高性能ペロブスカイト量子ドットLEDを開発

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外部量子効率20%を超える高効率と高色純度の赤色発光を実現

2018-10-02 山形大学,科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 次世代発光材料のペロブスカイト量子ドットを用いたLEDへの応用と高性能化が注目を集めています。
  • 赤色LED用としては初めて、「ハロゲンアニオン交換法」による材料製法を開発し、ペロブスカイト量子ドットLEDで初めて20%を超える高い外部量子効率と非常に高い色純度を実現しました。
  • 高い色再現性が求められるディスプレイや照明など、次世代型発光デバイスへの応用が期待されます。

山形大学 学術研究院の千葉 貴之 助教、城戸 淳二 教授らは、ペロブスカイト量子ドット注1)の新たな製法を開発し、ペロブスカイト量子ドットLEDで世界最高水準の外部量子効率注2)20%を超える発光効率を実現しました。

山形大学では次世代型発光デバイスの開発に向け、ペロブスカイト量子ドットに電荷を注入して発光させる、「ペロブスカイト量子ドットLED」(LED=発光ダイオード)の研究を進めています。今回開発した製法は、ハロゲンアニオン交換注3)という方法で、結晶構造が安定なCsPbBrというペロブスカイト材料の一部を液中で置換することにより、発光波長や発光効率が異なる、CsPb(Br/I)を合成する方法です。本製法により、発光色を緑色から深赤色へ大きくシフトさせると同時に、この材料を用いた赤色ペロブスカイト量子ドットLEDで、21.3%と非常に高い外部量子効率を得ることに成功しました。

また、色度座標では(0.72,0.28)という非常に色純度の高い赤色発光を得ることができました。これは高い色再現を目指した、超高精細度テレビジョン(UHDTV)の国際規格(BT.2020)注4)の範囲をカバーするものです。

今後、本材料系のさらなる高性能化により、ディスプレイや照明への応用が期待されます。

本研究成果は、Nature Publishing Groupが発行する「Nature Photonics」に掲載されます。

山形大学では、科学技術振興機構(JST)が推進するセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「フロンティア有機システムイノベーション拠点」の中核機関として、大日本印刷株式会社など24の参画機関と共に、有機EL(照明、ディスプレイ)、有機太陽電池、有機トランジスタ(集積回路、生体センサー)、生体親和性材料などの実用化に向けた研究開発を行い、それらの技術を利用したシステムの構築により「未来の心豊かで快適・健康な生活・社会を実現する」ことを目指しています(https://yucoi.yz.yamagata-u.ac.jp/)。

<背景・経緯>

量子ドットとは、数ナノメートル(nm)から数十ナノメートル(1ナノメートル=1ミリメートルの百万分の1)の小さな結晶構造をした材料です。次世代材料として注目され、材料や結晶のサイズを変えることで光吸収の波長が変化し、高い色純度を実現できることから、これまでカラーフィルターなどへの応用が検討されてきました。

ペロブスカイト量子ドット(CsPbX,X=Cl,Br,I)は、高い発光量子効率とシャープな発光スペクトルを示すことから、有機EL材料やカドミウム系量子ドットに替わる次世代型発光デバイス(LED)材料として注目を集めています。ペロブスカイト量子ドットの最大の特徴は、量子ドットの結晶サイズやハロゲンアニオンによる発光波長の制御が容易なことです。無機ナノ結晶のペロブスカイト量子ドット表面を有機アルキル配位子で被覆することで、有機溶媒中に分散するため、塗布印刷プロセスによるデバイス作製が可能になります。

現在、臭素アニオンからなる緑色発光性CsPbBrを用いたペロブスカイト量子ドットLEDの高性能化が重点的に研究されています。一方で、赤色発光を示すCsPbIは、結晶構造が不安定であることから、LEDへの応用および高性能化が困難であるとされていました。

山形大学では、量子ドットの発光材料としての可能性に着目し、量子ドットに電荷を注入して発光させる「量子ドットLED」(LED=発光ダイオード)の研究開発を進めています。特に、ペロブスカイト材料を用いた量子ドット(例:CsPbX,X=Cl,Br,I)は、液中で高い発光量子効率とシャープな発光スペクトルを示すことから、次世代発光材料として、ディスプレイや照明への応用を期待しています。しかし、赤色発光を示すペロブスカイト量子ドット組成(CsPbI)は結晶構造の安定性に課題があり、これまで高性能なLEDへの適用が困難でした。

<研究手法・研究成果>

本研究では、ペロブスカイト量子ドットのハロゲンアニオン交換による発光波長の制御に着目しました。ハロゲンアニオン交換により、緑色から赤色に発光波長を変換したペロブスカイト量子ドットを開発し、赤色ペロブスカイト量子ドットLEDの高性能化に成功しました。

本研究では、安定性の高い緑色ペロブスカイト量子ドット(CsPbBr)にヨウ素(I)を含むアンモニウム塩を加え、臭素(Br)アニオンの一部をヨウ素アニオンに置換するハロゲンアニオン交換を行うことで、ハロゲンアニオンが混合したCsPb(Br/I)を開発し、LEDへと応用しました。ハロゲンアニオンを混合することで、発光波長が緑色(508nm)から赤色(649nm)へと変換されました。また、アンモニウム塩の種類によってペロブスカイト量子ドットの配位子状態が異なることを明らかにしました。

ハロゲンアニオン交換した赤色ペロブスカイト量子ドットLEDは、赤色では世界最高水準の外部量子効率21.3%を達成しました。

まず、金属化合物を高温溶媒へ急速に投入するホットインジェクション法により、緑色ペロブスカイト量子ドットCsPbBrを合成しました。これに、ヨウ素含有のアンモニウム塩を添加することで、ハロゲンアニオン交換を行いました(図1)。アンモニウム塩は、アルキルアンモニウム塩としてオレイルアミンヨウ素(OAM-I)、アリールアンモニウム塩(An-HI)としてアニリンヨウ酸塩を用いました。

ハロゲンアニオン交換前のCsPbBrは、発光波長508nmの緑色発光を示すのに対し、OAM-I添加では649nm、An-HI添加では644nmと発光波長が長くなったことを確認しました(図2a)。

X線光電子分光法によるペロブスカイト量子ドットの化学組成解析により、CsPbBrには存在していなかったヨウ素のスペクトルが現れ(図2b)、同時に臭素のスペクトル強度が低下することから、臭素の一部がヨウ素に置換されていることを確認しました(図2c)。また、ハロゲンアニオン交換前のCsPbBrでは、鉛:臭素の元素比が1:2.78となることから、ペロブスカイト量子ドット内のハロゲンアニオン欠陥が示唆されました。これに対し、ハロゲンアニオン交換後の元素比は、OAM-Iで1:3.00、An-HIでは1:2.94となり、ペロブスカイト量子ドットのハロゲンアニオン欠陥が補填されていることが確認できました。さらに、アニオン欠陥を補填することで、発光量子効率を大幅に向上することも明らかにしました。

最後に、ペロブスカイト量子ドットLEDを作製し(図3a)、ハロゲンアニオン交換前後でデバイス特性を比較しました。ハロゲンアニオン交換前では、発光開始電圧5.6Vと発光波長511nmに対し、OAM-Iでは2.8Vと653nm、An-HIは2.7Vと645nmとなり、低電圧化および長波長化に成功しました。色度座標ではOAM-Iで(0.72,0.28)、An-HIで(0.71,0.28)という非常に色純度の高い赤色発光を示し、国際規格(BT.2020)を十分に満たすことができました(図3b)。

ハロゲンアニオン交換したペロブスカイト量子ドットLEDの外部量子効率は、OAM-Iで21.3%、An-HIで14.1%をそれぞれ達成し、ハロゲンアニオン交換前の0.17%から飛躍的な高性能化を実現しました(図3c)。さらに、ペロブスカイト量子ドット表面の配位子量と耐久寿命特性の相関を明らかにし(図3d)、耐久性向上に向けて新たな課題も示されました。

<今後の展望>

本研究では、ペロブスカイト量子ドット材料の新たな製法を開発し、ペロブスカイト量子ドットLEDの高性能化に成功しました。本研究により、ペロブスカイト量子ドットのハロゲンアニオン交換が発光波長の制御と発光量子効率の向上に寄与することを明らかにしました。開発した製法により、高度な化学組成および配位子制御が可能となり、より高効率で高色純度のペロブスカイト量子ドット材料の開発が加速されます。

今回の研究成果をもとに、薄膜状態におけるペロブスカイト量子ドットの化学組成および表面配位子の精密な制御を進め、さらなる高性能化に向けたデバイス開発指針を確立することで、ディスプレイや照明用途への展開が期待されます。今後は、ペロブスカイト量子ドットLEDの耐久性向上に向けた検証を進めていく予定です。

<参考図>

高性能ペロブスカイト量子ドットLEDを開発

図1 ホットインジェクション法によるペロブスカイト量子ドットの合成とヨウ素含有アンモニウム塩を利用したハロゲンアニオン交換

図2

図2

ハロゲンアニオン交換前後での

(a)発光スペクトル

(b)X線光電子分光スペクトル(ヨウ素3d)

(c)X線光電子分光スペクトル(臭素3d)

図3

図3

(a)ペロブスカイト量子ドットLEDの構造

(b)色度座標

(c)外部量子効率特性

(d)耐久寿命特性

<用語解説>
注1)ペロブスカイト量子ドット
ペロブスカイト構造CsPbX(X=Cl,Br,I)を有する10nm程度のナノ結晶材料。ハロゲンアニオン(X)を変えることで発光波長を制御できるため、ディスプレイや照明への応用が期待されています。
注2)外部量子効率
投入エネルギーあたりの、デバイスの外部に取り出せた光の割合で、発光性能の指標となる値です。緑色および赤色ペロブスカイト量子ドットLEDの外部量子効率は10%を超える値が報告されています。
注3)ハロゲンアニオン交換
緑色ペロブスカイト量子ドットCsPbBrに塩素(Cl)やヨウ素といったハロゲンのアニオン(陰イオン)を添加し、臭素の一部を置換することで、発光波長を容易に制御する技術です。
注4)超高精細度テレビジョン(UHDTV)の国際規格(BT.2020)
ハイビジョン(HDTV)の次、4K・8K放送に対応する規格として定められたものです。色再現範囲も大幅に拡大し、表色系(CIE 1931)のパラメーターとしては、R(0.708,0.292)、G(0.170,0.797)、B(0.131,0.046)などの色度座標が定められました。
<論文情報>

タイトル:“Anion-exchange red perovskite quantum dots with ammonium-iodine salts for highly efficient light-emitting devices”

DOI:10.1038/s41566-018-0260-y

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

千葉 貴之(チバ タカユキ)
山形大学 学術研究院 助教(有機・無機ハイブリッドエレクトロニクス)

城戸 淳二(キド ジュンジ)
山形大学 学術研究院 教授(有機エレクトロニクス)

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部 COIグループ

<報道担当>

山形大学 総務部 広報室

科学技術振興機構 広報課

有機化学・薬学
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