サルがヒトと同様の身体姿勢の知覚様式をもつことを解明しました

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2018/10/15  京都大学,法政大学

藤田和生 文学研究科教授と松野響 法政大学准教授は、ヒト以外の霊長類であるフサオマキザルがヒトと同じように、他者の顔や身体を視覚的に識別する際にその顔や身体の画像を上下さかさまにして見せられると識別が難しくなる現象「身体の倒立効果」を示すことを明らかにしました。

本研究成果は、2018年10月11日に米国の国際学術誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント
身体の知覚認識は、社会的なコミュニケーションを支える重要な機能の一つとして近年の心理学の中で大きな注目を集めています。ヒトと身体的な制約の異なるヒト以外の動物が、どのような知覚認知上の制約を共有し、またどのような種固有の認識様式があるのかを知ることで、私たちの社会的な認知機能の進化的な起源を探っていくことができればと考えています。

概要

倒立効果は、私たちヒトが顔や身体を各パーツの特定の空間配置(頭の下に胴、胴の下に足、という空間配置の制約)に基づいて統合的に知覚していることの証拠であると考えられています。このような他者身体の知覚認識の様式が、直立二足歩行をするヒトに固有のものであるのか、四足で行動するヒト以外の動物とも進化的に共有されたより普遍的な知覚様式であるのかについては、これまで明らかではありませんでした。

本研究では、フサオマキザルがヒトと同様に、二足で直立するヒト身体画像の識別に際して身体の倒立効果を示すことを、フサオマキザル4個体とヒト22人を対象とした「見本合わせ課題」(最初に見た身体画像と同じ画像を選択すれば正解、異なる姿勢の画像を選択すれば不正解)によって示しました。本研究成果は、四足歩行をするヒト以外の動物が、ヒトと同様に身体の統合的な視知覚情報処理をしていることを示し、そのような知覚様式の進化的な起源が約4000万年前にまでたどりうることを示唆するものです。

図:フサオマキザルは、人と同様に身体の「倒立効果」を示す

 

サルがヒトと同様の身体姿勢の知覚様式をもつことを解明

概要

 京都大学大学院文学研究科 藤田和生 教授と法政大学経済学部 松野響 准教授は、ヒト以外の霊長類である フサオマキザルが、ヒトと同じく身体の倒立効果を示すことを明らかにしました。倒立効果とは、他者の顔や 身体を視覚的に識別する際に、その顔や身体の画像を上下さかさまにして見せられると識別が難しくなるとい う現象を指します (下図)。この効果は、私たちヒトが顔や身体を各パーツの特定の空間配置 (頭の下に胴、胴 の下に足、という空間配置の制約)に基づいて統合的に知覚していることの証拠であると考えられています。 これまでは、このような他者身体の知覚認識の様式が、直立二足歩行をするヒトに固有のものであるのか、四 足で行動するヒト以外の動物とも進化的に共有されたより普遍的な知覚様式であるのかについては、明らかで はありませんでした。本研究では、フサオマキザルが、ヒトと同様に、二足で直立するヒト身体画像の識別に 際して、身体の倒立効果を示すことを行動実験によって示しました。これは、四足歩行をするヒト以外の動物 が、ヒトと同様に身体の統合的な視知覚情報処理をしていることを示し、そのような知覚様式の進化的な起源 が約 4000 万年前にまでたどりうることを示唆するはじめての研究報告です。

  本成果は、2018 年 10 月 11 日に国際学術誌「PLOS ONE」にオンライン掲載されました。


図. フサオマキザルは、人と同様に身体の「倒立効果」を示す

1.背景

  社会的な動物であるヒトにとって、他者の顔や身体姿勢を見ることで得られる視覚情報は、他者とのコミュ ニケーションの基礎となる重要な情報です。それゆえ、私たちヒトは、顔や身体といった社会的な視覚情報を、 他の非生物的な視覚情報とは異なる特別な知覚方略によって識別していることが、これまでの研究において示 されてきました[1-3]。異なる知覚方略とはすなわち、通常の物体の識別が部分ごとの色や形の違いにもとづ いておこなわれるのに対して、顔や身体情報は、目や口の形、腕や足の形といった個々の部位の特徴の違いで はなく、それら部位の間の相対的な位置関係によって見分ける統合的な視知覚認識がおこなわれていることを 指します。

 その証拠として、顔や身体を見分ける場合に、 「倒立効果」と呼ばれる現象が生じることが知られています。 倒立効果とは、顔や身体形態を 180 度回転させた場合に、他のものを回転させた場合に比べてその識別が極端 に困難になる効果を指します。私たちは、顔や身体を、目の下に鼻、鼻の下に口、というような固定的な空間 配置の制約のもとで統合的に知覚しているため、上下が反転してその空間配置がくずれると、認識が途端に難 しくなるというわけです。  

  ヒトとヒト以外の霊長類との間で、目の下に鼻があり、鼻の下に口がある、という顔の基本構造は共通して おり、顔の認識のメカニズムが進化的に共有されていることについては妥当性があります。実際、顔の統合的 な知覚様式はヒトとヒト以外の霊長類の間で共通していることが報告されています[4]。一方、身体姿勢に関 しては、ヒトとヒト以外の霊長類との間に種差があります。ヒトは直立二足歩行の身体姿勢をその基本姿勢と しており、そのため、頭部の下に胴体、胴体の下に足、という空間配置の基本制約があります。一方、四足歩 行をするヒト以外の動物にはそのような制約は共有されていません。それゆえに、現在ヒトに備わっている統 合的な身体姿勢の知覚様式が、直立二足歩行というヒトの特異な身体の基本姿勢に固有のものなのか、他の動 物とも共有された進化的に普遍的な知覚様式なのかを調べることは興味深い問いになります。

2.研究手法・成果

 ヒトとヒト以外の霊長類の他者姿勢の知覚様式を比較するために、フサオマキザル4個体とヒト 22 人を対象に、見本合わせ課題と呼ばれる視 覚弁別課題 (図 1: 最初に見た身体画像と同じ画像を選択すれば正解、異 なる姿勢の画像を選択すれば不正解)をもちいて、身体姿勢の識別能を調 べました。頭部を上にした正立の身体画像の識別と、頭部を下にした倒立 の身体画像の識別を比較すると、フサオマキザルはヒトと同様に、倒立画 像の識別に比べて正立画像の識別をより正確におこなうことができまし た( 図 2)。

 手や足だけの画像や、頭部や腕、足の位置を本来あるべき位置から入れ 替えた画像をもちいた統制実験では、画像の向きによる正答率の顕著な 違いは見られないことから、上記のような倒立効果は、個々のパーツの見分けやすさが向きによって異なるこ とによって生じるわけではなく、手足、胴体、頭部が正しく配置された画像をその空間配置にもとづいて認識 していることによって生じる効果であると考えられます。

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