2024-10-10 早稲田大学
発表のポイント
- 東京科学大学の室伏広治特命教授(本研究代表者)が開発した身体運動機能の自己評価法であるKoji Awarenessテスト(KA)(用語1)のスコアは加齢に伴い低下することが明らかになりました。
- また、加齢に伴うKAのスコアの低下は49.1歳を境に急激に低下することを突き止めました。
- KAのスコアを用いることで、加齢に伴う運動機能の低下を把握できることから、アスリートのみならず多くの方に広く普及できる可能性があります。
概要
東京科学大学の室伏広治特命教授の研究グループは、獨協医科大学 埼玉医療センター、早稲田大学スポーツ科学学術院の金岡恒治教授、苑田会苑田第三病院と共同して、KAスコアと年齢の間の関連と49.1歳を境にKAテストの総スコアが急激に低下することを明らかにしました。本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)、課題名:予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(健康・医療情報活用技術開発課題)の補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Scientific Reportsに、2024年8月14日に公表されました。
背景
超高齢化が進んでいる日本において、人生100年時代をその人らしく生き抜くためには、加齢に伴う運動機能の低下を予防することが非常に重要です。加齢に伴った運動機能の低下は多くの報告で明らかになっていますが、運動機能を簡便に評価できるKAのスコアと年齢との関連を分析した報告はありませんでした。そこで、KAのスコアと年齢の関連を明らかにすること、さらにKAのスコアが急激に低下する年齢を明らかにすることを目的に本研究を実施しました。
研究成果
上記のような背景と目的を踏まえ、本研究では、723名(女性523名、男性209名)を対象にKAの総スコアを算出しました。併せて、得られたスコアから、上半身と体幹、下肢の部位に分けてスコアを算出しました。そのうえで、各スコアと年齢の関連と、急激に低下する年齢を分析しました。
その結果、年齢とKA総スコア、および各パートのスコアの間には負の相関関係を認めました(表1)。加えて、KA総スコアは、49.1歳を境に急激に低下することが明らかとなりました(図1)。また、性別の違いによる各パートのスコアの低下については、女性において上半身のスコアが男性よりも急激に低下することが明らかになりました(図2)。
表1:年齢と、KAスコアと各部位のスコアとの関連(UEパートは上半身、LEは下半身パターンを示す)
図1:男女別における年齢とKAスコア関連とKAスコアが低下する変曲点の推定
図2:性別ごとの加齢に伴う部位別スコアの低下の違い(左:上半身、中:体幹、右:下半身)
今後の展開
KAのスコアと年齢の関連を明らかにした研究は、本研究が初めてです。本研究の結果から、運動機能は性別にかかわらず、加齢に伴って低下し、49.1歳を境に急激に低下することが明らかとなりました。また、パート別にスコアを計測することによって、年齢に伴う運動機能の低下が生じている部位を把握することができる可能性が示されました。そのため、KAのスコアは、性別かかわらず幅広い年代で、広く普及できる可能性があります。また、KAのスコアを定期的に計測し、スコアの低下を認めた場合には加齢に伴う運動機能の低下が示唆されるため、KAのスコアから運動機能の低下を改善するためのエクササイズを実施することの根拠となる可能性があります。その点で、未病の人が、サルコペニアやロコモティブシンドローム等の運動器(用語2)の障害へ進展しないための予防策にもなりうる点から、将来的な医療・介護費の軽減の一助となる可能性があります。
用語説明
(1)Koji Awarenessテスト:特別な道具を使用しない、誰でも手軽に行うことができる、運動機能に対するセルフ・スクリーニングテスト。テストは11の項目からなり、スコアは項目のスコアを合算。スコアが高いほど運動器の機能が良好であることを示す。
(2)運動器:身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称のこと。
論文情報
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Exploring age‑related changes in motor function: insights from the peak decline found in Koji Awareness screening test
著者:Koji Murofushi, Hiroki Katagiri, Sho Mitomo, Kenji Hirohata, Hidetaka Furuya, Ryoichi Hanazawa, Akihiro Hirakawa, Kazuyoshi Yagishita & Koji Kaneoka
DOI: 10.1038/s41598-024-69971-7