飲酒により食道がんが多発する機序の解明~食道発がんに重要な3因子の同定~

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2025-02-14 京都大学

近藤雄紀 医学研究科特別研究学生、大橋真也 医学部附属病院特定准教授、武藤学 医学研究科教授らの研究グループは、食道がんの発生機序を解明する重要な研究成果を発表しました。

WHO(世界保険機関)は、健康によいアルコール摂取量はないとし、わが国でも、食道がんの発生を抑えるアルコールは「ゼロ」とされています。また、WHOの下部組織IARC(世界がん研究機関)は、アルコール飲料に含まれるエタノール代謝産物アセトアルデヒドを明らかな発がん物質としています。食道がんは世界でアジア地域に特に多く発生しますが、この理由は日本人を含むアジア人に、アセトアルデヒドの代謝能の低い不活性型2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)を有する人が多いからと考えられています。さらに、食道がんは多発すること(フィールドがん化現象)が知られていますが、この現象がなぜ発生するかはこれまで不明でした。本研究では、この病態を再現するために、ALDH2機能低下と食道特異的ながん抑制遺伝子TP53機能欠失を有する動物モデルを作製し、長期のアルコール投与を行うことで食道がんが多発することを世界で初めて科学的に実証することに成功しました。本研究により、(1)アルコール飲酒、(2)ALDH2機能低下、(3)がん抑制遺伝子TP53の機能欠失が食道発がんに重要な3因子であり、食道におけるフィールドがん化現象の原因となることが明らかになりました。

本研究は、今後の食道発がん予防法を開発するために重要な知見となることが期待されます。

本研究成果は、2025年2月6日に、国際学術誌「Journal of Gastroenterology」にオンライン掲載されました。

飲酒により食道がんが多発する機序の解明~食道発がんに重要な3因子の同定~

研究者のコメント

「アルコール摂取、ALDH2機能低下、TP53変異が食道扁平上皮がんの原因になることは、これまでの疫学的な研究で明らかにされてきましたが、動物実験モデルでそれを再現することはできませんでした。本研究で、この3因子が食道発がんのみならず、扁平上皮がんが多発するフィールドがん化現象の機序を解明したことは、難治性である食道がんの予防や早期発見につながるとともに、治療後の再発予防としての禁酒指導にも役立つと期待できます。WHOは、危険な飲酒を避ける啓発活動を進めており、各国にその対策を求めています。本成果は、食道がん予防に関する禁酒、節酒の重要性を示すものであり、今後、教育や啓発活動など、国の健康医療政策にも反映してほしいと願っています。」(武藤学)

詳しい研究内容について

飲酒により食道がんが多発する機序の解明―食道発がんに重要な3因子の同定―

研究者情報

研究者名:大橋 真也
研究者名:武藤 学

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1007/s00535-024-02210-y

【書誌情報】
Yuki Kondo, Shinya Ohashi, Chikatoshi Katada, Yukie Nakai, Yoshihiro Yamamoto, Masashi Tamaoki, Osamu Kikuchi, Atsushi Yamada, Kenshiro Hirohashi, Yosuke Mitani, Shigeki Kataoka, Tomoki Saito, Trang H. Nguyen Vu, Tomohiro Kondo, Yu Uneno, Tomohiko Sunami, Akira Yokoyama, Junichi Matsubara, Tomonari Matsuda, Seiji Naganuma, Kohei Oryu, Flashner, Samuel P, Masataka Shimonosono, Hiroshi Nakagawa, Manabu Muto (2025). Aldh2 and the tumor suppressor Trp53 play important roles in alcohol‑induced squamous feld cancerization. Journal of Gastroenterology.

医療・健康
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