「LC-SCRUM-Japan」の研究成果に基づいて、肺がんのマルチ遺伝子診断法が承認

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2019-02-27  国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、略称:国がん)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)は、呼吸器内科長後藤功一が研究代表者となり、2013年より多施設共同研究として全国肺がん遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Japan」を実施中であり、これまで様々な新規分子標的薬や遺伝子診断薬の開発に貢献してきました。今回、サーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループ ライフテクノロジーズジャパン株式会社からの委受託研究として、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いた遺伝子診断システム(「オンコマイン Dx Target Test マルチCDxシステム」)の臨床性能評価を、LC-SCRUM-Japanに蓄積された検体、遺伝子解析データを活用して行い、その結果に基づいて、本診断システムが複数の遺伝子の診断法として厚生労働省から追加承認されました。

現在の肺がん診療では、分子標的治療の対象となる複数の遺伝子を各々個別に検査しており、本診断システムも、これまでBRAF遺伝子変異のみの診断法として承認されていました。今回の追加承認によって、進行肺がんから採取した微量検体を用いて複数の遺伝子を同時に、かつ迅速に診断すること、すなわちマルチ遺伝子診断が可能となりました。この結果、肺がん患者さんに有効な治療薬をより早く確実に届けることが可能となり、肺がんにおける最適な医療(プレシジョンメディシン)がさらに推進されていくと考えられます。

なお、今回の追加承認に基づいて、今後、マルチ遺伝子診断法として本診断システムの保険償還が検討される予定です。

研究の背景

日本における死因の第1位はがんであり、その中で肺がんはがん死亡原因として最多です。肺がんに罹患した患者さんの約2/3の患者さんが手術不能の進行がんとして発見され、抗がん剤による薬物治療や放射線治療などを受けています。しかし、その治療効果は充分ではなく、より有効な新しい診断法、治療法の開発が必要とされています。

そのような中で、近年の遺伝子解析技術の進歩により、肺がん発症の原因となる様々な遺伝子異常が相次いで発見され、これらの遺伝子異常を有する肺がんには、遺伝子異常を標的とした分子標的薬の治療効果が非常に高いことがわかってきました。既に治療薬が承認されているEGFRやALKといった遺伝子異常に加え、最近では、ROS1やBRAFという遺伝子に異常のある肺がんにも、それぞれ有効な分子標的薬が承認され、現在、進行肺がんの治療開始前には、遺伝子検査によってこれらの遺伝子異常を診断することが必須となっています。

これまでの遺伝子診断法は、個々の遺伝子をひとつずつ検査する“1遺伝子1検査”の方法が用いられてきましたが、この方法で複数の遺伝子を診断するには、多くの時間と検体量が必要であるため、全ての遺伝子異常を確認する前に、従来の薬物療法を開始しなければならない場合が多々見受けられます。このため、現在の肺がん診療ではこれらの遺伝子を、より早く、より少量の検体で診断する方法が求められていました。

研究概要

LC-SCRUM-Japanでは、全国から約260施設の参加のもと、これまでの6年間で7000例を超える肺がん患者さんの遺伝子解析を実施してきました。この大規模な遺伝子解析データを基に、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いた遺伝子診断システム(「オンコマイン Dx Target Test マルチCDxシステム」)の臨床性能評価を行ったところ(図1)、本診断システムは、複数の肺がん標的遺伝子について、極めて良好な診断性能を有していることが示されました。この結果に基づいて、この度、本診断システムの適応が追加承認され、これまでのBRAF遺伝子に加えて、EGFR、ALK、ROS1の遺伝子診断が可能となり、表1に示す8種類の分子標的薬における治療適応を同時に判定することができるようになりました。

イメージ図

図1:現行の遺伝子検査と、マルチ遺伝子検査の検出性能の比較

表1. オンコマイン Dx Target Test マルチCDxシステムによって診断する遺伝子異常と対応する分子標的薬

EGFR遺伝子変異
ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ

ALK融合遺伝子
アレクチニブ、クリゾチニブ

ROS1融合遺伝子
クリゾチニブ

BRAF遺伝子変異
ダブラフェニブ+トラメチニブ併用

今後の展望

今回の本診断システムの追加承認によって、これまで多くの検査時間と検体量を使いながら、ひとつずつ診断してきた複数の標的遺伝子を、一度の解析で同時に診断することが可能になり、より迅速に、かつ多くの患者さんに有効な治療薬(分子標的治療薬)を届けることが出来るようになります。今後も、LC-SCRUM-Japanは、全国の参加施設や肺がん患者さんの協力のもと、大規模な遺伝子解析データや臨床データの蓄積によって、新しい遺伝子診断法や新しい治療薬の開発を推進し、肺がんの最適医療(プレシジョンメディシン)の確立に挑戦していきます。

本研究への支援

日本医療研究開発機構 革新的がん医療実用化研究事業

「RET融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺癌に対する新規治療法の確立に関する研究」

「未来のがん診療に資する革新的技術を導入したバイオマーカー測定の有用性を評価する大規模前向き観察研究」

LC-SCRUM-Japan

LCSCRUM

LC-SCRUM-Japan(代表:東病院呼吸器内科長 後藤功一)は、国立がん研究センターが全国の医療機関、製薬企業と協力して実施している遺伝子スクリーニング事業です。2013年より、肺がん患者さんを対象に、治療標的遺伝子のスクリーニングを継続しており、2019年1月末までに7000名以上の患者さんが登録されています。肺がんの個別化医療の確立を目指して、アカデミアと産業界が一体となって、新規の治療薬や診断薬の開発を推進しています。

LC-SCRUM-Japanホームページ http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/lc_scrum/index.html

報道関係からのお問い合せ先

国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

医療・健康生物工学一般細胞遺伝子工学
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