サイズ組成を大きく変化させてしまう可能性が考えられます。よって、本研究の成果は、種内で複数の生活史が見られるメカニズムの解明という基礎生物学的意義のみならず、気候変動が海洋生物に与える影響の予測にも役立つことが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院農学生命科学研究科
細野 将汰 博士課程/日本学術振興会特別研究員

大気海洋研究所
岩田 容子 准教授
河村 知彦 教授

宮城県水産技術総合センター
増田 義男 副主任研究員

水産研究・教育機構 水産資源研究所
時岡 駿  研究員

論文情報

雑誌名:Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
題 名:Squid male alternative reproductive tactics are determined by birth date
著者名:Shota Hosono*, Yoshio Masuda, Shun Tokioka, Tomohiko Kawamura, Yoko Iwata
DOI:https://doi.org/10.1098/rspb.2024.0156

研究助成

本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:19H03029)」、ヤンマー資源循環支援機構研究助成、水産資源調査・評価推進委託事業の支援により実施されました。

用語解説
(注1)平衡石
イカ類が頭部に一対持っている炭酸カルシウムを主成分とした硬組織であり、木の年輪のように一日一本の成長輪紋(日輪)が形成されることから、この本数を数えることにより、採集時の日齢、ひいては孵化日を調べることができる。
(注2)バックカリキュレーション法
平衡石の大きさと体サイズとの関係式を用いて、何日齢の時点でどれだけの体サイズであったかを推定する手法であり、各個体の過去の成長を明らかにすることができる。
問合せ先

東京大学 大気海洋研究所 海洋生物資源部門
准教授 岩田 容子(いわた ようこ)

生物環境工学
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