逆境体験が世代を超えて影響を及ぼすメカニズムに関する研究 次世代の良好なメンタルヘルスのためには、教育への支援が重要か?

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2024-06-27 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)研究所 社会医学研究部の榎並公平研究員、加藤承彦室長、東京都立大学子ども・若者貧困研究センターの近藤天之らの研究グループは、逆境体験(本研究では「母親が成人前に自身の両親の離婚を経験したこと」)が次世代の子どものメンタルヘルスにどのように影響するのか、そのメカニズムの理解を目的に研究を行いました。
分析には「広島県子供の生活に関する実態調査」の小学5年生と中学2年生の子ども計9,666人と、その母親[1]のデータを用い、研究を評価する項目である「子どものメンタルヘルス(抑うつ)」は、日本語版子ども用抑うつ自己評価尺度(DSRS-C)を使用しました。また、「母親が成人前に自身の両親の離婚をしたこと」(逆境体験の一つ)と、その子どものメンタルヘルスを繋ぐものとして「母親の教育歴」に注目し、高校卒業までの群と、高校を超える教育歴の群の2つに分類して分析しました。
その結果、「両親の離婚を経験したことがある母親」の子どもは、小学5年生と中学2年生の時点でメンタルヘルスに不調が現れるリスクが1.22倍になることが示されました。
また、母親が両親の離婚を経験すると、母親は高校を超える教育歴を達成する可能性が低くなり、その結果、その子どものメンタルヘルスに影響を与える可能性が示唆されました。[2](表3)
これらのことから、両親の離婚を経験した女性がより高い教育歴を達成できる環境をつくることで、その子どものメンタルヘルスの不調へのリスクを減らせる可能性があると考えらえます。
本研究成果は、国際的な学術誌「Journal of Affective Disorders」に、5月3日に掲載されました。

※本研究は、「両親の離婚を経験した母親」とその子どものメンタルヘルスについて、「母親の教育歴」がどの程度媒介するかを調べたものです。子どものメンタルヘルスの不調は、社会環境による子ども自身のストレスや、学校環境などさまざまな要因が考えられます。

逆境体験が世代を超えて影響を及ぼすメカニズムに関する研究 次世代の良好なメンタルヘルスのためには、教育への支援が重要か?

[1] 本研究では中間的な要因として母親の教育歴のほかに世帯収入および、母親自身のメンタルヘルスを検討しました。検討したモデルの中では母親の教育歴を含むモデルにおいて中間的な要因によって媒介される割合が大きいことが示されました。しかし、今回検討されていない要因の影響も今後さらに検討される必要があります。また、本研究は観察データに基づく研究であり介入研究でないことから、本研究の結果のみで母親の教育歴と子どものメンタルヘルスの間に因果関係があると結論付けることはできず、あくまで可能性を示唆するだけにとどまります。
[2] 今回研究に使用した「広島県子供の生活に関する実態調査」は、子どもへの質問とその子どもの保護者への質問から構成され、また保護者への質問は誰が回答したかが記録されています。子どもと保護者両方からの回答があった約90%において、保護者への質問を母親が回答しているため、今回の分析では母親に限定して分析しました。

プレスリリースのポイント

  • 本研究は、逆境体験がどのように世代を超えて影響を及ぼすのかというメカニズムの検討を目的に行われました。
  • 母親が両親の離婚を経験することと、その子どものメンタルヘルスの不調は、母親の教育歴に関連している可能性が示されました。
  • “両親の離婚を経験したことがある母親”から生まれる子どもは、そうでない子どもと比べて、メンタルヘルスに不調をきたすリスクが1.22倍高いことが分かりました。(表3)
  • 両親の離婚を経験した女性がより高い教育歴(短大・大学など)を達成できる環境をつくれるよう支援をすることで、次の世代のメンタルヘルス不調のリスクを減らせる可能性が考えられます。

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背景・目的

海外の研究では、両親の離婚は子どもの教育やメンタルヘルスなどの面において長期的に影響を与える可能性が報告されています。さらに近年、両親の離婚経験などを含む小児期の逆境体験(Adverse childhood experiences)が、それらを経験した本人だけではなく、自分が親になったときにその子どもの健康や成長に与える影響についての研究も進められています。しかし、こうした逆境体験が次の世代(本人の子どもの世代)にどのような経路で影響するのかは十分に明らかにされていません。
本研究では両親(子どもから見て祖父母世代)の離婚と、子どものメンタルヘルスとの関係をつなぐものとして、教育歴(高校を超える教育歴を達成したかどうか)が持つ役割を検討しました。今回研究に使用した「広島県子供の生活に関する実態調査」は、母親が回答していることがほとんどのため、母親に限定して分析しています。また、海外の疫学研究で親の教育歴と子どものメンタルヘルスとの関連が示されていることから、本研究では教育歴に着目して分析を行いました。

今後の展望・発表者のコメント

本研究においても、逆境体験をもつことが次の世代(自身の子ども)に何らかのリスクを及ぼすことが確認されました。そのリスクをもたらす経路として、母親の教育歴が一定の役割を果たす可能性が示されました。
“両親の離婚を経験するなど逆境体験のある子ども”に対し、教育を受ける機会を確保するための公的な支援が、次の世代にどのような長期的な恩恵をもたらし得るのかをさらに検討する必要があります。
また、他のどのような因子が、世代を超えて子どものメンタルヘルスに影響を与えるのかについても、今後研究を進めていくことが必要です。

発表論文情報

論文タイトル:Mothers’ parental divorce experience in childhood and their children’s mental health: Mediating role of maternal education
雑誌名:Journal of Affective Disorders
著者: 榎並公平1、近藤天之2、梶原豪人3、川口遼4、加藤承彦1
所属:
1) 国立成育医療研究センター社会医学研究部
2) 東京都立大学子ども・若者貧困研究センター
3) 福山平成大学福祉健康学部
4) 東京都立大学人文科学研究科
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165032724007213

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本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

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